□ 深窓?お嬢様の暴走 - 3)副リーダーは…… その後、カッティオがわりかしまともな姿で住民たちの前に姿を現したのは、四日後のことだった。 「あ、やっほー久しぶりだね。前に比べてずいぶん顔色いいけど三大欲求全部満たしてきたわけお坊ちゃーん」 「じつに爽快な笑みを浮かべながら男相手に変態発言かホント貴様魔界へ墜ちろ」 「実際、彼女のことはどうしたんです。町に残っているようでもありませんが」 無表情でばっさりと『その後』を訊ねてくるメルティナに、カッティオは頭を抱えながらもぽつぽつと答えた。 「許嫁うんぬんの話は、俺が家を出たときからご破算になっているからな。今じゃ平民の身分だし、あいつ一人でぎゃあぎゃあ騒いでもどうしようもないだろうと諭しては見たんだが……」 「え、本気で断ったの。あの流れで。うわーないわーさすがヘタレー」 「やかましい過去に何度も殺されかけてるんだぞ、そうそう溝が埋まってたまるか!!!」 いらだちのままにカッティオはレイドが作業をしていたデスクを蹴りつけた。とたん、その上に山積みになっていた書類がうまいことレイドへ向けて雪崩れていき、「うおわバカッティオぉおおお!!?」という叫びとともに彼の姿は紙に埋もれた。 それを見て、カッティオは無表情を貫き通したまま鼻を鳴らすと、今のレイドのデスクよりも酷いことになっている自分のデスクを見下ろし、肩を落とした。 「……今日中に半分にする、そして今回のことで迷惑をかけた者に頭を下げに行かなければな……」 「《ガレアン》の者たちなら『カッティオ副リーダーの珍しい姿っつーかラブコメ見れたんで結構です』と、総括すればそのような言葉をもらっていますので」 「今夜二十人単位で三十分ごとに地下練兵場へ出てくるよう通達しておけ、根性をたたきのめす」 「たたき直すの間違いでは……」 メルティナはさらに何枚か書類を追加しつつ、ふと肝心なことをまだ聞いてないのに気づき、もう一度質問する。 「それで、あなたの元許嫁とやらは結局どうしたのですか。あなたのことを諦めたとは、あの様子からだとあり得ない気がするのですが」 「………………」 カッティオは無言のまま、席に着くとさくさく書類を眺め、処理していく。 それを見て、メルティナはすっと自分の喉に手を当てた。 「待て、言う。お前に精神操作させられて適当なこと自白する前に自分で言う力を練るな!!!」 「さっさとすればよろしい。で?」 喉から手を離したメルティナを見上げ、カッティオは手を止めないまま、盛大なため息をついて話し始める。 「なんとか家へ戻るよう言いくるめた。確か、あいつは一人娘だからな。貴族の一人娘がどういうものか、だいたい想像はつくだろう。あいつは破天荒な性格をしているが、あり方としては一般的な令嬢とそう変わらん。……口八丁手八丁だったがな」 「……ひょっとして、あなたといるために勘当されにでも行ったのですか」 「花嫁修業をしてくるついでに、最終的に認められなければ縁を切るだのなんだの恐ろしく面倒くさいことを言ってきた。その間に俺がこの町を逃げたとしても、あいつ自身のつてで契約した魔術師がいるというからな。……逃げ道がつぶされていくのが目に浮かぶ」 そこまで言ったところで、書類の山からレイドが顔を覗かせた。 「あっはっは〜もうそこまでやられちゃって、うまいこと彼女が貴族でなくなっちゃったらもうカッティオが責任とってあげるしか道ないんだね! そこまでされたらキミ、妙なところで甘いからさすがに―――」 「なにを言っている。逃げるぞ俺は」 「「……は?」」 きょとんとした表情を浮かべるメルティナの手に書類を突っ返し、同じくきょとんとしているレイドをにらみつけながら、カッティオは表情をぴくりとも変えず……言い切った。 「あいつと結ばれるぐらいなら俺は全世界を飛び回ってでも逃げる方を選ぶ。あいつと幸せな生活ができるとは今でも思っていないし、あのときのあいつの涙にほだされもしないああそうだ俺は逃げる絶対にいやだ……」 最後にはつぶやくようにして、カッティオは書類に判を押し、指示を書き付け箱に放り込んでいく。レイドとメルティナは、完全に仕事へ逃げている同僚の姿を眺めつつ、 ((こいつこんなヘタレ野郎だったのか)) とか思ったとか、なんとか。 ―――その後、ヨーゲンバードでも上位から何番目というような上流貴族の本邸が吹っ飛んだ、とかいう事件が起こった。そのニュースが伝わってきたフィロットでは、副リーダーの一人が心労で倒れてしまったが、後日その副リーダー宛に立派な書簡が届けられ、それを見た彼は大いに安堵し、以来いつも通りの生活を送っているとのこと。 ……ちなみに書簡にはどのようなことが記されていたのは、知っている者は副リーダー以外にいない。 |