□ シニガミ番長見参 □
『あのねー、「奇術師」の仕事の方で知り合った人がいるんだけど、その人が今住むところに困ってるらしくて、僕の家紹介しといたんだよね。あ、女性だけど襲っちゃダメだよ。まぁ無理だろうけど、いろいろあるから。それじゃーよろしくね』
そんなふざけた内容のメモが、目を覚ました俺の顔の真上にあった。
寝起きで開かない目をこすりながら、じーっとメモを睨みつける。
そして。
「ざけてんじゃねーぞ、イカレ兄貴ぃいいい!!?」
とりあえず、メモを八つ裂きにした上で毛布を蹴り飛ばし、低反発クッションな枕に向かって拳を一発。
鼻息荒く、俺は起床した。
◆ ◆ ◆
拝島 友晶(はいじまともあき)、高校二年、現在十七。
染めていない髪は、なんでか前髪はストレートなのに他の所は微妙に天パーになってて、肌は適当に日焼けしてる。
だが部活に入っているワケじゃない。
……ぶっちゃけ、俺の外見『だけ』を見れば、学校へ通っている間はどこにでもいそうな普通の生徒だ。
目つきもそれほど悪くはない、むしろ母親に似て少し垂れ気味だ。
学ラン楽そうだよなーとか思っているけど、中学、高校、共にブレザー。
ネクタイはちょっとだけゆるめて、でも規則は破らない程度。
上着のデカイボタンは全部つけてて、ワイシャツをはみ出させたりもしない。
アクセサリーの類も無し、ピアス穴もなしなし。
成績は、主要五教科はどれも下の上くらい、音楽は消えればいいと思っているし、パソコンは謎のデカ物に見えている。
体育だけは悪くない……というか、今まで『評価5』以外とったことがない。
で、こんな俺は学校側から『不良』と認定されている。
別に俺はそのことについて反論するつもりは欠片もない。
うん、だって事実だし。
「ぶほはぁっ!!」
今日も今日とて、友達と学校からの帰り道、路地裏に引っ張り込んでくれたバカ共を一掃した。
ちなみに所要時間は、三分。
「おぉ、お疲れぇユウヒ。にしてもさ、カップラーメン持ってきてもやっぱまだ食えないかな?」
さっきまで目つきの悪い他校の不良Dに襟元を掴まれていた友人、市原 みぎり(変な名前だなぁと思う)がヒラヒラと俺に向かって手を振った。
「あのな、俺あいつら見えたときお前に逃げとけっつったよな? なんで俺がさっさと通り過ぎようとしたところ、あっという間に捕まっちゃってくれちまうんだろうなぁオイ?」
「はっはっは、ちょと待てユウヒお前に襟元しめられんのマジキツイってぐほぉぉ……」
「あと俺はユウヒじゃねぇよ」
ユウヒ、というのは、市原が中学の頃に俺の名前を見て「と、とも……しょう? ゆう、日がいっぱい……ユウヒ?」と発言したことから生まれた俺のあだ名のようなものだ。
その後、俺が自分の名前はともあきだ、と訂正するのが遅れてしまったがために、一時期俺の名前が「ユウヒ」で定着してしまったりもした。
ようするに、長いつき合いなわけで。
「そいや、今日お前朝からなんかテンション低かったよな。なんかあったのか? いや遭ったのか? 『奇術師』シューヒとかと」
こいつの言うシューヒとは、俺の兄貴秀晶(ひであき)のことだ。
しかし、いやいや。
奇術師。
そう、俺の兄貴は、そんな職業についている……らしい。
ちなみに世界観としては、ここは現代日本、二十一世紀、携帯が薄く軽くなって、縦横無尽に車も電車も地面を走る……そんな感じ。
真性の変人だあの阿呆は。
「いや……けど、そうだな。それがらみだな」
「うわー気の毒ー。でも救いの手は差し伸べられない。泥沼と化すこと受け合いだからなっ!」
「ちったぁ巻き込まれてみろ? RPGで変人に関わってしまったがゆえに世界を救うことを命じられた主人公のような気持ちにさせてやるから」
「俺にそんなリアルゲームを体感せよと!? ムリムリ、シューヒさんに関わったら死ぬって。命が足りないとかそういうレベルじゃない」
