カゲナシ*横町 拍手御礼小説2



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殺気立つお留守番?




ふよふよと目の前を漂う、掌サイズな黒い布の固まりを、八雲 賢造は不機嫌な表情で弾いた。


『何しやがる』

「鬱陶しいからだ」


舌打ち混じりに答えて、賢造はそっぽを向く。その隣で、桃宮 優香も実に複雑そうな表情を浮かべていた。


「なんで、お前を私たちが預からなきゃならないのよ」

『それはあのお人好しがお前らを選んだからで、最終的に了承したお前ら自身の責任だっつーの』


黒い布の固まりは、しゃべる度にもごもごと動く。ぱさ、と布の一部がめくれて、中からひび割れた頭蓋骨が見えた。
ただ、ずいぶんと小さい。その骨の中で揺らめく紅い光も、蛍火のようだ。


「本当に、隼人のヤツがいないとしょぼく見えるな、お前」

『お前らこそ、隼人とそれ以外のヤツじゃずいぶん態度違うじゃねぇかよ。ま、俺は別格だろーが』

「当然よ。隼人に止めてって言われなかったら、まだ貴様呼ばわり続けるつもりだったのに」


優香は優しげな面持ちを憎々しげに歪め、舌打ちをしかけて・・・・なんとか耐えた。
大葉 隼人が近くにいないからとはいえ、彼女の中で彼に止めてと言われたことをやるのは言語道断であった。
それに、彼自身と深い繋がりを持つ、憎らしい『鬼』も目の前にいる。


『ご立腹だなぁ? 桜の姫君』

「やかましい」

「・・・・なぁ、ちょっと思ったんだが、お前、なんで優香のことをそう呼ぶんだ?」

『この家の中庭に、ずいぶん立派な桜があっただろう。だからだ』


かなり適当な理由だった。
優香と賢造は、ちらりと視線を合わせて小さくため息をついた。
一刻も早く、隼人に帰ってきてもらって、この奇妙な留守番を終わらせたかった。


『鬼幻封滅』 ゼン、桃宮 優香、八雲 賢造


(09/03/03〜09/05/06)