カゲナシ*横町 - 青き夏よ、永遠であれ!
□ 青き夏よ、永遠であれ! □


第三部  だるまさんが、ころんだ

「さあて、どうして超天然な横穴にしか見えないこの洞窟に、こうも様々な鬱陶しいトラップが仕掛けられているのだろうか? シンキングタイム一秒」

 唐突に、薄暗い洞窟の中で明るい空虚な声が反響した。それに続き、シィッと鋭く息を吐く音が。

「リク、それは考えたら深みにはまるからやめておいた方がいいよ。ていうか、よくまあここまでの道のり、誰も血を流さないでいられたよね」
「血は流れませんでしたけど、女子の表情がちょっと雰囲気とそぐわないんスけど……いや、理由は分かる。そして俺がここのところつっこめるのは、俺が単独行動だったから、それだけで……っ」
「うん、一人でよく頑張ったよね、林田君。他四名はそれぞれラブコメ繰り広げながら、手に手を取って進んでたのに」
「その言い方適用されるのはそっちのバカップルだけでしょーが、このコンブ」
「せめてワカメがいいなぁ。ダシよりもお味噌汁とかサラダの具材にとかイロイロ使われてるから。ああ、でもこんなこと言ったらコンブで生活してる人に失礼かな。あと、無自覚ってコワイネ」

 ぼうっと青白く浮かび上がっている幽霊を光源に取り囲むようにして、五人は休息をとっていた。幽霊は相変わらずのにやけ顔、男子三名は疲れ果てた表情で、女子二名は……やたらと嬉しそうな表情だった。
 幽霊の導きで(不本意ながらも)洞窟の中へ入って、約二十分。彼らは、古典的かつヒジョーに人工的で子どもくさいトラップの歓迎を受けていた。
 たとえば、木の根を曲げて地面にいくつもの輪が作られた道、何かの弾みで左右から襲い来る振り子、膝下までの落とし穴、ひんやりした水滴が異様に降り注いでくる広場。

「うーん、僕は実体ないから分からなかったけど、ここ、きっと昔からイタズラ小僧とかの遊び場だったんだろうねぇ。もしくはトラップ研究所」
「むしろ恋愛成就実戦場……?」
「あ、今のところそれが一番しっくりくるかも。ナイス林田君」
「ああ、もう死に装束に人魂がよく似合いそうな古典的亡霊の口からカタカナ言葉が出てきても、もう驚かなくなってきた」

 そう言って、最初に林田が立ち上がる。それに続くようにして、他の四人も立ち上がった。幽霊が笑みを深めて、自身の身体から漏れ出す微弱な光を、なるべく彼らの足下に向けながら先へ進む。

「もう少ししたら、祠があるんだ。そこに、例の問題のあるヤツが居着いちゃって。どうすればいいかは教えるから、頑張ってー」
「思いっきり他力本願じゃないか」
「だって他人の力借りなきゃ追っ払えないんだもん」
「あの、そもそもどうして追い払う必要があるんですか? この洞窟、幽霊さんの大切な場所なんですか?」

 れみがおずおずと口を開く。幽霊は「んー」と曖昧につぶやき、苦笑を浮かべて答える。

「まぁ、ここが僕の死に場所ってことで、いろいろ因縁やらなにやらがあるのは確かだね。でもって、自分の部屋みたいに思っていた所を、いきなり別のヤツに奪われちゃって……これまたベタな理由なのだけど」
「い、いえ、それって十分だと思います。私たちにできることなら、なんとか、手助けさせていただきますから」

 そんなこと言っちゃって、と青海はため息こそ呑み込んだが、じーっと非難がましい視線をれみのつむじに向けた。

「ま、さらにぶっちゃけちゃえば僕が最初にこの洞窟かっぱらったんだけどね」

 ずるべしゃ。

「っ! おいどーいうことだそりゃあああ!!?」
「どういうこともなにも、僕がここで死んだときとか、すでにその追っ払って欲しいヤツがここを根城にしてて、あの頃はどっちかというと僕の方が力があったからスパッと追い払って、悠々自適の幽霊生活を」
「おい、コイツ助けるとかもうやめようぜ。俺たち一体なんの片棒担がされるんだろーかね」
「リク、その決断きっともうあと二、三分早かったら間に合ったかも」