じゃーまぁ無事な姿を明日の学校で! と言い捨てて、市原は自宅へ向けて全力疾走していった。
……で、俺は夕方一人とぼとぼと、不良共を殴り飛ばしたおかげで少しすりむいた手の調子を見ながら、帰宅した。
ドアの前に立つ、鍵を持つ、入れる、回す、ガチャッ、鍵を抜く、鞄にしまう、ノブに手をかける。
はい、ここまではごく普通です、一般家庭と全く変わりません。
だが、今日この日、ノブに手をかけた次の瞬間、俺の思考はとりあえず宇宙空間の果てを彷徨うこととなった。
「おっお帰りなさいませご主人様っ」
―――――――――――――――――…………………………
ぱたん。
―――――――――――――――――…………………………
「むっ、無言で閉めないで無視しないでぇええええ!!!」
家の中に、オンナがいた。
普通のオンナじゃなかった。
黒いワンピースに真っ白なエプロン、ヘッドドレス、白いタイツに、スリッパだけは可愛い緑のチェック柄。
完全無欠にメイドだったぜ? マジかよおい。
「ごごごゴメンナサイあのあの友晶さんですよね!!? 奇術師さんに言われてしばらく家においてもらうことになった……はずの人間なんですこんな格好なのは本当に、本当にゴメンナサイだから無視をしないでぇええ……っ」
最後の方はすすり泣きっぽい感じだった。
俺は腹にぐっと力を込めて、王央高校の『アウトサイド』にばったり鉢合わせしたときよりも緊張しながら、ドアノブをひねった。
見慣れた玄関、そしてやっぱり、一般家庭にそぐわない……メイド。
そのメイドは、俺の姿を見てちょっと笑って、すぐに焦った表情を浮かべて唇をひねり上げた。
「ふ、ふひゅむむみ、ふみゅみんみまがっ……」
「おい、あんた何やってん」
がちゃり、と俺の背後でドアが閉まる。
すると、ぼろっぼろ涙をこぼし顔を真っ赤にさせ、メイドはゆっくりと手を唇から離し、エプロンを握りしめながら。
「お、お帰りなさいませご主人様……」
また言った。
言いやがった。
……俺、メイド萌えじゃねーんだけど。
「ほ、本当にごめんなさい。奇術師さんに、ひっかけられてしまいまして……」
「はぁ」
「と、友晶さんに挨拶をして、友晶さん自身に許可をもらわない限り、メイド服も脱げないようにされて。し、しかも友晶さんがそう簡単に私に許可を出さないようにって、帰宅された友晶さんを見たら今みたいなこっぱずかしいセリフを言わされるような呪いまでかけられてぇえ!!!」
「…………」
また奇術師。
あの金欠フリーター……次にあったらちょっと五体不満足にしてやるかな。
◆ ◆ ◆
その女、名前がミクワというらしい。
苗字は、と聞いてみると、苦笑と共に「バカみたいに長い上、ミドルネームが複数あるんです。言うのが面倒くさくて」という答えが返ってきた。
本人も面倒くさいというほどなのだから、俺なんぞ苗字を聞いただけで寝るんじゃないか、と思ったので深くはつっこまないでおいた。
ちなみに今、俺とミクワはリビングにあるダイニングテーブルで、向かい合った形で茶を飲んでいる。
俺が「メイド服は脱げ、変なセリフもいらん」と言うと、彼女はトイレへすっとんでいき、あっという間に着替えて戻ってきた。
赤みの混じった茶色……赤銅色というのがあいそうな短い髪に、グレーブルーの瞳。
で、季節外れというか見てる方が鬱陶しくなるような漆黒のタートルネックにロングスカートで、メイド服の方がマシに見えてくるような格好だ。
年齢は……。
「十九です」
年上だった。
同い年かと思っていたんだが、童顔らしい。
「ええと、奇術師さん……お兄さんから、私について他に何か聞いていますか?」
「なんにも。とりあえず女が家に来て泊まりに来るからよろしく、としか」
「そ、そんなアバウトな」
ミクワは頭を抱えて、ダイニングテーブルに突っ伏した。
