STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第一章 1.観光旅行
「わぁ、ガイルさんっすごいです! 大きな湖ですよー!」
「あー、ライ湖、だったか。クオーブ遺跡と並ぶ、リーゼの名所だな」

薄いオレンジ色の髪をツインテールにした少女が、窓にぎりぎり触れない位置から外の風景を眺めていた。その隣で、若草色の長髪をもつ青年が手のひらサイズの冊子を読んでいる。表紙のタイトルは、『イースティト 〜短期間で充実観光!〜』。

「そろそろ、なんだな」

ブォォォォォ……
低いエンジン音を響かせながら、それは青年や少女……ガイル、ティルーナの他に大勢の人間を乗せ、ヨーゲンバード国外を飛行していた。この世界でも、あまり普及していない空飛ぶ『キカイ』、飛行艇。
それは、隣国イースティトの都市リーゼへ向かっていた。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「なぁなぁガイル、お前観光ってしたくないか?」
「却下」

ガイルは朝食で使った食器を洗いながら答えた。
ティルーナと共に食後のデザート(ガイル特製ゼリー生クリーム付)をパクつきながら、全身黒ずくめゴーグル常時着用の不審者としか言いようがない青年、ステントラが言う。

「なんでだよ〜」
「お前のそういう誘いはことごとく蹴ってやるつもりだが」
「いやなんで蹴るのかっていうのをこっちは聞いてるんだけど。どーして俺の善意を踏みにじるのっ」
「気味悪いしゃべりかたするな。お前の善意なんか受け取りたくもない。受け取った瞬間に何かが終わりそうだ。だからことごとく叩きつぶす」
「ひっどい意見だなオイ。今まさに俺の善意は叩きつぶされたがな!」

ステントラは最後に、ゼリーにたっぷり生クリームをのせて食べようとし……ティルーナに横取りされた。

「あっ、俺のお楽しみ!」
「ふっふーん! ステントラさん、甘いですよぉ〜」

パクッ、とティルーナはゼリーを自分の口の中へ放り込む。実に幸せそうなその笑顔の前で、ステントラは怒るに怒れず、口の中でモゴモゴと文句を言うにとどまった。 がっくりと肩を落としつつ皿をキッチンへ下げに向かう。

「ほー、最近はちゃんと皿を持ってくるようになったじゃないか。進歩だな」
「おーいガイルくん、君の脳内じゃ俺は一体何歳児?」
「危険かどうかも分からず自分にとって未知の世界へ迷わず無謀に飛び込んでいく二歳児」
「…………いや、なんか……当たらずも遠からずってところが、なんか」
「まぁ確かにステントラさんって無鉄砲なところありますけれどねぇ」

ステントラの後ろから、ティルーナも自分が使った皿とスプーンをシンクに置き、何気なく聞いてみる。

「あの、ステントラさん」
「ん〜?」
「観光って、内容だけ教えてくれたりします?」
「おいバカお前……」

ガイルの制止も間に合わず、ステントラは満面の笑みを浮かべてティルーナの肩に手を置いた。

「よくぞ聞いてくれました! ちゃーららったらー!」

よく分からないリズムと音程の効果音付きで、ステントラはジャケットのポケットから一枚の紙切れを取り出した。興味津々のティルーナの前で、ステントラはそれをゆらゆらと振りながら言う。

「俺さ、『あの事件』が起きるちょっと前に首都へ行ってきたろ? そのときにさ、手に入れたんだよね」

ステントラはくるりと振り返り、エプロンを外して手を拭いていたガイルに紙切れを差し出した。ガイルはじとーっとステントラを睨みつつも、思わず紙切れを受け取ってしまう。
紙切れには、こう書かれていた。

「……『遺跡の国 イースティトへご招待! ヨーゲンバード首都ビサクよりイースティト・リーゼ行き飛行艇ペアチケット』……って」
「イースティトって、あのたっくさんの古い遺跡で世界的に有名な国ですよねっ!」

ティルーナが興奮しきった声で言う。
イースティト国は、ここヨーゲンバードと同盟を結んでいる友好国であり、ティルーナが言うとおり世界的に古くからの遺跡が残っていることで有名であった。
そのチケットを見て、思わずガイルもぐらっとくる。……彼は案外、遺跡や自然と言ったものに弱い。

「どう? あの後のドタバタで一ヶ月くらい経っちゃったけど、まだそのチケット使えるはずなんだよね〜」

確かに、チケットの期限は『大神ゼィーヴの頃』から『メア神の頃』まで有効だと書かれていた。今はちょうど、『メア神の頃』まっただ中。
ガイルの中で、てんびんが揺れた。一方にはステントラに対する疑いや不信感、もう一方はこの『観光』に対する興味、期待。スッと視線を横にずらすと、キラキラした目でこちらを見つめるティルーナと目があった。

「……ペア、ってことは、誰と誰……」
「お前ら二人で行ってこいよ。俺、イースティト行ったことあるし」

かくん、とてんびんが傾いた。興味、期待の側へ。

「……このチケット、くれ」

そう言って、ガイルはステントラの顔を見た瞬間、やっぱ断っときゃよかったと心底後悔した。ステントラはにんまりと腹黒く笑いながら、こうのたまった。

「みやげ、よろしくなぁ〜」