 青海の開き直ってしまったような返答に、不吉なものを感じたリクは、どういうことだ、と尋ねようとして。

「わぁ広い〜!」

 長谷の言葉に、ぴくりと反応する。
 突き当たりを左に曲がったところで、一行は今まで人二人が並んで入れるのがやっとだった通路から、急に開けている場所へ出た。あちらこちらに水たまりがあり、かつては色鮮やかな漆が塗られていたであろう細い柱が、朽ち果てながらもそこここに突き立っている。
 そして、その場所の一番奥、少し段になっているその場所に、小さな祠があった。障子もなく、骨組みだけとなった戸が供物を置く棚の上に落ちており、周囲には細かく破られた紙が。

「あれ? もうとっくに消えちゃったものだと思ったんだけど、澄(すみ)」

 と、不意に暗がりから高めの声が聞こえてきた。全員が、その方向へ顔を向ける。すると、今度は気配が祠の方へ。
 クス クス クス
 そこにいたのは、十歳前後の快活そうな少年だった。ずいぶんと腕白そうで、この白装束の幽霊のおかげでこちらも時代錯誤な格好をしているのかと思いきや、無地のTシャツに綿の短パン、青いサンダルというごくごく一般的な姿だった。その短パンからのびている手足は、小麦色に日焼けしている。
 しかし、自分たちよりも尚幼い風貌だというのに……どこか、老獪で、陰湿な雰囲気をまとっているように感じられた。思わず、青海は自身の陰に隠れたれみをかばうように、手を伸ばす。

「えーっと、とりあえず、君がこのワカメに追い出されて戻ってきたっていうすんごい理不尽なことされてる霊?」
「あれっ!? 今あいつ僕の名前ちゃんと言ったよ!? ワカメじゃなくてそっちでちゃんと」
「え、お前名前あったわけ!? ただただ海藻の類とばかり」
「はーやしーだくーん、君のことは同志と思っていたんだけど、僕にツッコミさせる気かい?」

 そこで初めて、少年は幽霊以外の、青海達の存在に気付いたように視線を巡らせた。

「……っぷ、へへ、なんか楽しそうだね、澄。僕と初めて会ったときはそんな友好的じゃなかったのに」
「現代の言葉じゃフレンドリーって言うらしいよ? 時代遅れなガキンチョはとっとといなくなれば〜」
「時代遅れなら、そのベタな死に装束をいつまでもまとってる澄の方が何倍も遅れてると思うけど」

 何やら白装束の幽霊、澄と、現代風少年幽霊の間に不穏な空気が流れ始めた。どちらも口元は笑みを浮かべているが、澄の方は前髪で表情が見えないし、少年の方はまるで獲物を見る目である。

「それで、洞窟の入り口をフラフラしてるはずの君が、わざわざ人間を連れてここまで来るなんて、……本当にどうしたの?」
「もちろん、君を追っ払ってもらうために、だよ…………彼らの力でねっ」
「「「「ちょっと待て(待って)えええええええええッッッ!!!?」」」」
「えぇ〜〜〜〜〜」

 サラリと吐かれた澄の言葉に、長谷以外の全員がそろってつっこんだ。

「僕たちに理不尽の片棒どころか丸投げしようってことなワケ!? そんなの人間でも当然ヤだけど、幽霊同士なら尚更御免だね!」
「さすがに今はふざけてもいられまい! ということで俺は自分の命と長谷の命が一番大事、ぐっどらっく悟、お前のことは永遠に忘れない」
「完っ全にフザケテルよね!? お前僕のことエサにとんずらするつもり―――っ!」
「わわわ私青海先輩と一緒なら幽霊でもなんでもどんと来いですー!!!」
「れみちゃん君今何言ってるか理解してる!? 一緒にいてくれるってのは今の状況ものすごく嬉しくて心強いんだけど、ここは全員逃げた方が」
「先輩、なんか逃げられる雰囲気じゃないッスよ……!」

 はて、と四人が林田の言葉につられて周囲を見渡せば、なにやら澄自身の明かりでもはっきり照らすことができないほど、洞窟の中の影が濃くなってきている。

「うーん、アットホームな雰囲気に呑み込まれてくれるかと思ったんだけどなぁ」
「この薄暗くていい感じに水のしたたる音が途切れない空間で、アットホームな雰囲気出せる人がいたら、とんだKY野郎だよ」

