カゲナシ*横町 - 小紅便り
□ 小紅便り □


その後(空色の彼)

正午。人気のない、立ち入り禁止区域。その中心に存在している廃工場の一つに、今の時代少々珍しい格好をした三人組が、正三角形の形に立っていた。

「……では、確認は以上とする」

深緑色のジャケットとスラックスに、同じ色の帽子、真っ白な手袋、焦げ茶色で赤い郵便マークがプリントされた革鞄。
そんな格好をしている三人のうち、真紅の髪を顎のラインで切りそろえた金色の瞳の女性が淡々と告げた。

「はいはーい。それじゃあ行って来ようか、ねーソラ」
「イサゴ、あんたもうちょっと締まりのある顔しろよ……ゆるっゆるじゃねぇか」

にこにこ……というより、でれでれに近い笑顔を浮かべている、薄い金髪の青年に、鮮やかな空色の髪をした少年が呆れて注意した。しかし、青年イサゴは特に気にしたふうでもなく、リズムをつけて鞄を叩いている。

「そういえば、ソラ」
「なんだよアカツキ?」

普段ならば、『配達人』の集会が終わった途端、依頼へ戻るアカツキなのだが、ソラはまだ彼女が残っていたこと、そして自分を呼んだことの二点に驚きながら返した。

「お前も、一時妙に締まりのない顔をしていた時期があっただろう。イサゴは、まぁ年がら年中こんなだとして、お前までああなるのは、今思えば珍しい限りだ。何があっ」
「げふんごほごっっほげへげへんぅおっっほん!!!」

あからさまに激しすぎる咳払いを続け、ソラはアカツキの言葉を遮った。そっぽを向いてしまった彼に、イサゴが微妙に笑顔の種類をすり替えてにじり寄る。

「あれー? どうしたのどうしたのーソラぁー? そんなに僕たちに知られたくないような、いいことあったっていうのかい?」
「ち、違、だから、その……ううううるせええええ!!!」

きゃいきゃい、ぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた二人を見て、アカツキはそっとため息をこぼした。もとは彼女の質問によって引き起こされた事態だが、そんなことはどうでもよかった。
アカツキは一人、未だに騒ぎ続けている二人から視線を逸らし、とん、と軽く地面を蹴った。ふわりと体が浮かび、ゆっくりと透けていく。そのまま、廃工場の壁をすり抜けて、彼女は次の依頼を遂行しに向かった。
イサゴはまだソラをからかっていたが、ふと我に返って時計を見る。そして芝居がかった動作をしながら、目を見開いた。

「いっけない。次の依頼のリミットが来ちゃう。じゃーねーソラ。また今度、ゆっくり教えてね」
「誰がぁ!!」

ソラは髪の色と対照的に、その顔をアカツキの髪のように真っ赤にさせて怒鳴った。イサゴはそれを見て、けらけらと笑いながら、あっという間に飛び出していってしまった。

「たくっ」

一人残されたソラは、ちらりと自分の時計を確認した。次の依頼は、それほど気張る必要はない内容だった。だが、『あの依頼』があってからというもの、たとえどんなささいな依頼であっても覚悟を決めるようにしていた。

「……あいつ、元気かなぁ」

そう言いながら、思わず自身の頬を手でさすった。完全に無意識の行動で、次の瞬間に気付いたソラは「うへぇ!?」と叫んで手を離した。ばたばたと両手を振り回し、息を荒らげる。

「仕事、仕事だ!!」

ぱんぱん!とやや強めに両頬を叩き、ソラは飛び上がった。工場の壁をすり抜ける前に、軽い両手を見つめる。あそこまで近づいた『表の世界』に生きる人間は、あの少女が初めてだった。自分でも、どうしてあそこまで出来たのか、よく分からない。今は、もう無理だと思う。ようやっと、少女が絶えず「恥ずかしい」といっていた理由が分かったような気がした。
ひゅん、と短く風を切る音と共に、工場の中はまた静寂に包まれた。



出すつもり欠片もなかった、ブログ公開していた小話。
ソラ、アカツキ、イサゴの三人はとりあえず出来てます。もう一人女の子いますけど……。
まあ、このお話しはこの辺で終わりと、では。
(2009/08/06  空色レンズ)

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素材提供: 空色地図Komachi