ふと、視線を空へ向けた。ぱたぱたと、細やかな雨粒たちが窓硝子を叩き、弾かれ、流れていく。 「・・・・」 俺は濡れた硝子越しに、歪んで見える灰色の雲を睨みつけた。 あまり、雨は好きじゃない。 「へぇ、なんでだい?」 その言葉に、俺は勢いよく振り返った。そこには予想通り、満面の笑みを浮かべた同僚が立っていた。 いや、この男を同僚だとも思いたくはない。むしろ人間とも。全力で距離を置きたい。というかなんで・・・・。 「いや、君も案外分からないんだね。思いっきり口からダダ漏れてたよ? 雨なんぞ大ッ嫌いだ、って」 「とりあえず、黙ってろ」 俺は抱えていた書類をすべて左手に持ち替えて、右手を腰の警棒にやった。本当ならば剣が一番手っ取り早いのだが、先日のミスのせいで剥奪中である。 「ずいぶんピリピリしてるねぇ。ま、僕も仕事あるし? 今日のお遊びはこのくらいで」 そう言って、コイツはくすくす笑いながら俺の脇を通り過ぎていった。その際、ぽんと肩に手を置かれる。 俺はやや呆然と、その場に突っ立っていた。あの男の口から、仕事なんぞという言葉は久々に聞いた。しかも、今現在あの男のもとにたまっているであろう仕事は、どれもこれも普段俺が肩代わりしている書類ばかりのはずだ。 「・・・・気を、使われた?」 あり得ない、俺は何度も頭の中でくり返す。俺はそこまでひどい状態だろうか。 そこで、書類をとっとと目的の部屋にいた隊員に押しつけて、俺はまた窓から外の景色を見た。 歪みきった、濁った色の世界。そして、鏡のようになった硝子に映る俺の姿。 「ずいぶん、白くなったな。で、伸びたな」 俺は自分の髪をつまみ上げ、じっと睨んだ。再度窓硝子を見てみると、いやにはっきりとこの白が目立つ。 昔、自分はどんな髪の色をしていたのだったろう。 そういえば、どうして、雨が嫌いなのだろう。 「・・・・ああ」 思い出して、俺はため息をついた。別に思い出すようなことでもない、どうでもいい記憶だった。 髪の色は、瞳の色と同じだった。 雨が嫌いなのは、あの女が好きだ好きだと言い続けていたから。 だから、どちらも嫌になった。 「ガキ臭」 そう言って、俺は窓から離れた。普段から無表情を貫いている顔の筋肉で、滅多に使われない部分が引きつっていた。 笑っている。あの女を思い出したのだから、絶対眉間にしわができるものとばかり思っていたのに。 (嫌いじゃ、なかったのかもな) 毎度のこと、自分のことにはとんと疎い・・・・という自覚だけあるぶん、マシかもしれない。 『STRANGE』 カッティオ・クレイグ (08/12/27〜09/03/03) お題配布もと:テオ |