 ひくりと頬を引きつらせ、青海は左足を後方へ下げる。目の前には無言無表情無感情な様子でこちらを見つめてくる幼子が。
 と、澄がふうわりと軽い動作で、青海とれみの耳の傍へ顔を近づけた。

「……大丈夫、あれは僕には本性を見せることしかないけれど、君たちには表の顔で接するだろうから。ちょっとこう言ってみて?」
「……は、はい? そんなこと言って、また展開がさらにややこしく」
「頼むよー、もう乗りかかった船は沈没寸前なんだからっ」
「あー、もうっ」

 青海はガクガクと震える両足をひっぱたいて、きっと幼子を見据え、こう尋ねた。

「君、だるまさんがころんだやらない?」

 ずべちゃっ。

「……悟、お前それはないわー。ナンパ方法もセリフもあれだけど相手がないわー……」
「うるさい黙れ変人。この殺気渦巻く舞台の何処にナンパするゆとりなんぞあるんだよ」
「……だるまさん、が、ころんだ?」

 小声で低レベルな言葉の応酬を続けていた青海とリクだったが、ふと、正面から返された言葉に口を閉ざす。
 先ほどまでの暗く、ドロドロとした空気はどこへやら。少年の瞳は、年相応のきらめきを取り戻し始めていた。頬を紅潮させ、嬉しそうに口を大きく開いて。

「やるっ! じゃあ、僕が鬼さんする! お兄ちゃん達、そこからこっちまで近づいてきてね!」

 ぱしゃりと水たまりに足を突っ込んで、きゃっきゃとはしゃぐ。そのあまりの変わりように、青海をはじめ、五人は呆然とその場に突っ立っていることしかできなかった。

「第一段階成功、ってかんじかな。じゃ、あとはあの子にしばらく付き合ってあげて―――?」
「本当にふざけないでって言ってるじゃん、とか言ってる間にあんたなんでうっすら消えかけてるわけっ!?」

 青海はできるだけ低めて、しかし精一杯大きめの声で澄を問いただそうとした。そうやって瞬きをしている間にも、澄の体はどんどん見えなくなっていってしまう。

『大丈夫、ちゃんと最後には巻き込んじゃったみんなのことも助けに来るから。これが俗に言う「スーパーヒーロー」ってヤツなのかなあ。憧れだったんだよね、じーん』
「じーんとか口でいってんじゃねぇっつの。……え、ナンデスカ先輩。さっきとあの子雰囲気全然違うっつーのもすげぇ突っ込みたいんですけど、なにより、誘った先輩だけじゃなくて俺たちも参加ッスか?」
「いや、ごめん、お兄ちゃん『達』って言ってたから、きっとそう」
「はっはっは、ぶっ飛ばす青海 悟……」
「お兄ちゃんお姉ちゃんたち、はーやーくー! もう数えちゃうよー!」

 半壊の祠に向き合って、目隠しをしている少年の様子は無邪気そのもの。では、先ほどまで澄と対峙していたときのアレは一体何だったのだろうか?
 そんな疑問を胸にしたまま、五人は目配せをしあった。こうなったら、澄の言っていたとおり乗りかかった船が沈む前に、とっとと岸へ到着しなければならない。

「さ、いいよ! 数えてっ!」

 半ばやけくそになって、青海は少年に向けて叫んだ。くすくすという、少年の笑い声が洞窟内へこだまする。

「だぁーるまさんが、こーろ、ん……」

 ぱしゃぱしゃと、水たまりを蹴散らしながら祠へ近づいていく。この遊戯(ゲーム)を長引かせればいいのか、短期決戦の方が好ましいのか、それすらも分からない。ただ、少年の声にあわせて前進する青海達男子陣は、消えた幽霊に対する罵詈雑言を心中ではき続けていた。女子陣はというと、すでに開き直って、だるまさんがころんだを楽しもうと必死になっている。長谷でさえも、最早引きつり笑いだ。

「だっ!」

 全員の動きが止まる。青海、林田、れみ、長谷の四人はしっかりと両足を地面に着けた体勢のままだったが、なぜかリクだけは片足をあげ、近くの岩に中途半端に手を伸ばしているという不安定きわまりない体勢であった。

