□ 悪役たちと小さな少女 - 3)はじめまして ノベリオはとことん、『罪人』という単語からかけ離れた人物であった。 彼が来てからというもの、ドーセインたちは他の階にいる仲間たちのことや、 一般罪人の刑務所仕事などの体験談を聞くのが毎日の楽しみになっていた。 ときおり、ノベリオの方から「あなたたちは、なぜ?」などと聞かれるときもあったが、 そのときはドーセインがベラベラベラベラ余計なもの盛りだくさんの無駄話をするのだ。 看守もマジギレしたその超自己満足話を、しかし、ノベリオは 「へぇ〜、ドーセインさんってすごいんですね。世界に名だたる大盗賊団の首領、ですか」 と、素で信じ込んでいる。 こういった交流があって、ノベリオはすっかり三人となじんでしまった。 「でよぉ、俺が国中がんがん暴れ回ってたとき、二人に会ってよ。それから俺たちの歴史が始まったのよ!」 三日後、すでに八回目の『盗賊団結成の瞬間』話を、飽きた素振りも見せずにニコニコニコニコ聞いていたノベリオのもとへ、 一通の手紙が届いた。 手紙はすでに検閲済みの印を押されていたが、中央に貼られた可愛らしいハートのシールは丁寧に張り直されていた。 「お、なんだぁノベリオくん、彼女からかい〜?」 「いいえ、でも、同じくらい大切な人からですよ」 さらりと言われて、ドーセインものどを詰まらせる。 そんな彼にかまわず、ノベリオは彼らと向き合った形の五番牢のなかでゆっくり、封筒を開けた。 便せんは薄い空色で、可愛らしいたんぽぽの絵が端に書かれていた。 ノベリオはしばらく便せんを持ったまま、やがてスッと目を伏せる。 「あの、ノベリオさん? どーしたんですかい」 重苦しいわけではないが、なんとなく身動きのしづらい沈黙に耐えきれず、ヒユは聞く。 ノベリオは顔を上げ、いつもとなんら変わらなさそうな笑顔で答えた。 「・・・・娘からです」 「え、マジ? ノベリオくん結婚してたの!?」 思わずドーセインが叫ぶ。 瞬間、また警棒が飛んできた。 「へぶっ!」 「・・・・・・・・」 「イグール、やめてください」 ノベリオにいさめられ、看守のイグールは歯ぎしりしながら、自分の持ち場へ戻っていった。 それを見て、ヒユは確信する。 「ノベリオさん、あんた、ひょっとして『ガレアン』メンバーだったのかい?」 「んあ? ヒユぅいきなりどしたのよ」 「だってよ、なんかいつも乱暴なあの看守とか、見回りの警備員とか、みんなノベリオさんには・・・・なんつーか、敬意? みたいの抱いてるみたいな」 「う、ん。まぁね。確かに、私は『ガレアン』メンバーでしたよ」 「でした、って」 「ええ、私は、不正取引と殺人未遂容疑の二つでここに入れられたんです」 はい? と三人の目が点になる。 「不正取引は・・・・あ、ワイロと横領の二つですね。殺人未遂事件の方は首都治安部 副長官宅に放火、 副長官とその家族に重軽傷を負わせ、プラスその副官の背中を剣ですっぱり。こちらは軽傷でした」 「い、いや、ちょっと待って? ノベリオくん、そりゃああんた・・・・違うんじゃ?」 「ええ、たぶん押しつけですね」 寂しげな表情で、ノベリオは言う。 「私は、三十五歳で治安幹部連『 あんまりだと、三人は思った。 『ガレアン』は三人だけでなく、国中の犯罪組織にとっての天敵である。 こんなドロドロとした関係は、両者の間だけだと思っていた。 けれど、実際は・・・・。 「こんなものなんです、組織というものは。妬みや恨みを買いながら上へと進む・・・・足をすくわれたら、地よりも下へ堕ちていく」 ノベリオはそっと便せんを封筒にしまうと、愛おしそうに見つめた。 