![]() (1) フィロットの冬、毎年それほど雪は降らず、多くて地面が隠れる程度。 なのだが・・・・。 なぜか、今年はドカユキで。 「・・・・。なぁ、なんだ、コレ」 「いや、俺もはじめてみたって」 「うわぁ〜」 とある三人は、窓の外の景色に呆然としていた。吐く息が白い。 一面、白。地面も、木々も、家々の屋根も、すべてが太陽の光を反射している。 白の幻想世界・・・・しかし、目の前に広がるそれは紛れもなく現実で。 「雪ですね〜。まさか、山を下りてからも見られるなんて思いませんでした〜」 「俺は、初めてだな。みるの」 そういって若草色の長髪をもつ青年、ガイルはぶるりと全身をふるわせる。 「つか寒っ! おいステン、裏から薪もってくるぞ、手伝え」 「どぇえ!? ちょ、待ってよんなことしたらオレ凍死しちゃう!」 ぶんぶんと勢いよく首を振る、黒い衣服で完全防備のゴーグル男ステントラだったが、ガイルから混じりっけなしの殺気を感じ、口をつぐむ。 もともと寒い環境には不向きなガイル家だが、一気に外気温をも下回ったように感じられた。 「いいから、こい」 冷たい瞳でにらみつけながら、ガイルはステントラの襟首をぐわしとつかみ、そのまま引きずっていった。 「待ってぇえ〜! ルーちゃんへるっぷみぃ〜!?」 「ゆき〜、ゆき〜・・・・うふふ」 そんな彼の断末魔の悲鳴は、しかしあっさりと無視された。 助けを求められた少女ティルーナは、外を見つめたまま不気味に笑い続けるだけで。 三十分後。 「・・・・まぁ、こんなものか。まったく備えあれば憂いなしとはこういうことだな」 「だぁね〜、さっさと補充しといてよかったね」 「というかなんだこの異常気象。ここは冬、もっと乾燥してもっと雪が少ない地方と聞いていたが」 「さぁ〜、風向きが変わったんじゃない?」 「それでもやりすぎだろ・・・・いつの間に降ったんだ」 「そりゃあ昨日の晩にでも、どっさりと」 冷えた身体を一刻も早く暖めたがっている彼らを無視して、自室から毛布を引きずり暖炉の前にどでんと居座っているティルーナが投げやりに答える。 まだ燃え始めの小さな火を消さないように気を配りつつ、ガイルは玄関脇にかけておいたジャケットを羽織った。 息を手に吹きかけ、暖めようとする。 「・・・・ほかの奴らは、まぁ大丈夫か。おい、朝飯にするぞ」 そういって、のろのろと台所へ向かった。 「寒い」 「・・・・」 「寒い寒い」 「・・・・・・・・」 「さぁーむぅーいーよぉー!」 「いい加減にしろ、ガキか」 テーブルの上に山と積まれたトーストを一枚とり、カランベリのジャムをべたっと塗りたくったものを、ステントラは口にくわえた。 「お〜いガイル、サラダぐらいなら手伝うぞぉ?」 「受け止めるだけで結構だ」 台所からそう返事がきて、それに続くようにベーコンエッグが次々飛んでくる。 計四つのベーコンエッグをあらかじめ用意していた皿で、すべて受け止めたステントラはため息をつく。 「はぁ、にしても、寒いばっかでつまんね〜・・・・。雪が降っても、もうなんか迷惑にしか思えねーよ」 「確かにな。冬祭り、は・・・・まだ先か」 「とくにイベント、ありませんもんね〜。誰かのお誕生日とかあったら、適当に集まって騒いだりできますけど」 「おまえの目的はそこで振る舞われるごちそうのみだろーが」 「えへっ」 「なにが『えへっ』だ、腹黒娘」 「ああ〜、ひどいですよガイルさん〜。私、腹黒なんかじゃ、・・・・ありません」 「なんだその微妙すぎる間は?」 ひょっこりとあきれ顔をのぞかせて、ガイルが台所から現れた。 手に持った皿にはほくほくのジャガイモ、にんじん、ブロッコリーの温野菜サラダ(特盛り)。 「「おお〜」」 「言っておくが、晩飯はだいぶ中身がかぶるからな」 「え、またこのサラダ・・・・」 「も使った、チキンシチュー」 いやっほぅ!と歓声をあげて、二人はサラダに飛びつく。 苦笑しながらその様子を見て、ガイルはさっさと取り分けておいた自分の分のサラダを食べ始めた。 数分は食べることに集中していた三人だったが、ある程度してほかのことを考える余裕ができてきた。 「あ、そういえば祭りで思い出した」 「は?」 それぞれ三枚目と九枚目のトーストに手をつけていたガイルとティルーナは、一瞬だけ手を止める。 ステントラはブロッコリーを飲み込み、続けた。 「あんな〜今時期、異国じゃ『クリスマス』っつー祭りが催されてるって話なんだよ。