□ 僕らの小さな旅路 - 5)エピローグ 母の手料理を頬張りながら、フランツは今回の旅の顛末をざっと妹ベリアに話して聞かせる。 すべてを聞き終わって、ベリアはほおづえをつくと唇を尖らせた。 「ベリアも行きたかったなあ、すっごく面白そう」 「いや、破壊組織だからね? 僕、ほんとよく生きて帰ってきたなぁって気もするけど……」 「あらま、フランツったらそんなに弱気でどうするのよ。そんなんじゃ、この町で《ガレアン》としてやっていくなんて夢のまた夢よ」 おかわりの皿を持ってきつつ、穏やかにきついことを言ってくる母カリナを見上げながら、フランツは「まあそうだけど」と小さくつぶやいて、フォークを伸ばす。 その後、二日ほどシェンズの治療院で眠り込んでいたフランツだったが、意識が戻ると同時にネファンにせかされるようにして町を飛び出したのだった。なんでも、こちらの町の《ガレアン》にもネファンは目をつけられてしまったらしく、感謝状どころか逃げてきたはずの入隊推薦書を押しつけられそうになったのだとか云々。 《水の使者》がいなくなり、ほとんど休止していた復興活動も再開し始めたシェンズの住民たちを眺めつつ、慌ただしくアーデルやロイスとの別れを終え、フィロットへ帰還した二人(というかネファン)を待っていたのは、やはり。 「ネファンさん、そろそろ本気でこの町出て行っちゃうんじゃないでしょうか……」 「私がお願いしてるから、一応、それはないとは思うけれど」 「てか、母さんのネファンさんへの影響力って一体どこからくるのさ?」 「うふ、付き合いの長さかしらね」 《ガレアン》フィロット支部の面々から絶賛逃亡中のネファンは、また町の外へ追いやられてしまっている。このまま国まで飛び出しやしないだろうかと危惧するフランツの前で、カリナとベリアはにっこりとよく似た笑みを浮かべた。 「フランツは本当に、ネファンのことが好きなのねぇ」 「ネーおじさん、面白いもんね!」 「ネファンさんを素直に面白いって言えるお前も、十分大物だよな」 言って、フランツは妹の桃色の髪をくしゃくしゃとかき回す。人ではない、天界種族セーレーン族の中でも、炎を司る者がもつ色彩。自分にこの色は宿らなかったけれど、力の片鱗だけは、授かっている。 「暴走させなきゃ、もうちょっと使い途あるはずなんだけど」 「無理はしないで、できることからやっていけばいいのよ。というわけで、おかわりいかが?」 「母さん、さすがに僕もう食べれないんだけど!」 よく食べてよく動いてよく寝なさいな〜、と言って、空いた皿を片付けていくカリナの後ろ姿をあきれ顔で見送っていたフランツだが、ふとベリアがあらぬ方を見て首をかしげていることに気づく。 「ベリア?」 「……あ、来た!」 そう言って、ベリアは椅子から飛び降りると、宿屋の入り口へ真っ直ぐ駆けていく。きい、ときしむ音を響かせて入ってきた人物は、飛びついてきたベリアを上手く受け止め、そのまま片腕で抱え上げる。無邪気に抱きつくベリアと彼の様子に、思わず、笑みをこぼし。 「お帰りなさい、ネファンさん!」 「……ぃま」 彼らの小さな、どたばた珍道中は、これにて一度閉幕なり。 |