「妻は、私が犯人だと信じて疑いません。周りの今まで付き合ってきた仕事仲間たちも、私と同じような道を辿るのを恐れて 何も言いませんし・・・・孤立無援の状態ですね」 「え、けどさっきの人は」 「ああ、イグールは私と同期でしたから。同じ寮でご飯を食べたり、剣の鍛錬をしたり、 勉学に励んだり・・・・親友、とでもいいましょうか」 「ほぉ〜。ん? あんたは今いくつだ?」 「三十八です。彼も、同い年ですよ」 「それじゃ、ここの看守役になれるぐらいなら、実践面で優秀だったってこった」 「確かに、教官にはよく『お前たちを足して二で割ったらちょうどいいかもな』って言われました」 あはは、と和やかに、だがどこか誤魔化すように四人が笑っていたとき。 「・・・・ノベリオ」 「うわお噂をしたらイグールくん・・・・ってわー!? あんた何その顔! 五分前とえらい違いだなおい」 憔悴しきった表情で、イグールが角から現れた。 手には、汚い文字で書かれ、どでかい判を押された書類がある。 「あいつからだ・・・・『三度目』を行うと」 「はぁ、またですか」 「・・・・すまない」 「にしても、毎度毎度ここでイグールを選ぶ辺り趣味の悪さが露呈されていますよね。 大丈夫ですよ、お願いします」 ノベリオはにっこり笑って、よっこらしょと言いながら立ち上がった。 イグールは牢の扉を開け、腰のポケットに入れていた手錠をノベリオの両手にかける。 「おーいっイグールくん? どーこいっちゃうの〜」 「そーですわ、せっかくノベリオさんと楽しくお話してたのにっ」 「ギオ、ちょっとてめぇ黙っとけ? このシーンでそれはきっついわ」 ドーセインはスカンと錆びたスプーンをギオに投げつける。 ノベリオはおもしろそうにそれをみていたが、すぐイグールに連れて行かれてしまった。 「ったぁくよ、んだよアイツ、超ウゼー」 「・・・・ボス、なんスかその口調、不良? あ、わかった不良ギャル!」 「なんでそこからギャルに飛ぶ!?」 ぎゃあぎゃあ わあわあと喚いていた三人だったが、ふと視線を感じて行動停止。 「・・・・ん?」 クスクスと笑いながらドーセインたちを眺めていたのは、実にこの場の空気に似合わない可愛らしい少女だった。 ふんわりと波打った短いブロンドの髪を、両耳の上の辺りで結っている。 瞳は先ほどノベリオがみていた便せんと同じ、薄い空色だった。 ブラウスの上に膝丈ワンピースを着たその少女は、ニコニコ笑いながらドーセインを指さす。 「お、俺か?」 「おじちゃん、もっといっぱいおしゃべりして!」 「おしゃべりって、このコント?」 「あれーギオ、ヒユ、やっぱお前らコントって意識あったわけ」 「いや、それしかないっしょ。ちなみにボスのツッコミレベル上げるためですよ」 「ツッコミレベルなんかどーでもいいんじゃあいっ! ていうかそんなレベル上げたところでどこからもスカウトされねーよ俺? むしろ痛々しいよイロんな意味で!」 ドーセインが早口でまくしたてれば、少女はキャッキャッと嬉しそうに足をばたつかせる。 「・・・・俺らまるで檻の中の動物じゃん、すげぇ会話だけで爆笑してるぜ」 「え、ボス、今までアンタ自分のこと動物じゃないって思ってたんスか?」 「ちげーよ! 俺の言い方が悪かったって、人間も動物ですが人間以外の動物のことを俺は言いてぇわけでぇええ ああもうワケわかんねぇっ!」 もぎゃあっ! とドーセインは叫ぶ。少女はもはや体をくの字に折り曲げて「く、は、ふ・・・・」と完璧にツボにはまっている。 端から見ればまるで呼吸困難・・・・。 