ま、また聞きのさらにまた聞きだがな」 「「くりすます?」」 キョトンとしている二人の顔を眺めて、ステントラは最後のジャガイモにフォークを刺しながら言った。 「なんでもその国の、宗教上の神様の誕生祝いに祈りを捧げて・・・・っていうお堅い内容のがもともとだったらしいんだがな。最近じゃ、クリスマスツリーっていう木を飾って、ごちそう食べて」 「ごちそう!」 「だからなんで話が飯のほうへ流れていくんだっ!」 ガイルはため息をつくと、台所へ戻りポットとマグカップをもってきた。 三つあるマグカップのうち二つはカラ、一つはホットミルクが入れられている。 ホットミルク・マグをティルーナの前に置き、カラのマグにはポットからコーヒーを注いでテーブルに置いた。 その片方をブラックのままぐいっと飲んで、ステントラは言う。 「あ〜、まぁここまでは単なるパーティっぽいんだがな、ん〜・・・・」 「ほかにもまだ何かあるんですか?」 きらきらと目を輝かせながら、ティルーナはステントラにせまる、ついでに十一枚目のトーストも確保。 と、そのとき。 ルルル・・・・ 滅多に使われないガイル家の電話が、静かになり始めた。 「・・・・? 誰からだ」 ガイルはカップを置いて、電話へ近づいていった。 受話器を取り、答える。 「はい」 『おや、ガイル。おはよう』 「っ!? あ、アデレーナ・・・・っ」 「っっっ!」 ガイルとステントラ、二人の肩がびくんっと跳ね上がった、ついでに心臓も。 ステントラはがちがちと全身を震わせながら、彼らの会話に聞き耳をたてる。 「・・・・ああ、うん・・・・・・・・へぇ、・・・・うん、おいステン」 「ツケならガイルへ!」 「てめぇ自分の内臓でも何でも売ってきやがれ。ツケ以外で話があるってよ」 「んあ?」 ステントラは首をかしげながら、ガイルから受話器を受け取った。 そして二、三会話したかと思うと、大きく頷いて電話を切った。 「おい、あいつなんて」 「ふっふ〜、いや、アデレーナってマジ記憶力いいよな〜」 「それはお前のツケを一桁も間違えずに、さらに言うならどんな酒をどのくらい飲んだのかまで覚えていることで分かりきっているはずだが」 「・・・・。いや、そういうのは別にして、酒の席での会話とかもきっちり覚えてるなんてな〜って」 「?」 「なにか変なこと言ったんですか〜?」 ガイルとティルーナはそろって首をかしげる。 ステントラは二人を見、にんまりと怪しく笑うと・・・・。 「とぅ!」 といって、わざわざ窓から外へ飛び出した。冷たい風が家の中へ流れ込む。 「寒っ!? ていうかなんで窓から?」 「あっははオレ仕事ができちゃったーっつーことで!」 「待てなんの仕事? そしてやっぱ窓の意味ねーだろ」 「あ、そうそう」 さくっと一歩踏み出した姿勢で、ステントラはくるりと一回転、窓の縁から自分を見ている二人に言う。 「アデレーナからの伝言。 『ガイルとティルーナ、ちょいとトールの森から新鮮なメーベラと、ヴィキの葉をとってきてくれないかい。それで、夜の七時くらいに『アクセント』にもってきてくれ』 ・・・・だって〜」 「メーベラ・・・・この状況でか!?」 「ヴィキの葉ですか。本当に取りに行ったら、私たち死にますね〜」 メーベラとは周りの気温が下がると甘くなるという、オレンジ色の小さな木の実である。 ヴィキの葉はそのメーベラのなる木の根元に生えている薬草で、疲労回復にもってこいと言われている。 だが、双方ともにこの近辺ではトールの森でしか採れず、森番ネーリッヒの力を借りたとしても一日のうちに見つけるのは至難の業・・・・おまけにこの寒さである。 「もう枯れてるだろ。絶対そうだ」 「アデレーナさん注文がむちゃくちゃです〜。・・・・ていうか、そんな重労働押しつけて、ステントラさんはどこに『仕事』に行くんですか」 ガイルは片手で目元をおおい、ティルーナは頬をふくらませながらステントラをにらみつける。 ステントラはふっ・・・・と天を仰ぎ 「オレは、店の手伝いだとよ・・・・」 「「・・・・・・・・」」 二人は黙った。ちらっと互いの顔を見、ステントラを見る。 「・・・・まぁ、死なない程度にがんばってくださいね〜」 ぽそっとティルーナがつぶやいた。 「ねぇ、えっと・・・・なんで?」 「言うな〜。それを言うな〜」 |
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