カゲナシ*横町 拍手御礼小説2



拍手 ありがとうございました!!
御礼の拍手小説は、全五種類です。お楽しみいただけたら幸いです。






毎度のことながら・・・・




ひー、と小声で叫びながら遠ざかっていく銀髪の少年の背を眺めて、青年はため息をついた。
うんざりした様子の青年の背後では、人外の能力による応酬が繰り広げられていた。


『へっ、仲良しこよしもこれまでか』

「オヴァ、そう言うことこういう状況で言う?」


真紅の瞳を騒ぎに向けて、エタヤはぼそりと相棒の悪魔に返した。
オヴァはそれきり黙り込んでしまったが、状況を楽しんでいるのは確かだ。
普段なら、あの騒ぎの中心にいるのはエタヤとカヤト族の少女レイナであることが多いのだが、今回は。


「だからー!! 獣神さまの祠が右に行ったらあるの!! あるったらあるの寄らせろぉ!!」

「ざっけてんじゃねー小娘ー!! お前それこの一週間、分かれ道に来たらずーっと言いっぱなしじゃねぇかよ!? お前の指示通りに行けども行けども、祠なんざ影も形もねぇじゃねぇか!」

「この辺にあるのは確かなんだってばぁー! カヤト族は、獣神さまを祀っている祠のそばを通るとき素通りなんて絶対しちゃいけないんだからぁ!」

「わかったよ、祠が見つかったら全員で獣神さまとやらに拝み倒してやる。だからなぁなんの根拠もないのに進路変更をしようとすんじゃねぇっ!!」

「根拠ならあるわよっ! カヤト族の勘は決定的なんだから!!」

「ど、こ、が、じゃあああ!!」


どかどかと地団駄を踏みながら、人間にしては破格の長身を持つシャストが怒鳴り散らした。
その向かいで、これまたシャストに負けず劣らずの怒声で対抗しているのは、明るい茶色の動物的な耳としっぽをもつレイナ。
先ほどからこの口論で、一行は足止めを食らっている。まだ進行方向がレイナの言うとおり右だったらことはすんなり収まったのだろうが、これ以上右に曲がり続けていたら一生先に進めない。エタヤとしては、シャストの肩を持ちたかった。
だが、二人の勢いに巻き込まれるのもゴメンだった。実際、他の面々はこれ以上ないほど二人と距離を置いている。


「まったく・・・・一体いつ、出発することになるやら」

「無駄に野宿なんて、冗談じゃないわよ」

「ねぇねぇねぇ、ここ森でもなんでもないよ? ホントに祠あるのかなぁ」

「パミ、そんなこと言わないの。レイナがあるって言うんだから、きっと、ある、のよ・・・・」


だが、ぼそぼそとしゃべっていたドール族のパムの言葉は、後半部分は小さすぎてほとんど聞こえなかった。
と、新たなラウンドに突入するかと思われたシャストとレイナの口論は、唐突な悲鳴によって中断させられた。


「わあああ!」

「おっ、おい、コーム!? どうしたんだー!」


シャストが慌てながらその声の元へ走っていく。彼はずいぶんと、コームを過保護に扱っている。
口論を中断させられて唇を尖らせていたレイナも、コームのことは心配らしく彼と共に走っていった。
全員がコームの元にやってきたとき、コームの目の前にあるものを見てレイナは歓声をあげた。


「獣神さまの祠だぁ!」

「あ、あれがぁ?」


シャストは気の抜けた表情で、ばりばりと頭をかいていた。その隣で、勝ち誇ったようにレイナが胸を張る。


「どーよ!!」

「でもさー、こっちって左の曲り道のほうだよね。レイナ、あんまり威張れないよ?」

「う・・・・」


パミにさらっとたしなめられて、レイナは表情を歪めた。


「獣神さまって、格好いいんですね」


そこで、ほぉーと感嘆のため息をついたコームの声が聞こえた。彼は祠の中に置かれている、猛々しい獣の像を見つめていた。
レイナはぴょんとその隣に立って、コームと同じように像を見つめた。


「そ。獣神さまは、いつでも私たち地上に生きる者たちを、大神さまと同じように見守ってくれてるのよー」

「気ぃすんだか? おてんば娘」

「ふっ、あたしに対するおてんば、という言葉は褒め言葉よ」


完全に開き直ったレイナに、一行はやれやれとため息をついた。


『シポリナ!』 主人公一行


(09/03/03〜09/05/06)