「・・・・う、あ」 「ぎゃーボスぅううう!? この子マジで息詰まってマス!?」 「嘘だろおいいい!? 嬢ちゃん大丈夫か!」 「・・・・く、ぱ」 「はい胸を反らして〜、伏せて〜、鼻から息を吸って〜」 ギオが横から指示を出す。少女は何とか持ち直した。 「・・・・笑い転げて呼吸困難になった子、初めて見た」 「えへへ、だっておじちゃんたちおもしろいんだもん」 少女はにぱ、と笑って辺りを見回した。 「ねぇおじちゃん、ここに、ノベリオって人、いなかった?」 「んあ? ノベリオくんならついさっき出てったけど? あ、入れ違い?」 「出てった・・・・じゃ、ムジツになれたのかな!」 「いやいやそういった『出る』じゃなくて、一時的に牢屋から出させてもらっただけみたいよ? えーっと、そいや君、誰? ていうか何でこんなとこにいんの!」 「お手紙、ちゃんと届いたかな〜って・・・・パパを捜しにきたの!」 「へぇ〜パパを捜ええええええええええええっっっっ!?」 「「っるせぇえええんだよ!!!」」 絶叫するドーセインに向けて、今度はヒユとギオが左右から皿を投げつけた。ガンゴン! と直撃、しばらく頭の上に ひよこと星が現れる。 「にしやがんだぁてめーらよぉ!? もはや俺、ボスの威厳もナシ!?」 「メンドーッスね、あるわけないっしょそんなもん」 「ひひひひヒユぅうううう!?」 「・・・・あー、眠」 「寝んなやっ!」 「おじちゃんたち、ホントーににぎやかだね!」 「・・・・いや、あのね嬢ちゃん、君みたいな子どーやってここまで来たの? つか、コワイ人いっぱいいたでしょ?」 「ううん? いなかったよ。なんかね〜、おじちゃんたちみたいにとってもおもしろいお兄ちゃんたちとかが、 いっぱいいたの!」 「・・・・(なぁなぁ、それってやっぱ俺たちゴールディオンシー)」 「・・・・(くどいッスから、もうそのネタやめましょーやボス。ま、金銀特別盗賊団でいいッスよね。てか、この辺の階で にぎやかって言えばもう俺らの仲間ぐらいしかいないッスよ)」 「ちょ待てぇええ!? なんでそこ訳すのかな!? だーから格好よくゴールデーイシルゥヴァー」 「くどいって言ってるのに、しつこい殿方は即行でふられる運命ですわよっ!」 ギオ、ただいまオカマレベル上昇中。 「「てめぇがくどいわっ! つかキモいって何べん言わせんだよ!」」 「ねぇおじちゃん、パパがどこにいったか教えて?」 今まさに身を乗り出し、なんとかギオに皿を投げ返してやろうと腕を振っていたドーセインは、 格子に飛びついてきた少女に驚き尻もちをつく。 「でっ! あ〜、ノベリオくんなら、あっちの奥の方いっちまったけど・・・・」 「わ、ありがとおじちゃん!」 満面の笑みで礼を言った少女は牢から離れ、ドーセインの指さしていた方へ走ろうとする。 しかし、すぐに立ち止まって振り返ると、 「私ね、ウィン=アーロズっていうの! じゃあね」 そして、パタパタと可愛らしい足音を残して走り去ってしまった。 しばらくぼ〜っとしながら宙を眺めていた三人だったが、勢いよくそれぞれの格子にへばりつくと堰を切ったように話し出す。 「なぁなぁ今のマジでノベリオさんの娘さん? てか、めっちゃかわいかったな!」 「雰囲気もノベリオくんそっくり。あ〜俺も女の子欲しかったな」 「キッツくんもトッツくんも十分可愛いでしょう? それに、女の子を授かってもあなた似の場合、その子一生悲嘆に暮れ続けますわよ」 「ギ〜オ〜く〜ん〜? それは一体どーいうことでぇオラァアアアッッ!?」 そのとき。 パタパタッ カツッカツッカツッ・・・・ 「うわー!」 