□ 旅立ちの日に - 俺たちの出会いと友情に! □ 「言っておくけどさ、僕らって今何歳だっけ?」 「なーに言ってんだよ、十五歳に決まってるじゃーないか!!」 ニヤリと唇を歪めて、なんとも胡散臭い笑顔を浮かべる正毅(まさき)に、ジョッキを押し返しつつ言ってみる。 まぁ、無駄だと言うことは理解しているのだが。 「そうか、ならお前はこの国の法律を知っているか? 僕が記憶しているものが正しければ、二十歳未満の未成年者による飲酒喫煙は一切禁止されているはずなんだけど」 「お堅いヤツだなー。小説に出てくる清楚で可憐な白ワンピが激似合いなお嬢様キャラの身持ち並みにカッてぇ」 「たとえが全くもって意味不明だっつーの」 輝明は黄金色に輝くビールがなみなみと注がれたジョッキを脇に、自分の口から頼んでおいたウーロン茶を飲んだ。 それを見た正毅は、恨めしげな表情で掲げていたジョッキを揺らす。 ジョッキの縁から、山となっていた泡が少しこぼれた。 「なぁなぁなぁ、今日で俺らしばらく会えなくなっちまうんだぜ? 生まれた病院から住んでる地区、幼稚園、小学校のクラス中学校のクラスまで見事にピタリと一致した、最高の幼なじみがさぁ」 「腐れ縁と僕は言っているけれど」 「腐れてなんぞおらんわあああ!!!」 正毅の雄叫びに、カウンターの向こうでグラスを磨いていたアルバイターの女性……正毅の姉がまなじりをつり上げる。 途端にしゅんとした正毅の肩を軽く叩き、輝明はやっぱりウーロン茶をちびりと舐めた。 「ま、これがただ学力面の問題で通う高校が変わっただけ、とかだったらよかったんだけどね」 「いきなりの引っ越しだもんな。ほとんど卒業とダブッちまったせいで、ほとんどのヤツら知らねーし」 「ま、知られようが知られまいが、どっちでもいいけどね」 ごとん、と重いジョッキがカウンターテーブルにぶつかった。 正毅はいつもの軽さを無くした声で、どこか願うように輝明につぶやいた。 「忘れんじゃねーぞ? 俺らのこと。手紙とか電話とか、無くてもいいから。 ……お前見た目に寄らず筆不精なの知ってるし」 その言葉に、輝明は少し目を見開いて、先ほど正毅が浮かべたのとよく似たニヤリとした笑みを浮かべた。 「忘れないよ。というか忘れろっていうほうが無理なんじゃない?」 「あと彼女できたら絶対俺一番に知らせろよ!? あと写メ送ってくれたらなおよし」 「うん、死んでもその方面に関しては口を割らないから」 そう言って、輝明はウーロン茶の入ったグラスを置き、代わりに汗をかき始めていたビールジョッキを持ち上げた。 正毅は大袈裟に驚いた様子で、けれどすぐ待ちに待ったように自分のグラスをかまえる。 「中学卒業おめでとう」 「んで、高校入学もおめでとう」 「「俺(僕)たちの出会いと友情にもおめでとう」」 がちん、とジョッキがぶつかり合う。 やっぱクッセェな、と照れ笑いをしながらジョッキをあおる正毅を、呆れた表情で輝明が眺める。 ……そのままジョッキを一気のみしようとした正毅は、カウンターからすっ飛んできた姉に強烈なゲンコツをもらった。 (2009/03/23) ![]() |