STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 悪役たちと小さな少女 - 2)ひさしぶり
「おいコルァアアアアッ! いー加減ここから出しやがれー!」
「やかましいっ! お前らは犯罪者リスト最高ランクのヤツらだからな。 ったく、こんなバカに出し抜かれてたとは・・・・俺たちも落ちたもんだ」
「んだとおおおお! てめーらが目ぇどころか脳みそまで穴だらけだったからだろーがよぉ!」
「黙れこのボール!」
「ぐはああああああっ!」
「ボスぅ!」

ここはヨーゲンバード国の首都ビサクにある『ガレアン』総本部。 そして、その地下五階に存在する最凶悪犯用牢獄には、あの三人が……。

「てゆーか、なんで俺らだけこんなジメッジメしたところに押し込まれなきゃなんねーんだよ!」

向かって右の牢屋で、あぐらをかきながらぶつくさ言っているのは小柄な糸使い、ヒユ。

「そうだ! 他のヤツらはもうちっとお天道さんに近いところにいるのでしょうっ!  あ、ヤベヤベ・・・・ここは「いるんだろーがよ!」で怒鳴るところだ」

向かって左の牢獄には、色黒で、地味な罪人服を着ていても筋肉質なのが分かる体つきで女言葉を口走るギオが。

「て、てめぇ〜・・・・ぼ、ボールはねぇだろ・・・・くぅ〜! あの黒髪のあんちゃんはせめて『ミラー』つけてくれたぜ? 『ミラー』!」

そして、その二人に挟まれた真ん中の牢獄内で、膝を抱えながら呻いているのがボール……こと、ドーセイン。
二週間前に、『変人の町』を襲撃し、捕縛された盗賊団のボスだった。



「それじゃ、ボスさんいてら〜」

制服らしい黒のジャケットを軽く羽織った姿で、黒髪の青年が愉快そうに言った。

「これで、仕事が一つ片付いた・・・・」

その隣でボソボソとしゃべっているのは、同じく黒のジャケットを着た、 丁寧すぎるほどきっちり切りそろっている白髪を長く垂らしている仏頂面の青年。
レイドと、カッティオ。
『ガレアン』フィロット支部の副リーダーたちである。
そして、その二人の目の前にあるやけに堅牢な造りの、重々しい鉄製馬車の中から、怒鳴り声が響いてきた。

「てめっオイコラ小僧ー! 俺たちゃどこへ連れてかれるんですかー!」
「ぼぼボスっ! そーいうことは「どこ連れてくんじゃワレェ!」的に言うッスよ!」
「ん? いや、おっちゃんたちさぁ、この町に来る前にもシェンズで一暴れしただろ?  ここはまぁ俺らみたいに『寛容な』リーダーたちがいるからいいんだけど」

そう言い切ったレイドを、町の復旧作業のために近くを行ったり来たりしていた他の町の住民たちが白い目で眺めていく。

「本部や、シェンズ支部の『ガレアン』たちは、お前たちを最凶悪犯と見なしている。 ・・・・ま、当然だな。町の半分以上の面積で破壊の限りを尽くせば、それぐらいにはなる」
「だから、そこまで大事になってちゃ、さすがにココじゃおっちゃんたちのこと処理できないんで、一旦・・・・」

そこでわざとらしく言葉を切り、レイドはにま、と笑って言った。

「首都のビサクに行ってもらうことになったんだよ」
「……………はああぁぁぁあぁ! 首都ぉおおおおお!」
「マジですかい! 俺らそんっっっっっっなヤバイ状態だったんスかあああああ! ちょ、ボスぅうううう!」
「ややややかましいいわああああ! 声反響して頭ん中グゥワングゥワンなんだからよぉおおお!」

相当な重量であるはずの鉄製馬車が、ぐらぐらと左右に揺れた。 しかし、レイドは一切気にせず、爽やかさ九十パーセントの笑顔で手を振った(残り十パーセント・・・・黒)。

「まっ、強行軍だけど、エイルムの魔法に耐えられたんなら大丈夫でしょ。到着はだいたい三日後くらいかなー。 それまでその中でがんばってね〜」

そして、もう一方の手でそれぞれの御者たちに合図をする。 御者たちはコクリとうなずいて、繋がれた馬にむちを打った。 馬たちはいななき、直ったばかりの城門から次々と駆けだしていく。

