![]() (4) 「・・・・・・・・それ、何だい?」 ぽそっとテッドがつぶやく。 レイドはいつもの無造作ヘアーを全て真っ赤な三角帽子の中に押し込み、替わりに真っ白なフワフワのカツラを被せられ、プラス白いもこもこひげを付けられていた。 さらに服は赤中心のコートとズボンで、袖口や裾などにカツラと同じような白フワフワのファーが付けられていた。 何か詰めているのか腹部はパンパンにふくれ、それをベルトで無理矢理留めているので、シルエット的に太ったオヤジに見えなくもない。 そして一体何が入っているのか、所々でっぱっている大きな袋を背負っていた。 「サンタクロース、だよ。さてサンタさん、あんたは一体ナニモノ?」 ステントラが必死に自分の腹やら太ももやらをつねり、笑いをこらえながらレイドサンタに聞く。 レイドサンタはびきり、と額に青筋を浮かべつつ、やけになりながら答えた。 「クリスマスの夜に子供の家々を巡ってその子の一番欲しいものをプレゼントするやさしーおじーさんだっっっ!!」 「よ、よく言えま、し、・・・・も、もムリどわはっはあっはははっっはっはあっ!!」 「す、て、ントラ・・・・よく、よくまぁ、こんな・・・・こっぱずかしいこと、を」 クールさと余裕を常にたたえている青色の瞳に怒りの炎をたぎらせて、レイドはステントラににじりよった。 「・・・・ぷ」 しかし。 誰かが吹き出して。 「あ、はは、あははは」「ふふ、ふっ」「そりゃいい!」「くくっ、ぷ、レイドがぁ」 ほんの少しだけの罪悪感と、自分がやらなくてよかったという安心感。 そして大半は、心の底からのおかしさを感じて変人たちは笑い出した。 「レイドさん、ふわふわのもこもこです〜かわい〜」 「ティルーナちゃんに可愛いと言われたら、僕もう終わりだよ・・・・」 「・・・・・・・・」 「おいそこぉカッティオ!! 俺をチラ見して壁際で爆笑してんじゃねぇっ!」 レイドは完璧に開き直り、すっかり素をさらしている。 キレたレイドから逃げたり、はやし立てたり、『アクセント』の中は乱戦状態。 と、そこへ。 「みなさーん! お料理ができましたよー」 「はっあーいコチラはぁニナ作ローストチキン! あーんどフルーツサラダぁ!」 「ガイルさんとティルーナちゃんが採ってきてくれたメーベラと、ヴィキの葉のケーキ!」 「あ、カッティオさんの薬草も使ってスープを作りましたよ」 ニナ、ミリル、ティルトが次々と料理を運び込んでくる。 それを見て、全員が歓声を上げた。 「なぁレイド、お前腹になに入れてんだ?」 「毛布。あーもう重いしうっとうしい!」 レイドはベルトを外すと、コートの下に巻いていた毛布をバサバサと落とし、カツラとひげをとった。 そして仕方なく、それら以外のサンタ衣装を着直す。 どうやら一番許せなかったものだったらしく、レイドはだいぶん機嫌が良くなった。 「ま、これでちょっとはいいかな〜」 「けど、さっきのじじ・・・・いやサンタレイドもなかなか・・・・」 「ガイル、今なにを言いかけたんだい? ん? じーの次はいったい何だ?」 「いや、いい。言わない、絶対言わない」 初めてレイドの笑顔を怖いと思って、ガイルはじりじりと後退した。 他の者たちは我先にとごちそうへ手を伸ばし、笑いながら一口かじってまた一口、と次々消化していく。 「っと、悪いケゼン」 「おぅ、ガイル。なぁなぁ、お前もひとくちどーだぁ?」 ケゼンはぶつかってきたガイルの頭をがっちりホールドしながら、グラスになみなみと注がれたそれを口元に近づけた。 視覚や嗅覚よりも本能が反応して、ガイルは顔を青くさせながら暴れる。 「や、やめっ酒はやめろっ!!」 「んだよ〜、お前はつきあいが悪くていけねぇなぁ。一口くらいならいけんだろぉ?」 「あ、そういえば僕もガイルが飲んだところ、見たことないな」 レイドはまじまじと、好奇心丸出しでガイルを眺める。 ガイルはざっと周囲を見渡した。 ティルーナは他の人とテーブルの周囲でごちそうをがっつきながら談笑して、ステントラは両手を合わせながら頭を下げ、アデレーナに酒を頼んでいる。 