カゲナシ*横町 - クリスマス企画『ミリルの頼み事』
□ ミリルの頼み事 □


(2)

サク サク サク

「・・・・まぁ、案外あるものなんだな」

カッティオは白で覆われたトールの森で、のんびりと薬草集めをしていた。

『カッティオさん、今日、ちょっと頼みたいことがあるんです・・・・』
「冬の寒さに負けない上質な薬草を、ある程度トールの森から採ってきて、七時までに『アクセント』へ届けて欲しい、か・・・・」

プリーストの使いっぱにされた『ガレアン』副リーダー、カッティオ=クレイグ。
なんだか、親切心から行っているのに、しょっぱい気持ちになってくる。
と、ぷるぷると頭を振って嫌な気分を追い払い、彼はあるペンダントを見つめた。

「にしても、今日はやけにネーリッヒが優しかったな・・・・」

彼女が薬草探しに使え、と言って貸してくれたペンダント型探知宝具はなかなかのできで、カッティオの持ってきたかごの半分程まで薬草を採ることが出来た。
と、またペンダントがぴこぴこと光る。
サクサクと軽快に歩いていき、彼ははっと足を止めた。

「・・・・・・・・」

彼の見つめる先には、腐りかけ中がいくらか空洞になっている倒木があった。
ゆっくりと近づき、空洞の中をのぞき込む。
そして、ほんの、ほんの少しだけ口元をつり上げた。

「やった」

心中、子供のようにはしゃぎながら、カッティオは空洞の中へ手を突っ込む。
もぞもぞと動かして、片手に乗るほどの食用キノコを『ついでに』採取。
まだペンダントが光っていたので、倒木の周りをいろいろ探してみたら、根本の方に枯れかけの薬草が生えていた。
一応、それも採取。

「・・・・これくらいか?」

ポツリとつぶやいて、カッティオは今まで薬草と共に拾い集めたキノコを、薬草の中にうずめた。
無意味で子供っぽい隠蔽工作にしばらく熱中し、はたと我に返って時計を見る。
一時三十分、支部を出てけっこう経っていた。

「ふむ」

帰るか、と口の中でつぶやき、すっと立ち上がる。
そのとき、やや離れた場所からサク、サク、ザク、ザク、と軽い足音、重い足音の二つが聞こえてきた。
ついでに会話も。

「本当にあるんでしょうかね〜。もうかなり歩いてますけど」
「これで見つからなかったら、アデレーナになんて言われるか・・・・」
「ぞー。考えたくありません」

「・・・・」

しばし沈黙し、首を軽くかしげ、えーと・・・・と考え事を始める。

「・・・・ま、ヒマだから、いいか。仕事は終わったし」

そう言って、カッティオは気配をある程度隠し、二人を追いかけることにした。
二人はカッティオにつけられているなどこれっぽっちも気づかず、ときおり立ち止まりながら森の奥へ奥へと進んでいった。
そして。

「嘘だろー!?」
「が、ガイルさん!?」

悲鳴を上げながら、彼は木から落ちた・・・・いっそ見事なくらい。
カッティオが追いつき、彼らをはっきりと見たとき、若草色の長髪をした方はガタガタと震えながら雪山からはい出てくるところで、薄オレンジ色の髪の方は濃い色をした葉をしっかと握っていた。
彼らはしばらく早口で何事かしゃべっていたかと思うと、急に振り返り。

さく

「え」「はい?」「・・・・」

やっと気づいた。
かなり驚いていたらしく、二人・・・・ガイルとティルーナはポカンとした表情でカッティオを眺め。

「「カッティオ(さん)ー!?」」
「・・・・お前たち、何してるんだ?」
「「それはこっちの台詞だって」」

その後、それぞれの身の上を話し合った後、カッティオはボソッと言った。

「まだ五時間近くあるぞ」

それを聞いたガイルは跳ね上がるように顔を空へ向け、ティルーナはぼう然としたようにつぶやく。

「え、と、五時間って、じゃあ今」
「二時、なのか?」
「? そうだが」

カッティオは当然、といった風に答えた。
瞬間、彼らの腹が盛大に鳴り、そのままへなへなと崩れ落ちる。
その様子に思わず笑い出しそうになったが、カッティオはぐっとこらえた。

