STRANGEU - カゲナシ*横町



S T R A N G E U




□ 第一巻 守るための誓い - 10.新生活
 青い空、流れる雲。
 さわさわと穏やかな風に揺れる丘の草。
 もうずいぶんと肌寒くなってきたその景色を見つめながら、ガイルは仏頂面でほうきを握り締めていた。
 ……いや、仏頂面、というには目があまりにも死んでいた。

「ガイル様ガイルさまぁああああああああん!!! うふふあはは〜!!!」
「わー……今日もお熱いこって」

 庭先の枯れ葉掃きをしているガイルに代わって、洗濯物を外に干しているステントラは一瞬彼のほうを見、そして体ごとそっぽを向いた。このあからさまな同居人の態度にも、ガイルは青筋を浮かべたくなったが、関わり合いになりたくない気持ちは痛いほど分かる。
 棒立ちで腕だけ動かすガイルの首元には、町娘と同じ格好をしたヴィンスが絡み付いていた。恐ろしいほど濃かった化粧もほどほどに落ち着いており、爽やかな薄い水色のワンピースにカーディガンという出で立ちは、今まで敵対していた敵幹部とはこれっぽっちも思えない。
 ふと、自分の瞳と同じ色の空を見上げつつ、なんでこんなことになったんだっけとか意味のない問いに、思考を飛ばした。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 結局、先送りという結末を迎えてから、ヴィンスはガイルの命令で《ガレアン》にその身柄を引き取られることになった。ただ、その後幾度もガイルに会いに行こうと獄を抜け出しては何十人もの隊員をぶちのめしていくので、三日と経たずにガイルも一緒に獄へ放り込まれることになってしまったのだ。不幸すぎる。
 ガイルさえいればおとなしくなるというか、とりあえずガイル以外に被害が及ばなくなるのでこの強攻策をとったが、さすがに犯罪者と一般人(何度もいうが一般人)を一緒に閉じ込めておくとかどーなってんだ、となるので。

「……彼女の身柄の扱いが決定しました」

 首都にある《ガレアン》本部のお偉方に確認したりなんだりして、やっとこさ解決策が出た頃には、騒ぎが収まって一週間が経過していた。獄にいるヴィンスと、死に体といった風にしか見えないガイルを前に、メルティナが言いづらそうに書簡に目を通していく。その後ろで、さすがのレイドとカッティオも口元を押さえて青い顔をしていた。

「……こいつの扱いは後でいい俺をさっさとここから出せ出せ出せだしてくださいお願いします」

 きゃっきゃうふふと抱きつくヴィンスのことなど見えていないようなうつろな目で、壁際に縮こまりながら体育すわりをしているガイル。こんなに憔悴しきった彼を見ることになるとは思いもしなかった、なんてことは考えてなかったり……。
 いや、さすがに酷い。

「ええと、ヴィンス=ミルナーだけど、本部からはお前らが抑えられない化け物こっちが抑えられるわけがない、って言われたので、結局このままこっちで預かることになりそうです……」
「かつ、このままでは支部の人員も足りないというか、もう半分以上が使い物にならないからな……、武装解除、厳戒態勢の上、もうフィロットの中で放し飼いにするしかないんじゃないかと」
「あら、解放しちゃうの? あたしのこと」
「ちなみに確認ですが、もとの組織に戻るのと、この町でこのまま暮らしてガイルのそばにいるのどちらを望み」
「町にいるわ!!! もうとっくに裏切ってるようなものよね!!! 任務失敗してるからどっちみち帰ったら死ぬしかないし!!!」
「ではそのように。ちなみに町の人間に会って攻撃されても、なるたけ殺さないで下さいね。……殺さない範疇なら、こっちでどうにかしますから」
「おい諦めるな、お前らが諦めるな!!!? 治安維持がお前らの仕事だろうが!!!」
「いや、ごめん俺たちももう無理」

 ガイルの絶叫に、レイドが珍しく、非常に珍しく真顔で首を横に振った。彼も軽く眼が死んでいる。

「まあ、獄というか寝泊まりする場所はこっちで指定するんで、あと門限もつけるし……それさえ守ってくれれば、日中は自由に過ごしてていいですよもう。ついでに情報流してくれるとありがたいですよ」
「いいわよそれくらい!!!」
「お前もそれでいいんかっ!?」
「うっふふ〜、今はペルソナ様よりもガイル様のほうがだ・い・じ☆だもの! いっくらでも《ゼト》の情報流しちゃうわよ!!」
「うっわー敵になるのも嫌だけど味方にもしたくない……ていうか、ペルソナ様?」
「ええ、《ゼト》の最高幹部で我らが総帥。つまるところ黒幕よっ」
「「「おい軽い!!!」」」

 裏切ると決めた変態は妙なところで強かった。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 そんなやりとりがあって、早一週間。つまり、ヴィンスが襲撃してきてから、もう二週間が経過していた。

「はぁああ昼間しかこうしてガイル様とお会いできないなんてっ。でもまあ、やっぱりあのメルティナとかいう女はなかなか見所があるわぁ、尋問のときもお茶を用意してくれるしガイル様の情報を必ず三つはくれるし!」
「裏切り者が近すぎる!!!」

 めきりと音を立ててほうきの柄が折れた。と、そこで家のドアが吹っ飛ぶ勢いで開かれ、背後に般若を背負ったティルーナがガイルの腰あたりに抱きついてきた。

「とっっっとと帰りやがれですぅううううう!!! 私たちの平穏生活に水を差すなってんですぅううううううう!!!」
「何よちびがき、あんたみたいなちんくしゃに絡まれたんじゃガイル様に迷惑でしょ、ていうかうざったいわ離れなさいっ!!! ってあああガイル様そんなっ折れたほうきで突き刺そうとしないで下さいませぇええええうふふふふぅうう!!」

 一転し、冷ややかな眼をティルーナに向け、彼女の首にナイフを滑らせようとしたヴィンスだったが、すかさずガイルにどつかれて恍惚状態に戻る。ついでに、ヴィンスから見えない位置に手を伸ばし、そろりとティルーナの頭をなでた。
 それぞれ逆方向から、ぎゅっと強く抱きついてくる二人を棒立ちで放置しつつ、ガイルは空に向かって息を吐いた。