![]() (1) フィロットの冬、毎年それほど雪は降らず、多くて地面が隠れる程度。 なのだが・・・・。 なぜか、今年はドカユキで。 「寒い」 「・・・・」 「寒い寒い」 「・・・・・・・・」 「さぁーむぅーいーよぉー!」 「いい加減にしろ、ガキか」 『ガレアン』フィロット支部。 年末までの書類処理が終わりそうになく、泊まりがけで仕事に没頭していた若者が二人いた。 黒髪のレイド、白髪のカッティオ。 双方ともに、フィロット地区『ガレアン』の副リーダーである。 二人は、凍死の寸前にまで追い込まれていた。 「しかし、この町にこれほど雪が降るとはな」 「おかげで暖房もきちんとしてないし〜! うう、カーテンしめてよまぶしい寒いぃ〜!」 「俺の分のマントも奪っておいてまだ言うか」 レイドは事務机の前で、『ガレアン』の制服の上に二枚の黒マントを羽織っていた。 カッティオはいつもの制服姿で無表情、しかし、肩が小刻みに揺れている。 「・・・・暖房、燃料はまだあったか?」 「去年の残りがほんのぽっちり〜のはずぅ〜・・・・さぶっ!」 足まですっぽりマントでつつみ、ガタガタと音を立ててふるえるレイドの顔は青白い。 「そうか。・・・・というか、お前本当に寒いのダメなんだな」 「そーだよ! 暑いのはがんばるけど冷たいのはダわひゃっ!?」 「ほぅ、これは面白い」 カッティオは頬をぴくりともさせず、レイドを見下ろしている。 レイドはといえば、カッティオが手をねじ込んだ首筋にマントを巻き付けようと躍起になっていた。 「かかかカッティオそれは何人の手!? ありえない、ガチガチじゃん!」 「俺のマントを奪ってこんなにしたのはどこのどいつだ」 カッティオは大きくため息をつこうとして 「ん?」 ジリリリ・・・・と鳴り始めた電話に近づいていった。 一体誰だこんな朝早く、とかぶつぶつ思いながら、カッティオは受話器を取る。 「はい、こちら『ガレアン』フィロット支部」 『あ、カッティオさん、ですか?』 「・・・・ミリル? なんだこんな時間に」 ミリルの名前を聞き、レイドがぴくっと反応する。 それを尻目に、カッティオは淡々と会話を続けた。 「ああ・・・・・・・・ああ、できなくはない、が・・・・・・・・は? 本当にあるのか?」 最後カッティオは眉をひそめたまま、受話器をレイドに向けた。 「お前にも頼みがあるそ」 「おはようミリルさん! 朝がとても寒い季節だというのに、こんなに早い時間から貴女の声が聞けるなんてでっ!?」 「いったんそのべらべらとまわる口を閉じろ」 カッティオに殴られた後頭部を涙目でさすりながら、レイドはミリルの話を聞く。 『・・・・ですから、レイドさんにはこれからちょっと、仕事を手伝って欲しいんです』 「ええ、貴女のためなら、どんな仕事だって引き受けましょう。それで、どのようなものなのですか?」 「口調もまるきり違うな・・・・」 呆れた視線をレイドにぶつけながら、カッティオはてきぱきと『自分の仕事』の準備を進める。 レイドから自分のマントを奪い返し、剣を腰に下げ手袋をはめて部屋を出る。 その寸前に、はたと思い出して道具箱の中から自分がよく個人的に使っているかごを引っ張り出してきた。 「ふんふん・・・・えっ・・・・ははぁ・・・・はい、はい、分かりました!」 「・・・・」 かごを抱えて部屋の戸を閉める直前、やけにキラキラと光るレイドの目を最後に見てしまった。 (絶対に、アレが絡んでる顔だ) 分かりやすくたとえるならば、取り上げられていた大好きなおもちゃにまた触れた子供の無邪気(実際は邪気丸出し)な目、である。 その後、廊下ですれ違った『ガレアン』メンバーたちは幽霊のような顔でため息を連発する白髪の上司、るんるん気分で鼻歌を歌いスキップする黒髪の上司というものを何度も目撃した。 「オレは、店の手伝いだとよ・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・まぁ、死なない程度にがんばってくださいね〜」 レイドは、カッティオにやや遅れて目的地へ向かった。 