STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第四巻 賢き獣の宴 - プロローグ
シャラア――――― ン・・・・

「団長って、やっぱりすごく綺麗だ〜」
「あら、ありがとうビリー」

手に持っていた、大小様々な形の鈴を袋に収め、赤がね色の髪をしたその女性はふんわりと微笑んだ。 微笑みを返された、カラフルな三角帽にだぶだぶのつなぎという道化師の格好をした少年は、真っ赤になってうつむいてしまう。

「僕も、踊りが上手かったらなぁ・・・・」
「大丈夫、諦めないで練習をすれば、ビリーもいろんな芸ができるわよ」
「・・・・うん、クラン団長、僕諦めないよ」
「よろしい。それじゃ、また玉乗りをしてみる? それともバトン?」
「玉乗りもう一回。で、あそこの馬車から戻って来れたら、バトンする!」
「それじゃ行きましょうか」

クランはビリーの手を取り、そばにあった自分の腰ほどまでの高さのあるボールをよせてきた。 ビリーは真剣な顔をして、クランの手をとりながらゆっくりとボールの上にあがる。
ぐらぐらと揺れるビリーの表情も、それを支えるクランの表情も、全く同じ。 やがて、ビリーがゆっくりと足を後ろから前に蹴り出すと、ボールは前に向かって転がり始めた。 徐々にスピードのあがるボール。クランはとうとう走っても追いつけなくなり、ビリーの手を離した。
ビリーは手を離されたことにも気づかずに、ただ前を見てボールを蹴り続ける。 あっという間に折り返し地点の馬車の前までたどり着き、ビリーは別の方向へ足を蹴り出す。 ボールは大きくUターンをして・・・・結局曲がりきれず、馬車の側面に衝突した。ビリーの小さな体が吹っ飛び、 クランが慌ててそばに駆け寄る。

「ビリー!」
「・・・・い、ててぇ」

道化師の帽子も遠くへ飛んでいってしまい、あらわになったくしゃくしゃのくすんだ金髪をかきあげて、ビリーは大きくため息をつく。

「やっぱり、ダメだぁ。どうしてボールをちゃんと操れないんだろ、僕・・・・」
「ビリー、怪我はない? すりむいたりは?」
「あ、受け身をとったから大丈夫。クラン団長、すみません・・・・」
「何あなたが謝ってるのよ。待ってて、今帽子を取ってくるから」

そういって、クランはビリーの体に怪我がないのを確認すると、パッと立ち上がってビリーの帽子が飛んでいった方へと走っていった。
その後ろ姿を眺めていたビリーは、馬車の後ろからくすくすと笑い声が漏れてきているのを聞いて、はっと青ざめる。

「へっ、運動音痴のビリーがいっくら練習したってなぁ。団長だって自分の練習があるんだぞ。 お前、それなのに団長にばっかりベタベタしちまって」
「そうよ。みんな自分一人でがんばってるのよ。あなただけよ。まだ団長の足下うろうろしてるの」
「玉乗りもバトンも出来ないならダンス? ・・・・あ、ごめんねぇビリー、君、体硬かったもんね」
「あたしたちと一緒にバックコーラスでもする〜? でもオンチじゃそんなの出来ないわよねぇ」

くすくすと、ビリーよりも遅い時期からこの旅芸人一座に参加し始めている少年少女たちが、あざけりの笑みを浮かべて ビリーを見下ろしている。ビリーは唇を噛んで、それでも言い返した。

「で、でも、諦めちゃったら僕、本当に団長に合わせる顔、ないもの。今はまだ団長に手伝ってもらってるけど、いつか」
「今はまだって、そのセリフ一体何年前から言ってるんだよ? で、いつまで言い続けるつもりだ?  いつか一人でって、玉にも一人じゃまだ乗れないくせに」

少年の言葉はビリーの心をざっくりとえぐり出していった。呆然とするビリーの目の前で、少年少女たちは フンと鼻を鳴らしながら足早に去っていく。
ビリーの視界が突然滲んだ。ビリーは慌てて服の袖で両目を押さえ、ぐっと歯を食いしばり、感情の波が収まるのを待った。 と、そこで背後から温かいものに全身を包まれた。
驚いて顔を上げれば、ビリーの胸の前でほっそりした白い腕が二本、ぎゅっと強く交差されて、ビリーを抱きしめていた。

「ビリー、泣かないで。ゴメンね、ゴメンね・・・・」

優しい声が耳元から聞こえてきて、ぷつん、とビリーの中で何かが切れてしまった。 ぽろぽろと涙をこぼしながら、ビリーは首を左右に振り続けた。

「団長のせいなんかじゃない。僕が下手くそだからだよ!」

そして、ビリーは乱暴に涙を拭い、クランの腕をふりほどくと、勢いよく立ち上がってクランを振り返った。

「さ、行こう団長。次の町はもう少しなんでしょ? 名前は、えっと!」

そんなビリーを、こちらも泣きそうな表情で見つめていたクランは、ふっと笑みを浮かべ、ビリーの頭をそっと撫でながら答えた。

「フィロットよ。楽園とも、廃墟とも、地獄とも、いろんな噂の絶えない不思議な『変人の町』・・・・」

Back Next