STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第一章 2.白い小鳥
ばさりと黒いコートをなびかせ、二人の青年が走り出した。
一方は白く、一方は黒い髪。

「なんだろうねぇ、今の悲鳴」
「悲鳴のレベルか? 絶叫だぞ」

左肩の部分に縫いつけられたシンボルは『砂時計サンドグラス』。全く同じ制服を着た二人は、五分とかからずに広場へたどり着いた。
悲鳴が聞こえたのはこちらの方……。

「れ、レイドさん! カッティオさん!」
「ん?」

青年がそろって振り向く。
肩で息をしながら青年たちと同じように広場へ飛び込んできたのは、すみれ色の髪と瞳をした女性で、神官プリーストの法衣をまとっていた。
落ちかけた眼鏡を直し、深呼吸しながら二人に問いかける。

「あ、あの、どう、なさって……?」
「見回り中に悲鳴が聞こえたから、大至急駆けつけ」
「ミリルさん! お久しぶりです、そんなになるまで僕に会いにきてくれるなんて、僕はなんて幸せ者なんだろうか! まだ朝ですが、このあと僕と少しお茶でも」
「黙れ脳内桃色人間」

白髪の方がすかさず黒髪の方を殴る。
プリースト、ミリルは一瞬心配そうに黒髪の青年を見たが、すぐ時計台に視線を戻す。そして、何も言わず白髪の青年の脇を通り抜け、時計台の扉へ走っていった。

「…………」
「カッティオ、いい度胸じゃあないか。今本気で殴っただろう」
「悪いか腐れ外道の女たらし。女性にあったその瞬間にあれやこれや誘いかけようとするの止めろ」
「まったく君は、どうして女性とおつきあいする楽しさが分からないかなぁ」
「お前を見ている限り分かりたくもない。というか清々しいくらい仕事投げたなお前」
「ふ……仕事と女性、どちらを優先するかは明白だろ?」
「……お前一度魔界に落ちろ」
「君の方が似合ってるんじゃない? 魔界」
「お前は一度その腐った性根、魔族たちに切り落とされてこい」
「はぁぁ〜、好き嫌いの多い人間ってこうも性格歪んじゃうのかなぁ」
「なんだと」

本気で二人の間に殺気の火花が散り始めたそのとき。

「うぎゃあああああああああっ!」
「メミィ落ち着いて……お願いだから!」
「いやああああああああああっ!」
「ちょっと落ち……落ちるぅぅううう!」

時計台の鐘の下から、ミリルと作業着を着た女性が飛び出てきた。 レイドとカッティオは地面を蹴り、それぞれを下で抱き留める。

「……ミリル、どういうこ」
「あぎゃあああああああああっ!」
「あだだだだだだだあだっ!」
「れれれレイドさん、メミィを投げて!」
「いやそんな女の人投げるなんてできっこないだだだだだあっ!」

レイドはメミィを抱きかかえたまま、パニックで暴れるメミィの攻撃を一身に受けていた。ミリルはカッティオに下ろしてもらうと、手に持ったもので。

ゴガンッ!

メミィの頭を殴りつけた。
ぴたりとメミィが止まり、かくんと力が抜ける。頭から噴水のように血が吹き出ていた。

「ミリルさんー! あなたなんつーこと……って」

あ然としていたレイドとカッティオは、ミリルの持つものに目を奪われる。それは時計台の歯車を整備するための特大スパナで、長さはゆうに八十センチはありそうなものだった。

「……あんた、それで殴ったの?」
「お、収まりましたか」

(いや収まったとかいうレベルじゃねーだろ)

ふぅと一息ついて座り込むミリルに、二人は無言で畏怖を込めた視線を向けていた。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……また聞こえたな。悲鳴」
「誰でしょうね〜、朝から迷惑です」
「俺からすればティルーナ、お前の存在が迷惑だよ」
「ひどいですね〜、私のどこが迷惑なんですか」
「だからそんざ、って、だぁあああ!?」

ガイルは少女、ティルーナを見て絶叫を上げた。つい数分前朝食(特大ホットケーキ計十三枚)を食べ終えたティルーナは、今度は板チョコをむさぼり食っていた。
しかも一枚や二枚ではない。
テーブルの上にはすでに包み紙の山、そして手がつけられていない(これから確実に消える)チョコの山が。

「なんだそれー!?」
「チョコですよ〜、わかりません?」
「だからっ、なんでっ、こんなにあるんだー!」
「今までずっとガイルさん買ってくれなくて……むしゃくしゃして……おねだりしました」
「誰にだっ!」
「フェラードさんとケゼンさんとアデレーナさんです」