バー『アクセント』。 フィロットの中での数少ない常識人にして、超絶美女アデレーナの営む酒場である。 そして、その店の目の前で。 「ねぇ、えっと・・・・なんで?」 「言うな〜。それを言うな〜」 全身真っ黒な不審者と出くわした。 不審者ステントラは、だはー・・・・と明らかに落胆のため息をついた。 「なんっっっでアデレーナ、俺とコイツを組ませるかね。まぁガイルだったらケンカになるだろーけど」 「は? 組ませるって、ひょっとして、ミリルさんが言ってた仕事って」 「そうさ、レイド、あんた一人じゃなく『二人でやる』仕事さね」 きぃ、と音を立てて『アクセント』の戸が開く。 レイドは勢いよく振り返り、首都で何人もの女性を『おとしてきた』とろけるような微笑を浮かべた。 ステントラはステントラで、一体どんな仕事をさせられるのかとドキドキしながら彼女の顔を見る。 アデレーナは二人をとっくりと眺め、やがてにんまりと笑った。 「安心おし。そんなにめちゃくちゃなことは言わないさ。そーだね、ステントラ」 「ほい?」 「あんた、二週間くらい前に言ってたクリスマスとやらのことをもっと詳しく教えておくれ。自分なりに煮詰めてみたんだが」 「あ〜、中身はほとんど普通のパーティと変わらないぞ? 宗教関連も、俺ら別に信者じゃないから省略でいいし。あとは・・・・」 「あとは?」 言いながら、アデレーナは二人を『アクセント』の中へ招き入れる。 そこでは、フィロット町長の一人娘にしてのんびりバイト店員のニナ、レイドに仕事を頼んだミリルの双子の弟ティルトがテーブルセッティングをしていた。 ガタガタとカウンターの椅子を引きずりながら、ニナは顔を上げる。 「あっら〜お二人さんも雑用?」 「雑用ていうか、ま、あんたたちとは別の仕事だよ」 「ふーん。あ、アデレーナ、この布テーブルにかければいいの?」 「ああ、ばさっとやっておくれ」 「下ごしらえ、だいぶ出来ましたよ」 「おや、早いね」 台所から、ミリルもひょこっと顔をのぞかせた。 「あ・・・・レイドさん、ステントラさん、おはようございます」 「おは」「おはようミリルさん! 普段着にエプロンという家庭的な服装も、なかなかお似合い」 「レ・イ・ド・さん?」 アデレーナよりも早く、弟が体をはって女たらしナルシストの魔の手から姉を守る。 レイドは肩をすくめながら、今度はアデレーナの方へ。 「さて、アデレーナ? 僕らはどんな仕事をすればいいのかな。早く教えて欲しいんだけれど。ま、じらされるのも悪くは」 「バカを言うでないよ常春頭。というか死ねや。自分で言っていて気味悪くならんのかね」 「・・・・・・・・」 ステントラは口元を多い、天井をタラタラと眺めている。 アデレーナはちっと舌打ちし、一切表情を崩さないまま顎に指を添わせるレイドに。 「仕事だろ仕事。そこに立たんかオラ。ステントラ、女性が暴漢に絡まれてるのをぼやぼや見てるなんてお前もホントに男かね」 「いやだって見てる方が恥ずかし」 「失礼だな。どこらへんが恥ずかしいんだよ」 「「存在だ、お前の」」 ここはハモった。 レイドは頬をふくらませぶーたれながら(今年二十六歳)、しぶしぶアデレーナから身を引く。 「・・・・ま、あんたらはまだ楽な方だよ。ステントラ、―――――って知ってるだろ? というか、お前が口走ってたんだがね」 それを聞き、ステントラはああ〜と手を叩き、レイドは「ん?」と首をかしげた。 「って、それ作るの? え、それだけ?」 「いや、作ってもらうのはあってるんだが、小さいヤツじゃダメだ。ティルーナちゃんとかにウケそうなぐらい・・・・」 アデレーナの注文(詳しい仕事内容)を聞かされ、ステントラは眉をひそめ、レイドはらしくなく「ひぃ」と悲鳴を上げた。 「・・・・」「ここみたいです、ね・・・・」 |
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