カゲナシ*横町 拍手御礼小説3



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日が出るまで待とうか



俺は、窓の木枠をがっちりと掴んだまま、窓の向こうの景色を睨んでいた。
とりあえず暗い。ものすごく暗い。陰鬱になるぐらい・・・・暗い。


「くっそぉおおおお」

「やめなさい、窓を破壊する気ですか」


言葉と共に、すとんと軽い音を立てて、窓際の壁に鋭利な黒塗りのナイフが突き立った。
数ミリほど壁に食い込んでいたナイフは、その刀身に目立たないよう彫り込まれたルーン文字を輝かせる。
とたんに、壁がぼろりと崩れた。俺は思わず、顔をしかめる。


「姉ちゃん、なにもこのナイフ投げなくてもさぁ」

「私がどれだけ苛立っているか、というのを表した結果です。というわけで黙っていなさい」

「ほーい」

「返事は正しく」

「はい・・・・」


眼光鋭く俺を見下ろしてくる拾い親にして姉の、メルティナ姉ちゃんにこれ以上逆らってはいけない。さすがにやり過ぎだ。命に関わる
俺はもう一度、やたらと薄暗い街並みを睨んだ。


(あーあ、今日はいたずらできねーじゃん)


あんまり雨に濡れるのが好きではない俺にとって、雨のせいでみんなと暴れることができないのはひどく腹立たしかった。
なんで雨なんか存在するんだろう。雨なんか嫌いだホントに。


「そこまで雨が嫌いですか。私が見つけたときも、ずいぶん雨に打たれて嫌そうな顔をしていましたが」


そこで、姉ちゃんの声が聞こえてきた。いつものかっちりした黒い制服じゃない、無地でシンプルなワイシャツとスラックス姿。
血も繋がっていないのにやたらと似ている、深緑色の目が目の前にやってきた。


「嫌いだよ。だって、雨が降ったら足下どろどろだし視界はぼやけるし、いろいろやった後逃げにくいんだもんよ。でもやっぱ、風呂に入ってるわけでもないのに全身びしょ濡れになるっつーのが一番ヤダ」

「なるほど、では雨ガッパでも買ってきましょうか」

「それもヤダっつーんだろ、あんなガキんちょアイテム」

「では待っていなさい。先日のティルトの話では、見た目はひどくてもあっという間に通り過ぎるタイプの雨らしいですから」


その言葉に、俺は目を輝かせた。ティルトの兄ちゃんは、本当に何でも出来る。


「マジで!? いや、ティルトの兄ちゃんが言うんだからマジだよな!」


そう言って飛び跳ねて振り返った先に、姉ちゃんの姿はなかった。かつかつとブーツの音が、廊下から聞こえてくる。
俺はもう姉ちゃんのことなんか気にしないで、窓にへばりついた。相変わらず、ぐちゃぐちゃにぼやけた暗い世界だ。



いつもみたく、明るくバカ騒ぎできるくらいになるまで、ずっと待ってやろうじゃん。



『STRANGE』 アイル・ガリカ


(08/12/27〜09/03/03)
お題配布もと:テオ