満面の笑みを浮かべ、ティルーナはあっさり答えた。最後の人物の名前を聞いて、ガイルは凍る。

「皆さんそーかそーかってうなずいてたっくさんくれたんですよ〜。あ、そう言えば、見つかったらガイルさんに見せなさいってアデレーナさんが……はい」
「…………」
ガイルは恐る恐るティルーナから封筒を受け取り、中の手紙を見た。
そこには

『ティルーナちゃんにいじわるするんじゃないよ。チョコくらいいいじゃないか。
それとチョコの代金は(ピー)イザ、ステントラのバカがツケてった酒代(ピー)イザ。
ま、こっちも商売なんでね。この手紙見てから一週間以内に払わなけりゃ、ニナを使いにだすからね。覚えときな。

Byアデレーナ』

(……地獄だ)

とんでもない金額をババンッ、と二つも叩きつけられ、ガイルは死にたくなった。
そんな落ち込むガイルをよそに、ティルーナは実に幸せそうにチョコをかじっていた。

「おいし〜」



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



がさがさと茂みが揺れ動き、ぴょこっと顔が現れた。不機嫌そうなその顔は、以前『彼女』を捕まえようとしたあの小柄な男のものだった。
男はきょろきょろと辺りを見回し、再度茂みの中へ引っ込んだ。森の中へ戻り、仲間と合流する。

「おーヒユ。どうだったぁ?」
「あれが逃げたとすればこっち方面だと思ったんだがな。ったく、めんどくせぇ」
「おうお前らあんまでけぇ声出すなよ。一応これ隠密行動な。派手な行動も」
「ああ、そーだな。ぜってぇ目立つんじゃねぇぞ」

がさり、と奥の方から声が聞こえ、男たちのまえにその人物は現れた。

「ボスゥ! その言葉そのまんま返しますぜ。ってか、まぶしっ!」
「派手な行動どころかボスの存在が派手ッスよ! なんすかその宝石!」
「うるせぇ隠密行動っつっただろーが! 黙らねぇやつは俺が黙らせるぜ!」
「だーらボスが言っても説得力0ッス。ご自身のカッコを見てくだせぇ」

ボスと呼ばれたその男は、体中にじゃらじゃらと宝石やら金細工やらをくっつけていた。最早『あれ盗んでもばれなくね?』ではなく『見てるのも鬱陶しい消えてくれ』のレベルである。腰にはいている二振りの湾曲刀シミターも、ただのお飾りらしい。

「はん、いいんだよ俺は! 俺は影のように生きる男だからな、こんな格好でも誰も気づかんわ。ガーッハハハハハ!」

(いやあんたの存在太陽のごとくって感じですけど)

男たちはそのつぶやきを何とか飲み込み、地図を広げて言った。

「ボス、あいつこの森にもいないみてぇですから、やっぱもう一回……」
「ふん、町荒らしか。なんて町だ?」
「えーっと、ここから見える町、町……げえっ!」
「んだよとっとと言えや」
「ボボボボボスゥゥ、あ、あれ、フィ、フィロ……」
「はっきりしゃべれやあああ!」
「おぐぅっ!」

男が一人殴られて気絶、代わりの男が地図を見て、やはり驚きながら答えた。

「フィロット……あの『変人の町』かよ!」
「なっ……」

ボスもそれを聞いて固まった。
フィロット。
それはいく人もの旅人や商人たちが迷い込み、心身ともに無事で戻ってきた者はいないという謎の町。首都はおろか近隣の町村とも連絡を取らないため、廃墟と化しているのではないかという噂さえ流れている始末。

「おおおおおい、やややヤバくねぇ? そんな町にあれが紛れでもしたったら……」

ボスの声も若干(?)ふるえる。下っ端の男たちも不安げに辺りを見回す。
それからボスは自分のバカさ加減に気づいた。トップに立つ自分がおびえていれば、下っ端には倍以上の恐怖が伝染する。
いかん、これはいかん!

「う、うううううろたえんじゃねぇー! へへ、へへへんだ! 『変人の町』だろーがなんだろーがおおお俺は行くぜええええ!」
「ボス〜、もう残像見えるくらい膝ふるえまくってまーす」
「黙れぇえええ!」
「ごはぁっ!」

こんなどんちゃん騒ぎが、フィロットのすぐ隣に存在するトールの森で繰り広げられていた。