「ウィンちゃん待って! なんで君、こんなところに!?」 「い〜やぁ!」 三人の牢屋の前をウィンが駆け抜けようとした瞬間、彼女は後ろから追いかけてきていた『ガレアン』の青年に 「い〜や〜あ〜! 降ろして〜!」 「や、ウィンちゃんだから・・・・」 「うぉーい兄ちゃん、乱暴はいかんぜ〜」 ドーセインは呆れたように、あぐらをかき頬杖をついて青年を見上げた。 青年は一瞬目を細め、しかしすぐじたばたと腕の中で暴れるウィンに視線を戻す。 「ベテットぉ、なんでパパに会っちゃダメなの〜!」 「今、ノベリオさんはとっても大切な用事があるっていってるだろ? だから、まだ」 「ずっとだもん! イグールもオグナも、おうち来るとみんなそれだもん! パパの用事いつ終わるの!?」 うわーぁあ! と、とうとうウィンは泣き出した。 ベテットはうろたえながら、「大丈夫、すぐ終わるって」と言いつつ、体を軽く揺する。 しかし、ウィンに泣き止む気配はない。 「・・・・ちょいと、頭を肩の上に乗っけて背中、ゆっくりさすってやれぃ」 ボソボソとドーセインに言われ、驚くベテットだったが、一応その通りにしてみる。 さらにゆっくりと揺らすと、ウィンの声は少しずつ小さくなり、やがて舟をこぎ始めた。 「・・・・あり、がとう、ございます」 「へん。ガキんちょの上手いあやし方ぐらい知っとけや」 ふんとそっぽを向くドーセイン、だがヒユとギオはその両側で笑いをこらえている。 「・・・・」 ベテットは無言のまま、歩き疲れ、泣き疲れて眠ってしまったウィンをしっかり抱きしめて その場を去ろうとした。 「なぁ兄ちゃん、ノベリオさんは、何にもしてねーんだよな?」 ピタリと、彼の足が止まる。 「・・・・当然、ですよ」 消え入りそうな声で、つぶやく。 ドーセインも、それ以上彼を引き留めはしなかった。 「ん、ごご、が・・・・」 「・・・・」 プワッチン、と鼻ちょうちんが弾ける。 ついでに盛大なくしゃみをして、ドーセインはのったりと体を起こした。 「あ、起きて、しまいましたか?」 廊下の天井に一本だけ、三メートルほどの間隔で取り付けられた古い蛍光灯の明かりの下、 向かいの牢でもぞもぞ動くノベリオの姿が。 「お、ノベリオくんおかえりぃ・・・・んだ、やけに疲れた顔してんな?」 ドーセインが明るく聞いても、ノベリオは弱々しく笑うのみ。 さすがのドーセインも眉をひそめる。ちょうどそのとき、ヒユとギオも起き出した。 「んあ? ボス、どーしあした・・・・あ、ノベリオさん」 「あらぁおかえりなさい・・・・ふぁ」 「すみません、みなさん。起こしてしまって」 「いんやぁ俺らもうさんざん寝たからなっ! てか、どれくらい寝たかも分からんし。 やっぱお天道様拝まねーと、体内時計も狂っちまうなぁ」 「飯食えばボスは一発じゃないッスか。朝、昼、夜って飯時だきゃ正確だし」 「るっせーな! そりゃお前だってそーだろ!?」 「てめぇがるっせーんだよ寝ろ!? むしろ永眠してろこの鞠! いや上品すぎるな、 スイカ! ダメだ、こりゃ美味いから・・・・いいやボールで」 最後、看守役のひげ面男は投げやりに言った。 「結局かい! いいよもうなんでも!」 「黙れっつっとんじゃボケぇっ」 ガゴッとまたも警棒が脳天クリーンヒット。どうやら『ガレアン』の看守役はほとんどこの 『警棒格子すり抜け 頭の回りに星とひよこを散らしているボスは放っておいて、ヒユはノベリオの顔色をじっと眺める。 そしてボソリと言った。 「ノベリオさん、デコと左腕、どーしました」 ギクリとノベリオが身をこわばらせる。看守役は、ゆっくりと目を細めるとうつむいた。 