いや、俺だって突っ伏したい。
そして唐突に人を送り込んできた、へらへら笑いの兄貴を一発といわず何十発でも殴りたい。
「あの、この家に友晶さん以外の人は」
「いねぇよ。父さんは死んだし、母さんは行方不明」
「はぁ」
……ちょっと意外な反応。
大抵こういう場合って、ごめんなさいと言われるか、同情のような目で見られる場合が多い、というのが世の常。
だが、ミクワは「ああそうなの」みたいな感じで、話題を打ちきった。
ひょっとしたら「軽く扱われた」みたいに思って怒る人間もいるかもしれないが、俺にとってはありがたかった。
ぶっちゃけ面倒くさい。
「とりあえず、拝島 友晶さん、しばらくの間よろしくお願いします」
「あー」
「あといろいろ『霊界』関連の騒動がひっついてくるかもしれませんが」
そこで俺は湯飲みの茶を噴いた。
噴いた茶はミクワの顔面にクリーンヒットし、彼女の悲鳴が木霊する。
「き、きき汚いじゃないですかぁ!?」
「ふざけんじゃねぇええ!!? 奇術師の兄貴ならともかく、なんで俺まであんなミラクルファンタジーな世界に関わらにゃならん!?」
「あ、霊界について必要最低限は知ってるっぽいですね」
俺は頬の筋肉を引きつらせた。
霊界というのは、実は俺が知るところで一般的なのとそうでないの二つの意味がある。
一つは、まんま幽霊だの妖怪だの怪物だのがいるという『異世界』。
で、もう一つは俺の兄貴が『奇術師』と名乗って仕事をするような、裏の世界を示す隠語。
一時期、俺もそこに片足をつっこみかけたことがある。
「ええと、この場合は、どっちの意味でとってくださっても結構です」
「どっちの意味ってどういうことだぁ!!?」
「『異世界』でも『裏世界』でも、ということですが」
可愛く首をかしげて「はて」と口で言っちゃうミクワに心和まされ…………ねぇよ!!!
ちくしょう、久しぶりに帰ってきたと思ったらあんなメモ残していきやがって。
やばい、この女を叩き出さなけりゃきっと俺の平穏は戻ってこない。
不良だ不良だと言われているがな、俺は(酒は飲むけど)煙草も吸わないし自分から喧嘩を売ったこともほとんどないんだぜ!? 一応平穏だったんだ。
おお、あんな世界、関わり合いになるのは兄貴だけでいいと思ってたのによぉっ!!
「あ、奇術師さんの弟さんですし、もう一つ教えておきます」
一人テンパりながら部屋中を転げ回っている俺を、ひどく冷静な目で見つめながらミクワが一言。
「私、死神なんです。改めましてよろしく」
…………。
デンパガナニカヲイッテイルヨ。
俺はすかさず転がりをやめ、現実逃避の姿勢になった。
と、そこで。
「え?」
にゅるんって擬音がぴったりな、紫色のなんか……スライム? ゲル状ななんかが換気扇から出てきた。
ぼて、と水っぽい音はしない。けどまぁやたらとブルブル震えている。
……てかさ、スライムどんどん増えてってるんですがね!?
「あ、荒魂(あらみたま)ですか。え、え? ちょっと対処が……」
「な、なんだこのスライム。いやどっかで……なんか中学生くらいの時に見た気がするんだが!?」
と、ぼてぼてと換気扇から落っこちてきたスライム共は合体して、突然攻撃を仕掛けてきた。
どっちかというと近くにいた俺の方に向けて、人の頭くらいのスライムの固まりが結構な勢いで発射される。
「ごっ……!?」
「友晶さん!!」
ミクワの悲鳴が聞こえてくる。ぶっ飛んできたスライムはバスケットボール並みの硬さで、俺のみぞおちにめり込んでくれやがった。
肺の空気が無理矢理押し出され、息が満足に吸えなくなる。
だが、伊達に不良共と一対多数の喧嘩をし続けてきたわけじゃあない。
俺はいっそ息を止めて、制服に張り付いていたスライムを引きはがし、ぽいっとその辺に投げ捨ててから本体のスライムに突っ込んでいった。
で、何したかって?
