Mission:1 現在休憩中 濁った黒に近い灰色の雲が空を覆い尽くす中、薄暗い世界に小さな明かりが灯った。オレンジ色の、命の光。 「なんだかんだでなあ……レギ、お前マジでいいの? いや俺たちが誘ったんだから何を今さらって感じだけど」 「あ、はい。あのままレジスタンスに残っていても、僕なんかだったら爆弾抱えて敵陣投下、それで終わりの人生だったでしょうから」 「…………それは嫌だよな。ていうか、まあ、うん。確かにそんな非人道的なことも軽くやりそうな奴らだったな。こっちもヒヤヒヤしたぜ。なあ、クレーズ」 「そのわりに、レギを始めとして、その他のまともそうな人材へのPRはしっかりと行なっていたようだが」 「いや、しなきゃダメだろーがっ。今のところ上手く逃げてきてるし、リースさんとの約束だし」 「忍(しのぶ)は頑張ってるよ。最初は僕がやらなきゃいけないかな? って思ってたけどね!」 ぱち、ぱちっとたき火が爆ぜる音が響く。その周囲でかわされる、賑やかな会話。三人の少年と一台のロボット……と、そこに暗がりからフワフワと漂ってきた、もう一台のロボットが加わる。宙に浮かぶそれは、半透明なクラゲのようなボディを持っていた。 「お、クラ、お疲れさん。ルートはどうだった?」 忍、と呼ばれた、茶まじりの金髪をオールバックにした背の高い青年が、真っ先にロボットへ声をかけた。ロボット、クラは何も答えないまま、自らのコマンダーたる片眼鏡(モノクル)の少年、クレーズに近づいていく。 クレーズはクラから伸ばされた触手を一本手に取り、装着しているヘッドセットの下部に並んでいる小さなスイッチを押した。 「……障害、もしくは障害となり得る可能性を含んだ物は、今のところ進行方向には見られないと」 「うっし、なら休憩終わったらまた走るか。レギ、酔ったらちゃんと我慢しないで言えよ?」 「は、はい」 癖の強い短い茶色の髪を揺らして、真っ白な肌をした少年、レギは勢いよく頷いた。目眩が収まったのを確認し、ゆっくりと立ち上がる。と、そんな彼の目の前に、無造作に湯気のたったお茶の入っているカップが差し出された。視線を上げれば、仏頂面のクレーズが。 「飲んでおくとよいかと。また、気持ちが悪くなったら摂取が不可能になるだろうから」 「ありがとう、ございます」 お茶を出してきたのが忍ではなくクレーズだった、ということにひどく驚きつつ、レギは素直にカップを受け取った。少しだけすすりこんで、ほっと息を吐く。 和むレギの傍らでは、少しばかり広げていた道具を自身のドライド(※地上を走行する防弾加工の施された特殊バイク)に積み込んでいた忍が、おかしそうにクレーズを突っついていた。それに対して、スカイバグル(※タイヤのない空中を滑空するスクーター)の準備をしているクレーズは無言。 「……そういえば、お二方がずいぶんと……その、生い立ちから訳ありなのは教えてもらいましたけど、どういった経緯で知り合ったんですか?」 半分程度までお茶を飲み、体が温まってきたところで、レギはふと思ったことを口に出してみた。しかし、それが聞こえていたのは忍の相棒だという、白い自立型マシンの鉄(くろがね)だけであり、質問された当人たちは荷物を積み込みながら、まだふざけあっている。 「レギ、ちょっと待ってね……ねぇねぇ忍ー! クレーズー! 二人がどうやって会ったのか、レギ知りたいってー!」 「あ、いや、別に絶対知りたいってわけじゃ……!」 鉄の言葉に慌てるレギだったが、振り返った忍の顔に不快さなどの表情が浮かんでいないことに安堵する。 「俺たちが会った経緯、ねぇ……。そりゃ、お前をこれから連れて行くドームの件の前、だよなあ」 「お前の頭のできではとうに忘れているかと」 「クレーズ、てめぇ最近口が悪すぎなんだよ。俺だってそれぐらいは覚えとるわっ!?」 こほんと咳払いをして、クレーズを叱り終えた忍はレギに向き直る。 「そんな楽しいような話でもないけど、それでいいなら、別にいいぜ。リースさんに会ったとき、レギの持ち話の一つにしてもいいし。な、クレーズ」 「ああ」 おろおろと辺りを見回しているレギに苦笑を浮かべつつ、忍はドライドの横に取り付けたサイドカーへ、レギの小柄な体を押し込んだ。 「じゃ、移動してるときにちょっと、次の休憩とか使って話す。ちいっと長くなるけど、それは勘弁な」 「それなら大丈夫です。じゃあ、お願いします」 「おう」 他の面々も出発の準備が整ったことを確認した忍は、最後に、赤々と燃え上がっていたたき火の上に、足で土をかけた。そのまま上から踏みしめると、そのまま火は消えてしまった。 |
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