「ん〜、メーベラってケーキに混ぜてもおいしーんですね〜。でも、すごく焼き上がるの早くなかったですか?」 「ええ、ちょっとティルトに魔法で焼いてもらったの。オーブンで焼いた方がいいんだけど、みんな来ちゃってたし」 「アデレーナぁ、頼むよマジで! また首都行ってきたときオヴィーの酒買ってくるから!」 「酒をみやげに来るんじゃなくて、飲んだ酒の代金払った方が早いだろうが、まったく」 (く、くそぉおおおお!) 万事休す、事情を知り、止めてくれる人はいない。 ガイルは結局、口をこじ開けられて舐める程度の酒を飲んだ。 「おーしケゼン! 今日はパーティだしまた飲み比、べ・・・・」 ステントラはグラスを掲げながらケゼンに近づき、見た。 右手に酒の入ったグラス、左腕にガイルの頭を固定しているケゼン、それをじーっと眺めているレイド。 かちゃーん、とステントラの手からグラスが滑り落ちた。 あれだけざわついていた『アクセント』店内が、静まりかえる。 「け、ぜん? ・・・・まさ、か、飲ませた、のか?」 「ん? あーコイツいっつもこーいうとこで飲まねーだろぉ? ちょっと隙あったから」 「・・・・ステントラさん」 ステントラはぎこちない動作で、左斜め下を見る。 隣に立つティルーナも、青い顔をしてガイルを見つめていた。 ウィリンやアデレーナ、ゴーゼンたちは頭上に『?』と、テッドやヒュゼンは興味津々の様子でガイルを眺める。 「・・・・」 ぴく、と彼の手がうごめいた。 ゆっくりと顔が上げられる。 「・・・・あへ」 そして、普段はあまり笑わないガイルが、だらしなくにやけた。 ズザザザザッッッ 全員、壁際に引く。 一人ケゼンだけが、ぼう然としてガイルを見下ろしていた。 しかし、すぐに身の危険を感じてガイルを放り出し、同じく壁際へ。 「な、なななななんちゅーことを・・・・」 「ガイルさん、これ、嫌だったから・・・・誰にも知られたく、ないって」 ステントラと、あのティルーナの声が震える。 トッと膝をつき、前のめりに倒れ込んだガイルだが、寸前で両腕を床につける。 一歩一歩、ふらつきながら立ち上がる。 「お、俺、酒ほとんど飲ましてねーよな? なぁ!?」 「ああ絶対測定しても反応しないくらいしか」 「あ、ははぁ〜」 再び、不気味な笑いを響かせながらガイルが振り返った。 ほんのりと頬が赤く染まり、目も完璧に据わっている。 そして。 「てい」 「「「「「っっぎゃあああああああああああああ!!!??」」」」」 ドンガッバギンドゴッガツズドンボーンダドッ ・・・・その後、いろいろな意味でヤバイ状態になったガイルは暴れに暴れたという。 そして、皆の心のなかにクリスマスパーティは、実に実に複雑な思い出として残ったと。 「・・・・どへぇ、な、つ、かれた・・・・」 ステントラはどさりと、担いでいたガイルとティルーナをベッドに放り投げた。 ぼすん、と音を立てて、二人はふかふかのベッドに身をうずめる。 「ふにゃ」「・・・・くぅ」 「ちきしょう、世界中の幸せかき集めたよーな顔して寝やがって」 ガイルの顔面を思い切りひっぱたきたくなったステントラだが、何とか堪えて靴やらベルトやらをはずしてやる。 ティルーナの分も片付け終え、ステントラはパンパンと手を叩きながら二人の寝顔を眺めた。 「・・・・ったく、コイツ酒入ったら最強なんだよな。ルーちゃんも即行で戦線離脱(気絶)しちまったし」 ばさばさと二人の体の上に毛布をかける。 「・・・・あー、パーティはぼろくそになったがな〜。うーん、これってレイドの役だったんだけど」 ステントラはジャケットのポケットをごそごそと探り、小さくカラフルなプレゼント箱を二つ取り出した。 二人の枕元にそっと置いて、ステントラはぽそりと、何かつぶやく。 「・・・・、・・・・。んじゃ、俺はもーちょい起きて酒、飲みなおすか」 踵を返し、部屋を出て行く。 口元に、微笑みを浮かべ。 ・・・・ Merry Christmas |
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