「舐めてんじゃねぇぞ単細胞生物がああああっ!!!」
とりあえず、蹴り飛ばしておいた。
ローファーだったらまだ効果があったんだがな。
あいにく、その時俺が履いていたのは底が畳みたいになってるスリッパで、それでも普通のスリッパよりは威力があがってたんじゃないかと思う。
俺に蹴り飛ばされたスライムは、ちょっと宙に浮かび、べしょっとフローリングの床に叩きつけられて少し伸びていた。
そこへすかさず右足を突き出し、ドカドカと蹴りまくる。
スライムを突き抜けてスリッパの底が床についたら、軽くひねって穴を開ける。
それを連続で十回くらいやって、床に張り付いたスライムの体が穴だらけになってきた頃だった。
目を限界まで見開いて、スライムを蹴りつける俺を見ていたミクワは、はっと我に返った様子で叫んできた。
「友晶さん、離れてぇっ!!」
は? と俺が足を止めて振り返った瞬間。
伸びていたスライムだけじゃなくて、飛び散っていたスライムの欠片とか、俺の制服にこびりついていたやつとかが、一斉に細長い触手みたいになって、俺の全身に巻き付いてきた。
「んなぁっ」
あっという間に胸までスライムで覆われて、俺は思わず叫んだ。
「お、おおおいミクワぁっ、あんた死神っつったろ。死神なら鎌でもなんでも出してコイツらすぱっとやっちまってくれぇええ!!」
「それができなくなっちゃったからここに逃げてきたんですよぉおうっ!!」
―――――――――――――――。
もしもし、なんとおっしゃいやがりましたか?
「わ、私は以前から死神として、奇術師さんとお仕事を一緒にしていました。けどある日突然、仕事先で強力な呪詛を受けてしまって、死神としての力を全部封じられちゃったんですよぉっ」
「じゃあなんだ、今のアンタは、ただ黒いばかりでなんもできないごくごく一般人の姉ちゃんだっつーのかよっ」
「はい」
「肯定してんじゃ……っ」
そこで、俺の口もとまでがスライムに飲み込まれた。
ぶくぶくと音をたてて迫ってくるスライムに、俺は恐怖し、嫌悪する。
後頭部は完璧にスライムに包まれてるし、なんか髪の生え際まできてるしうわあぁ頬がなんか冷てぇっ
ガゴンッ
そんな鈍い音がして、今度は俺の下っ腹あたりに、棒状の何かがぶち当たってきた。
「ぐぼはっ!?」
さすがに腹に二発も綺麗に入れられては、俺だって膝ぐらいつく。
しかしここで不思議なことに、その棒状のものが俺の腹から転がり落ちると、まといついていたスライムどもが波のように退いていった。
まるで巻き戻し再生のように、俺の体を伝って床に戻り、俺から……というか、棒状のものから距離をとる。
俺は、どうやら窒息死の危機を救ってくれたらしい足下に落ちているそれを、ひょいと拾い上げてみた。
俺の身長よりも少し長いくらいの柄に、先端には一メートルくらいありそうな、月の形をした刃。
ああ、これってまさに、俺がミクワにリクエストした『死神の鎌』ってヤツ?