「ちょ、オイイイイイイイイイイ!」
「じゃあねー」
「・・・・次の仕事だ。いくぞ」
「わかってるって」

豆粒大になった馬車に手を軽く振って、レイドはカッティオに襟首をつかまれたまま、ずるずると見回りへ連れ出されていった。

「フィーローッッッットーォォオオ! 今に見てろ今度こそそこにクレーターつくってやるぅうううううう!」

もはやゴマほどの大きさにしか見えなくなった馬車から、かすかに、そんな罵声が聞こえてきた。



そして、レイドの選んだ『鬼の御者たち』は、レイドの言った三日という期間をなんと一日半にまで縮めてしまった。
ドーセインたちがビサク『ガレアン』総本部の牢獄に入れられて、早一週間。

「……うう、飯も満足に食えねーなんてよぉ。俺たちまるで難民か罪人じゃん……」
「てめー自分の立場本気でわかってんのか。それともボケか? あーそーかい」

看守役は呆れたようにため息をつき、時計をちらりと眺めた。

「ああ、そうだ……おい、今日はてめーらのお仲間がくるぞ」
「はぁ? お仲間ぁってこた、我らがゴールディンシールバー、」
「ボス、ボス、もうそのネタ飽きたッス」

んだとコルァアア!? とぶち切れたドーセインをギオがなだめにかかり、その間にヒユが詳しい話を聞こうとした。
だが、看守役は煙草を吸う横顔をほんの少し、寂しげにゆがめながら立ち上がる。

「ちょ、看守さん〜? なーんかシリアス的な雰囲気なんスけどちょ、頼みますから、え? もしかして放置? 放置プレイ!?」

看守役はそのままスタスタと歩いていって、角を曲がっていってしまう。
ドーセインたちが入れられている最凶悪犯用の牢屋は、他の牢屋から隔離されるように、地下に二つほど潜ったところに造られている。 ドーセインたちが使っている牢は三つ、残るは二つだけ。 それを見れば、どれだけ自分たちが危険視されているかが分かる……はず、なのだが。

「なんなんだよ!? 俺一番辛いのシカト&放置プレイなんだよ! ていうかさ、コレを喜ぶ人間が信じらんねー」
「ボス、それはMってことですかい・・・・」
「けれど案外、そういう人って近くにいるものですわよ〜?」

うふふ、ともう女言葉を直すのもやめたギオが言う。
ずざざざざっっっ!
牢の分厚い壁越しでも嫌悪感を覚えた二人は、勢いよく離れた。

「ギ〜オく〜ん? 頼むマジでやめて? 筋肉バカでオカマでMって・・・・やべぇって。マジでやべぇって。 ていうか、もう何でもあり?」
「いや、一応規制はありますよーボス。・・・・ま、大抵ぶち破ってますけど」
「いや意味ねーじゃんそれ」

ドーセインはどはぁと豪快な(落ち込み)ため息をつき、ごろんと汚い床に寝転がった。

「てかよ、今日の看守なんかやけに静かじゃなかったかぁ?」
「あ〜・・・・ここってマジで情報、入ってこねぇッスからね。何があったのやら」
「ふぁ・・・・おやすみなさいグゴー」
「ちょ待ってぇええギオ!? この話の流れでいきなり落ちる!? ってかもう寝とるしぃ!」

ガシャンガシャンと鉄格子を揺らし、ドーセインは懸命にギオへと呼びかけた。
しかし。

「うるっせぇんだよこの団子! ちったぁ黙ってろいっ」

戻ってきた看守の投げつけた警棒が、すっこーんとドーセインの眉間に命中した。ナイスコントロール。

「うわおいでぇええええっ!?」
「すげ、ちょうど鉄格子の間すり抜けてる・・・・俺も投擲とうてき、練習するかな〜」
「ヒユくん、どーして君は俺を気遣ってくれないのかなああオイコルァアアアア!?」
「るせー団子、も一発いくか!?」
「遠慮しますっ!」

看守が新たな警棒を構えた瞬間、ドーセインは両手を限界まで挙げる。
盛大なため息をついた看守は、警棒をベルトに引っかけ姿勢を正し、振り返った。

「ここが・・・・牢、だ」
「そんなに構えないでよ。私は立派な罪人なんだから」

曲がり角から現れたのは、普通の男だった。
といっても髪はボサボサで、爪もひげも半端に生えている。一見浮浪者のようだが、その目はとても穏やかだった。 彼はニコニコと人なつこい笑みを浮かべ、ドーセインたちと向き合い

「こんにちは、今日からこの階の五番牢に入る、ノベリオ=アーロズです。よろしくお願いします」

至極丁寧に頭を下げたのであった。