STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第一章 1.変人の町
(ニゲナキャ)

満月の夜、かすかな羽ばたきが森に響く。
彼女は今、『この姿』で地上に来たことを心底後悔していた。

(ツカマッタラ)

「……あっちだ!」

ガチャン、と金属のぶつかり合う音と共に、男の声が聞こえてくる。
多くの人が走る音、馬のひづめが地面を蹴る音、夜の静寂は破られた。

(オコラレル)

彼女は自分の命の心配をするよりも、親にこのことを知られたらどうしよう、と思い詰めていてかなり落ち込んでいた。
退屈で、ちょっと暇つぶしにプラプラしていただけだったのに。

「いたぞ! 撃て!」

ハッとして、彼女はくるくると回りながら右へ急旋回する。 男たちの使う異様な武器の攻撃をかわし、さっさと隠れるつもりだったが。

(!)

「やった、捕った!」

心底嬉しそうな声が響き渡る。 男たちは彼女の逃げ込んだ木を見上げ、思わずにやりと笑った。

「ったく、手間取らせやがって……」

男たちの中で、一番小柄な男がひょいひょいと木の上へ登っていく。罠にかかっている彼女を見て、男は満足げにうなずいた後、手を伸ばし……。

(ダメ、オコラレタクナイ!)

「んあっ?」

すべてが、『白』になった。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



『……三日前、ガラス細工で有名なシェンズに、盗賊の一味が乗り込んできました。『ガレアン』の抗戦もむなしく、町はほぼ半壊の状態に……』

「ふーん、シェンズに盗賊……ね。別段珍しくもないか」
「あそこでつくられてるガラス細工、綺麗ですもんね〜」

ラジオの放送に耳を傾けつつ、若草色の長髪をもつ青年はフライパンを片手にどでかいホットケーキを焼いていた。ぽんと放り投げ、ひっくり返す。無表情のまま、今度は本気でそれを『投げた』。
投げられた特大ホットケーキはしばし宙を舞い、サッと差し出された大皿の上に落ちた。薄いオレンジ色の髪をした少女が、幸せそうにそれを食べる。いや、飲む。

「んむ、そう言えば、ステントラさんも首都に行きがてらシェンズにも寄ってくる〜って言ってませんでしたっけ?」
「ああ、そういや自慢げに話してたな、そんなこと」
「ところでガイルさん、おかわりお願いします〜」

ぴしっと青年、ガイルの動きが止まった。
そろーりと後ろを向く。頬にパンくずをつけフォークをくわえたままこちらを見る少女。
もっている皿はすでに空。

「……おいふざけてんのか? まだ焼いて数十秒だろ」
「ふざけてませんって〜。まだ四枚目じゃないですか」
「それをふざけてるっつってんだろーが暴食女! なんでお前の朝メシつくるだけでこんな体力消耗しなきゃならねーんだよ!」
「だから、ガイルさんが楽できるように私がつくるって言ってるじゃないですか〜」
「それこそ悪夢だ。お前がキッチンに立てばものの五秒で家が吹っ飛ぶ」
「大丈夫ですって〜、今まで生きてたじゃないですか〜」
「お前が料理の準備する段階でこっちはひん死状態になるんだよ!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、ガイルはせっせと手を動かす。ボウル一杯のホットケーキの生地をフライパンにぶち込み、火力最大限で焼いていく。片手でひっくり返ししばらく放置、そして瞬時に投げる。それを少女がキャッチし飲む。

……これが彼らの朝食風景だった。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



女性は自分の体より若干大きめの作業着を着て家を出た。
そのとき、忘れ物に気づいて慌てて玄関に戻る。重そうな鉄のカギを手に、女性は町の中央広場へ向かった。
広場には時計台があった。
女性は鉄の鍵でドアを開け、中の階段を上っていく。途中何もないガランとした部屋で階段は途切れ、奥の方に古びたはしごがあった。女性は部屋を通り過ぎ、まっすぐにはしごを登り出す。
はしごを登り終え、女性は風を感じた。
時計台の鐘が目の前に現れる。ふっと笑って、女性はまた別のはしごを登り始めた。
その上にある時計の中、歯車だらけの部屋を点検し、朝の鐘を鳴らすためはしごを下りる。鐘を鳴らすロープに手をかけてから、女性は自分の足下に何かが転がっているのを見つけた。
真っ白な、それは小鳥だった。

「……?」

ぐったりとしているそれを抱き上げ、女性は見た。
床にある、小さなしみ……小鳥の血を。

「……いやああああああああああっ!」

女性の絶叫が、朝の鐘代わりに町中へ響き渡った。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



『……なお、盗賊の一味はガラス細工に一切手をつけず、まるで嵐のように町を通り過ぎていったといいます。彼らの目的は今だ不明で、現在『ガレアン』本部から警備態勢強化けいびたいせいきょうかとの命令が……』

「ぶっそうだねぇ。そう思わない? エイルムくん」
「メスと注射器かまえてにやけているお医者さんもぶっそうだと思うんだけど……」

鮮やかな深紅の長髪を頭頂部で一つにまとめている青年、エイルムは普段から持ち歩いている杖もマントも壁にかけ、左腕を出していた。
その正面に立っているのは、まん丸の眼鏡をかけた痩せぎすな男。白衣を着て注射器を構えている姿は医者のようだが。

(うう、だからいやだったんだ……もうこの人医者って言うかどっかの科学者だよ! 目が隠れてる分よけい怖いし!)

「テッド、頼むからミスしないでね? ホントに、変な薬とか注射しないでね!」
「おや、そうですか〜。まぁエイルムくんも風邪気味ですし、これを試すのは別の……そうですね、体の頑丈そうなケゼンさんにでもしましょーか」

(なにを試すつもりだったんだー!)

テッドの手にあるのは怪しげな瓶。瓶の中で揺れる液体は、うっすらと青みを帯びていた。
まるで宝石のような美しさだったが、むしろそれが怖さを倍増させる。

「まずちょっと血をとりますねぇ。あ、薬はこっちですから」
「は、はい」

雰囲気はやばいが、テッドはこの町に住む唯一の医師だ。頭も(一応)いいし、治療ミスも聞いた限りでは皆無である。
だが、いつもこういった言動ばかりをとるので、住民たちはいつか彼に実験材料として使われるのではないかと恐怖している
(実はすでに一部の人間は気づかぬうちに実験台にされているとかいないとか……)。

『……さて次のニュースです。つい最近、同盟国であるイースティトで一部の古代遺跡が破壊されるという事件がありました。世界的にも貴重なキナ遺跡を始め、すでに三つの遺跡が爆破』

「盗賊の次は爆弾ですか。多いですねぇ、ホント。……はい、終わりましたよ」
「ありがとう、お代はこれくらい?」
「はい、ムリしちゃダメですよ? 今日中に検査して、結果は『鳥』でお知らせしますから〜。家でおとなしくしてること。体弱いんですからね」
「はいはい」

エイルムはマントをはおり、玄関に向かった。
その後ろにテッドも続く。玄関の戸を開けた瞬間。

「……いやああああああああああっ!」
「っ?」
「はら?」

甲高い絶叫が響き渡った。