「とにかく、ここでぼんやりしていてもしょうがない。それぞれ任されたことは終わったんだろう。ならさっさと帰るぞ」
「あー、そうだな・・・・っぐしゅん」
「ガイルさんも、風邪引きそうですしね〜。私は、餓死しそうですぅ・・・・」
「一食抜いたくらいで人間は死なない。ほら立て」

(・・・・にしても)

一体アデレーナやミリルは、何を企んでいるのやら?
・・・・その頃、『アクセント』では馬車馬のように相方がこき使われていることなど知るよしもない、カッティオなのだった。


「ね、ねぇ・・・・中に、入れてくれないのかな?」
「あー、たぶん、ダメなんじゃね?」
「・・・・もう、僕死ぬんじゃないかな」

いつもの態度からは想像もつかないような弱気な声を出して、レイドは『アクセント』の店先でガクガクと震えていた。
彼とステントラがアデレーナに言い渡された第一の仕事とは・・・・『雪だるま作り』。
暖かい地方出身のアデレーナ自身がとても気になっている、というのが本音なのだが、なんだか照れくさく『パーティに招待した人たちを和ませるため』という理由が、二人に伝えられてあった。
実物を知るステントラはそれを聞いてすぐさまレイドを外へと引きずり出し、作業を開始したのだが・・・・。

「おいこらぁっ! サボるなサボるな手を動かせっ!」
「だだだだってこんな、こんな寒いのに! なんで君手袋無しでこんな冷たいの触れんの!? 俺ムリぜってームリ・・・・」

言うだけ言って、レイドはまたブツブツと祈り始めた。
ステントラは呆れ果てた顔でレイドを眺め、大きくため息をついて自分のマントを投げた。

「んじゃあお前は雪いじらなくていいから。そーだな・・・・これっくらいの黒くて丸い石二つ、バケツに木の枝二本、まつぼっくりをいくつかと・・・・あ、にんじんもいるな。どっかから持ってきてくれよ」
「い、石? バケツに、木の枝って・・・・なんで、んなもん」
「雪だるまの目と帽子と手、口、鼻にするの! 分かったらさっさと行け!」
「う、ぅう〜!」

ステントラのマントですっぽりと全身を覆って、レイドは半泣きの状態で材料探しへ向かった。
それを見て「よし」と頷いたステントラは、二つめの雪玉制作に取りかかる。
・・・・三つ目の雪玉ができあがり、一番辛い三段重ねにする作業も終わった頃に、レイドはへろへろになって帰ってきた。

「やーっと帰ってきたか。つか何その顔!? なぁ、お前カッティオだろ、その血色の悪さはカッティオだろ!?」
「ぼ、僕はレイド、レイド=デュアー・・・・がれ、『ガレアン』の〜・・・・あれ? ふふふ・・・・」
(こりゃ本格的に、ヤバイ)

ステントラはレイドの抱えてきた材料を奪い取り、おざなりに礼を言って彼を『アクセント』の中へ蹴りこんだ。
アデレーナの怒鳴り声が聞こえてきた気がするが、ステントラはすぐさま戸を閉める。
そして、一つ一つ丁寧に材料を埋め込んでいき、最後にティルトから借りてきた手袋とマフラーをさせて。

「・・・・じゃーん。うん、なかなか」
「へぇ〜、これが雪だるま・・・・ふふ、なかなか可愛らしいじゃあないか」
「お、おーい、アデレーナ? さすがに上着着たほーがいいんじゃないデスカ?」
「あたしゃ体だけは頑丈だからね。ま、そりゃあんたも同じか・・・・ほい次、次!」

肩出しドレス姿のアデレーナは手をパンパンと叩き、ステントラを店の中へ引きずっていった。
先に店内で暖まっていたレイドはいくらか瞳に理性が戻り、しかしニナから極寒の視線を注がれていた。

「レイド〜、こんくらいの寒さで音を上げるなんて、だっらしなー」
「う、うるさいな。僕だってかなり気にしてるんだよ! これでも子供の頃よりはマシになった・・・・」
「ふーん、雪も降ってないのに冷たーい風が吹いたら家へとんぼ返り、暖炉の前でガタガタいってた、とか?」

