「・・・・いまいち」 彼はそうつぶやいて、カラン、と幼児のこぶしほどの氷が入ったグラスを揺らした。 「いまいちって、そんな、こんなところにいいお酒なんて流れてくるわけないんですから」 「今度から俺用にでも、酒の謝礼確保しておけ。あの『アクセント』とかいう酒場には、いろいろありそうだがな」 「アデレーナさんなら、ニネルのことも普通に受け入れてくれると思いますけど」 「これ以上、俺の存在を知られてたまるか」 けっ、とそっぽを向いて、ニネルはグラスの中に入っている無色透明な酒を、一気に喉へ流し込んだ。 ミリルはその隣で、ボトルをひざの上に載せたまま苦笑する。 「あんまり無茶な飲み方しないでくださいね? ティルトはほとんどお酒飲まないんですから」 「そんなこと、お前の次によく知ってる。コイツは確かに飲まないが、強いぞ」 「あら、そうなんですか?」 きょとんとした表情を浮かべて、ミリルはニネルからグラスを受け取る。 カラカラと小さな音を立てて、グラスに酒が注がれていった。それを眺めながら、ニネルはつぶやく。 「お前、以前言っていたな。俺もティルトと同じく、お前の弟だと」 「はい、言いましたよ」 「体が同じだからか?」 嘲笑に近いものを浮かべ、ニネルは屋根の上にごろりと横たわる。半分より僅かにかけた月が、輝いている。 と、ゴンと鈍い音を立てて、ボトルがニネルの額にぶつかった。勢いが皆無なので痛みは感じないが、ニネルはまなじりをつり上げる。 「何のつもりだ」 「ふてくされてはいけませんよ、ニネル」 そう言ったミリルの方が、僅かばかり頬を膨らませている。 「あなたが現れたのも唐突で、会ったときから本当にぶっきらぼうで俺様でけんかっ早くて、ティルトと大違いで驚きました。けど、ちょっとは似てるところもあるなぁと思いまして」 「おい、あのヘタレと似てるところなんてどこに」 不機嫌さ全開で起き上がったニネルは、ふ、と胸の上に重量を感じ、固まった。 隣で座っていたミリルは、ニネルの胸に右手をついて体を伸ばし、左手でそっと弟の頬に触れた。 「ほら、あなたは私のこと、振り払ったりしないですし。照れとか苛立ちとかで隠してますけど、ティルトと同じように他の人を思いやる気持ち、ちゃんと持ってるじゃないですか」 「し、るか!? とにかくお前離れろっ」 「屋根の上ですし、離れたら落ちちゃいますよ? たまには姉弟水入らずということで」 「お、前なぁ・・・・」 彼らのすぐそばで、ボトルとグラスがふわふわと宙に漂っていた。 『STRANGE』 ミリル=チェンバース、ニネル (09/03/03〜09/05/06) |