辺りを見回してみるが、ミクワの姿はどこにも見えなかった。
だが、まずはそれよりも、どうやらこの鎌を恐れているらしいスライムに向けて、俺はその切っ先を向けつつ歩み寄った。
「とっとと……失せろっ!!」
言って、大きく振り抜く。で、俺はちょっとここでしまった、と思った。
このままフルスイングすれば、スライムに直撃するだろう。……周辺の家具を巻き込んで。
かなり鋭そうな鎌である。漫画とかでよくある感じに、斜めにすぱっと切れてずれていく……なんて芸当もできてしまうかもしれない。
「って、やっぱタンマちょっと待て待て待てぇええええっっっ!!!」
必死に鎌の勢いをゆるめようとするも、遠心力で逆に肩の関節を持って行かれそうになる。
で、結局、振り切っちまったよ、すっぱりと。
「だああああああああっっっ…………って、あ?」
そこで俺は、確かな手応えと共に目の前の奇怪に目を点にした。
まず、確実に三日月の形の刃がめりこんだというのに、その後ろにあったタンスに傷が欠片も見当たらない。
で、そのあとタンスの前に固まって震えていたスライムは、すぱりとなめらかな断面を見せて二つに割れた。
勢い余った鎌は、そのまま床にもぐりこむ……が、やっぱり慌てて引き抜いても、手応え無し。
つまり、スライムにしか効果がないということで。
「ら、らっきー? って、そうだよスライム系統が真っ二つになったら、何かを彷彿とさせるフラグが立ってんじゃっ!?」
俺はどたばたと騒ぎながら、二つに分かれてぷるぷると痙攣(?)しているスライムに目をやった。
しかし、「それぞれがまた丸くなって分裂して敵が増えてしまった!」なんて展開にはならずにすんだ。
スライムがそのまま動かなくなり、灰色の砂になって空気中に消えてしまったからだ。
安堵した俺は、鎌を取り落としそのままぺたりと座り込んだ。
さすがの俺でも、整理が追いつかない。霊界には、本当にちょっと足をつっこみかけただけなのだから。
『あのぉ、大丈夫ですか?』
そこで、唐突にミクワの声が聞こえてきた。
俺はとりあえず先ほどのスライムのことは頭の隅に追いやって、スライムを呼び寄せる原因となったであろう女を睨もうとして。
いない。どこにも。
「はぁ?」
『あ、こっちです。あなたの手元に』
そう言われて、俺は左手を見、次に右手を見た。
体を支えるため、床についている右手のそばには、先ほど取り落とした鎌が。
「…………鎌?」
『はい、この真っ黒な鎌が私です』
すると、まるで巻物が開かれるように、鎌の柄がくるりとめくれた。
くるくると、一枚の漆黒の布のようなものが宙に浮かび、次に三日月の刃もくるくるとめくれていく。
呆然とする俺の前で、ひとかたまりになった布は人の形らしきものをとった。
「……ふぅ、さすが奇術師さんの弟さん。霊界の住人に干渉できるなんて。私のことも扱えたみたいですし」
「お、ま」
「ああ、先ほど死神の力が封じられたと言いましたが、少し不適切でした。正しく言えば死神としての私の肉体、魂が、愛用していた鎌に封じられてしまっているんです。今こうして人の形がとれるようになっているのも、奇術師さんの術のおかげなんですよ」
最後に、全身を覆っていた真っ黒なマントを取り外す。
マントの下からは、先ほどと同じ格好をしたミクワの冷静な顔があらわれた。
「何やら、私と奇術師さんが気に入らないようでして、その方。そのまま鎌ごと消し去られるかと思ったところで、奇術師さんに逃がしていただいたんです。その先が」
「うち、だってか?」
「……ここなら、しばらくの間ならばれないだろうしなぁって、言われまして」
ははは、と若干青い顔でミクワは笑った。
なぜ青いかって? 俺は今、鏡を持っていないからなぁ、自分の顔を見ることができないんだよなぁ。
「ただ、死神という特性ゆえに、私は死霊であれ生き霊であれ、とにかく地上を彷徨う幽霊を引き寄せてしまうんです。そこらへんは弟に任せておけ! と断言されたので、大丈夫なのかな〜と……」
最早、ミクワは俺に視線を合わせようとしない。
「と、とにかく、こんな死神ですがしばらくよろし……」
「帰れええええええええええええっっっっっ!!!!!」
……結局、俺はこの大して役に立たなさそうな死神(現在のスペックは平均女性程度)と、命をかけた同居生活をすることとなってしまった。
俺の平穏、誰か返しやがれ。
……Fin?
(2009/04/11)
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