カゲナシ*横町 拍手御礼小説2



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晩酌




「・・・・いまいち」


彼はそうつぶやいて、カラン、と幼児のこぶしほどの氷が入ったグラスを揺らした。


「いまいちって、そんな、こんなところにいいお酒なんて流れてくるわけないんですから」

「今度から俺用にでも、酒の謝礼確保しておけ。あの『アクセント』とかいう酒場には、いろいろありそうだがな」

「アデレーナさんなら、ニネルのことも普通に受け入れてくれると思いますけど」

「これ以上、俺の存在を知られてたまるか」


けっ、とそっぽを向いて、ニネルはグラスの中に入っている無色透明な酒を、一気に喉へ流し込んだ。 ミリルはその隣で、ボトルをひざの上に載せたまま苦笑する。



「あんまり無茶な飲み方しないでくださいね? ティルトはほとんどお酒飲まないんですから」

「そんなこと、お前の次によく知ってる。コイツは確かに飲まないが、強いぞ」

「あら、そうなんですか?」


きょとんとした表情を浮かべて、ミリルはニネルからグラスを受け取る。
カラカラと小さな音を立てて、グラスに酒が注がれていった。それを眺めながら、ニネルはつぶやく。


「お前、以前言っていたな。俺もティルトと同じく、お前の弟だと」

「はい、言いましたよ」

「体が同じだからか?」


嘲笑に近いものを浮かべ、ニネルは屋根の上にごろりと横たわる。半分より僅かにかけた月が、輝いている。
と、ゴンと鈍い音を立てて、ボトルがニネルの額にぶつかった。勢いが皆無なので痛みは感じないが、ニネルはまなじりをつり上げる。


「何のつもりだ」

「ふてくされてはいけませんよ、ニネル」


そう言ったミリルの方が、僅かばかり頬を膨らませている。


「あなたが現れたのも唐突で、会ったときから本当にぶっきらぼうで俺様でけんかっ早くて、ティルトと大違いで驚きました。けど、ちょっとは似てるところもあるなぁと思いまして」

「おい、あのヘタレと似てるところなんてどこに」


不機嫌さ全開で起き上がったニネルは、ふ、と胸の上に重量を感じ、固まった。
隣で座っていたミリルは、ニネルの胸に右手をついて体を伸ばし、左手でそっと弟の頬に触れた。


「ほら、あなたは私のこと、振り払ったりしないですし。照れとか苛立ちとかで隠してますけど、ティルトと同じように他の人を思いやる気持ち、ちゃんと持ってるじゃないですか」

「し、るか!? とにかくお前離れろっ」

「屋根の上ですし、離れたら落ちちゃいますよ? たまには姉弟水入らずということで」

「お、前なぁ・・・・」


彼らのすぐそばで、ボトルとグラスがふわふわと宙に漂っていた。


『STRANGE』 ミリル=チェンバース、ニネル


(09/03/03〜09/05/06)