容易に想像できる。
図星だったのか、とうとうレイドは店の隅で膝を抱え、いじけモードに入ってしまった。

「どーでもいいけど、ほらまだ仕事あるんだからしゃきっとおし! こっからはちょっと分かれるよ」
「ど、どーでもいい・・・・。アデレーナ、俺ちょっとじーんとした」
「おや、急にどうしたね、まぁいいが」

あんまりにレイドが哀れに思えて、ステントラは心の中でほろりと涙を流したとか全然むしろ笑ってたり、とか?
とにかく、アデレーナはいじけるレイドの尻を蹴飛ばし、ステントラの首根っこを捕まえたまま奥へ連れて行く。

「なぁ、次はなんなんだ? つか、こっちは雪だるま作りに全身全霊かけたんで、もー休みたいんですが」
「なに言ってんだい、だらしがないねぇ。さっきの雪だるま、ステントラがほとんど作ったんだろ?」
「ぼ、僕もちょっとは」
「ちょっとだろ?」

ずずいっとすごみのある笑顔で迫られ、寒さで余裕のないレイドはたじろぐ。

「じゃ、ステントラはコイツを頼むかね。おーいティルト! あんたも来てくれ」
「ん、僕も?」

台所の方からひょいっとやってきたティルトは、ステントラと並んで指示を待つ。
アデレーナはレイドを放り投げ、店の奥にあるクローゼットから人間一人まるまる入ってしまいそうな大きさの袋を取り出してきた、プラス数枚の毛布も。

「さぁて、こいつはまた、酔っぱらってたアンタが自信ありげに言ってたものを再現したヤツだよ。『クリスマス・パーティの主役』」

それを聞き、ステントラは「あ」と言って・・・・絶句。

「・・・・アデレーナ、あんた、よくまぁ、そこまで・・・・」
「あたしゃおもしろそうなことに妥協しないからね。やるからにゃ、徹底的にやるさ。ということで、こんなもんでいいかい?」

アデレーナの持つ袋の中をのぞきこみ、ステントラはうなずきティルトは首をかしげた。

「・・・・。うわ、じゅーぶんじゅーぶん。つか、言葉だけでよく作れたな・・・・うん、すげーよこれ」
「ん・・・・わぁ、すごい、目立ちますね。これは一体?」
「ティルトにゃあとで教えてやるさ。問題は、誰が・・・・だよ。ちなみにそっちのは巻く用」

巻く用、と言いながら、アデレーナは毛布を指さす。
と、三人はテーブルの上に広げられたそれを食い入るように見つめているレイドを見た。

・・・・にやり。

「・・・・レイド、まだ寒いんだったら、とっときの役があるぜ? ぜってー寒くならない役」
「本当か!?」

とたん、彼の顔がパッと明るくなった・・・・しめた。

「おー、ちょっと着替えなきゃいけねーんだけど・・・・どっか別の部屋、暖とってあるか?」
「ああ、二階のリビングなら、こないだエイルムに頼んで炎の陣をはってもらってるよ。あそこなら寒くない」
「そっか。よーしティルト、お前もいくぞ〜ほれレイド立て」
「あ、ああ」

レイドはばたばたと立ち上がり、目の前に広がる毛布をぐわしっと抱え込んで、階段を上っていった。
ステントラとアデレーナはその様子をにんまりと、ティルトは少々後ろめたい気持ちで見つめていた。
ややあって、ポツリとティルトがつぶやく。

「あの・・・・いいんで、すか?」
「いーだろ。アイツも幸せ幸せ。ついでに俺らもめんどくさくなくてよし!」
「そうだよ。あれだけ寒い〜って言ってたんだ。『あれ』が不幸せなはずがない」

楽しそうに、実に楽しそうに話す二人を眺め、ティルトは

(・・・・まぁ、こっちも、嫌な気持ちがないわけでないし・・・・いいか)

一瞬、姉の顔を思い浮かべて、結局それに賛同したのだった。
・・・・十分後、何の役を引き受けたのかようやく理解した誇り高い性格のレイドの絶叫が響き渡った・・・・というのは、言うまでもなく。
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素材提供 :fuzzy