それを見たヒユは、これ以上つっこまないことにする。 だが、復活を遂げたバカはそこまで気が回らない。 「は? ノベリオくんひょっとしてケガしちまってんのってのぅわあああああっっっ!? ちょ、警棒はともかくヒユ、ギオ!? その手に持っているフォークは何!?」 「ボス、もーちっと空気読める人かと思っとりましたが」 「はいはい、せめて私はこっちの柄の方にしてさしあげますから」 「・・・・ギオ、親切スキル発揮してるみたいだけどそれ意味無いから。むしろその折れてギザギザの柄の方が ボロボロの先っちょよか殺傷能力ありそうですが!?」 必死に牢屋の奥へ這っていくも、看守役の警棒からは逃れられなかった。 その後、ノベリオは一切口を利こうとはしなかった。 翌日、警棒とフォークの嵐で気力体力を使い果たしたドーセインは、苔やきのこらしきものが生えている 牢屋の片隅でガクガクと震えていた。 そして、朝食後。 「娘が来たと聞きましたが・・・・」 「ん? ああ、ウィンちゃんだっけ。うん、そういや来てた来てた」 丁寧にスプーンでぬるいポタージュをのむノベリオの前で、ドーセインは杯のようにカップを傾けると 一気にのどへ流し込む。 「あんたに会いたい〜ってくずっちゃってさぁ。なんか若い兄ちゃんが慌てて抱えてったけど。 あいつ名前なんだっけ?」 「あ〜、べ、ベチ・・・・?」 「ベテットですか」 「あ、そうそうそうですわ」 ギオはとっくにパン(自分+ドーセインの分)を平らげており、ごしごしと手の甲で口の周りをふく。 「なぁ、確かよう、罪人でも一定の手順とか、手続きすりゃ面会可能なんじゃなかったか?」 「それは第二級の罪人までなんです。第一級、最凶悪の罪人はどんなことがあっても、市民と顔をあわせてはいけないんです」 「あり? 俺らっていくつ?」 「最凶悪だっつの。もう来たときからずーっと言われてるじゃねーッスか」 格子の間から皿を押しだし、ヒユは軽く体操をする。最近まともに体を動かしていないので、 なんとなく気分が悪い。 四人とも食べ終わり、しばらく無言のときが流れる。 沈黙を破ったのは、いつも通りドーセインだった。 だが。 「なぁ、 精一杯、真剣な表情をして。 『好奇心』という感情で、本来悪役にあるまじき『他者の心配』を隠す。 「・・・・拷問を、受けていました」 悲しげに、ノベリオは告げる。 『 しかし、どうしようもないのだ。 ノベリオも、このまま無実の罪をきせられたままのたれ死ぬなど御免である。 だから、「自分は何もしていない」と言い続けるしかない。 「いつもいつも、立会人としてその幹部の取り巻き数人と、・・・・イグールが呼ばれるんです」 関節が白くなるほど、拳を握る。ギリ、と音がたちそうなほど強く、唇を噛む。 「二度目の時は、ベテットも呼び出されました。・・・・彼が、私より先に壊れるんじゃないかと思いましたよ」 血を吐き、白目をむくかつての指揮官を見て、ベテットは絶叫した。 イグールが止めなければ、彼は幹部を殺すか・・・・自分で、この光景から逃げるため首をかき切っていただろう。 「・・・・」 「本当に、古典的で・・・・けど、結構効くんですよねぇ、アレ」 口角を少しだけ上げる。しかし、その優しげな双眸は暗いまま。 先ほどとは別の、もっと、もっと重い沈黙が訪れる。 それを破ったのは、音。 カツ カツ カツ ・・・・ 「・・・・ノベリオ=アーロズ。『四度目』といえば分かるな」 イグールでも、ドーセインたちが見慣れた看守役の誰でもない。 のっぺらぼうのようにまるで表情がない、人形のような『ガレアン』メンバーが冷酷に告げた。 |