カゲナシ*横町 拍手御礼小説1



拍手 ありがとうございました!!
御礼の拍手小説は、全五種類です。お楽しみいただけたら幸いです。






雨が好きだと言ったのは誰だったか



ふと、視線を空へ向けた。ぱたぱたと、細やかな雨粒たちが窓硝子を叩き、弾かれ、流れていく。


「・・・・」


俺は濡れた硝子越しに、歪んで見える灰色の雲を睨みつけた。
あまり、雨は好きじゃない。


「へぇ、なんでだい?」


その言葉に、俺は勢いよく振り返った。そこには予想通り、満面の笑みを浮かべた同僚が立っていた。
いや、この男を同僚だとも思いたくはない。むしろ人間とも。全力で距離を置きたい。というかなんで・・・・。


「いや、君も案外分からないんだね。思いっきり口からダダ漏れてたよ? 雨なんぞ大ッ嫌いだ、って」

「とりあえず、黙ってろ」


俺は抱えていた書類をすべて左手に持ち替えて、右手を腰の警棒にやった。本当ならば剣が一番手っ取り早いのだが、先日のミスのせいで剥奪中である。


「ずいぶんピリピリしてるねぇ。ま、僕も仕事あるし? 今日のお遊びはこのくらいで」


そう言って、コイツはくすくす笑いながら俺の脇を通り過ぎていった。その際、ぽんと肩に手を置かれる。
俺はやや呆然と、その場に突っ立っていた。あの男の口から、仕事なんぞという言葉は久々に聞いた。しかも、今現在あの男のもとにたまっているであろう仕事は、どれもこれも普段俺が肩代わりしている書類ばかりのはずだ。


「・・・・気を、使われた?」


あり得ない、俺は何度も頭の中でくり返す。俺はそこまでひどい状態だろうか。
そこで、書類をとっとと目的の部屋にいた隊員に押しつけて、俺はまた窓から外の景色を見た。
歪みきった、濁った色の世界。そして、鏡のようになった硝子に映る俺の姿。


「ずいぶん、白くなったな。で、伸びたな」


俺は自分の髪をつまみ上げ、じっと睨んだ。再度窓硝子を見てみると、いやにはっきりとこの白が目立つ。
昔、自分はどんな髪の色をしていたのだったろう。
そういえば、どうして、雨が嫌いなのだろう。


「・・・・ああ」


思い出して、俺はため息をついた。別に思い出すようなことでもない、どうでもいい記憶だった。
髪の色は、瞳の色と同じだった。
雨が嫌いなのは、あの女が好きだ好きだと言い続けていたから。

だから、どちらも嫌になった。


「ガキ臭」


そう言って、俺は窓から離れた。普段から無表情を貫いている顔の筋肉で、滅多に使われない部分が引きつっていた。
笑っている。あの女を思い出したのだから、絶対眉間にしわができるものとばかり思っていたのに。


(嫌いじゃ、なかったのかもな)



毎度のこと、自分のことにはとんと疎い・・・・という自覚だけあるぶん、マシかもしれない。



『STRANGE』 カッティオ・クレイグ


(08/12/27〜09/03/03)
お題配布もと:テオ