「んー……?」

 振り返った少年は、まだ戻ろうとしない。その目は、だんだんと顔を赤くさせていくリクの全身に向けられていた。少しでも動けば、捕まってしまう。
 ……結局、リクは一度目の合図でおよそ三分間はその体勢を維持し続けなければならないことになった。少年がもとの位置に戻り、「だーるまさんが」と言い始めると同時に、深く息を吐き出す。

「全く、俺としたことが、三分間も息を止めることになるとは……っ」
「あれ、変な姿勢のままだったから顔赤くなってたんじゃなかったのか!? というかなんで息を止める必要がある!?」
「胸が動いても捕まるだろうが!!!」
「どんなサバイバルだるまさんがころんだだそれはっ!!?」

 と、そんなこんなで二十分後。

「……ぜぇ、は」
「あ、そっちの白いタンクトップのお兄ちゃん、指動いたっ」
「あーあ」

 最初の段階で体力を激しく消耗(自滅)させられたリクを皮切りに、ギブアップした長谷、れみ、次いでたった今、林田が捕まった。
 残るは、のんびり歩いて少年に近づいていく青海一人。

「眼鏡のお兄ちゃんで最後だね!」
「あーうん、そうだねー」

 そんな青海も、祠のある壇上の一段目に足をかけたところ。残る段は四つ。ちなみに林田は、四つを一気に駆け上ろうとしたところで捕まってしまった。

「先輩ー、頑張ってくださいよー」
「ゆっくりでいいですから、なんかここにも慣れてきちゃいましたし」
「ねぇねぇリクくん、私寒いよう〜」
「こっちにおいで秋穂、俺が、俺自身がこの胸で君をあたためてあげ」
「そっちの先輩キモイんでどっか消えてくださいッス」

 四人は、それぞれ捕まった順に手を繋いで並んでいた。リクは少年の左手を掴み、長谷と隣り合わせ、その隣にれみ、その隣に……という感じに。特に捕まったからと言って、何をされるわけでもないらしい。
『今は』。

(僕が捕まったら、一体、どうなるんだろうな)

 軽く頭を振って、ゆっくりと、一段一段身長に段差を昇っていく。

「だぁーるまーさーんがー、こぉーろーんっ」
(待て)

 ぴたりと足を止める。おそらく、今少年が振り返って、次に数え始めたときにその体に触れることが出来るだろう。そうすれば、人質は全員解放、こちらの勝利となる。

「だ」

 そして。
 少年は、振り返らない。

「……?」

 青海だけではなく、手を繋いでいた人質の四人も訝しげな表情を浮かべ、少年を見つめた。少年は祠の方を向いたまま、じっと硬直している。

「ねぇ、き「全く、澄はここまで考えていたのかな」

 じかに手を繋いでいたリクが、目を大きく見開いた。また、変わってしまった。今まで遊戯を一緒に楽しんでいた少年ではない、『少年の姿をした何か』に。

「本当に普通の人間の子ども、特別な力もないし、良い匂いの血を持っているわけでもない。そこらにゴロゴロ転がっている、腹の足しにも成らない、ならない……」
「ぅおっと」

 するりと手を離し、リクは慌てて他の三人を抱きしめるようにして、少年から距離をとった。段差を降りきったところで彼は振り返り、眉をひそめる。
 青海が降りてこない。

「良い匂いの血を持っていれば、私はヤツと話すこともなく、お前達を食い散らかしただろう。力を持っていれば、私の気にあてられて錯乱、同じく私の腹の中。何の力も持っていないものならば、私は初めに存在に気付くことすらしない……」

 逃げろ、逃げろ、と青海は自身の足に向けて必死に叫んでいた。ただ、喉が震えない、音が声として口から発されることは、ない。

「ああ、確かに私は住処を奪われた……」

 くぅるり、と。
 ぱり、ぱりんと。
 ずるり、びちゃりと。
 形が崩れ、狂っていく。

「まだ、生きていた、澄によってな―――!!!」

『ぴんっぽ―――――――――――――――ん!!!』

 その声以外、なにも音はしなかった。けれど、確かに視界で何かが弾けた。そこで青海は、今まで気にもしなかった、不思議な現象に思い至る。
 この少年と遊戯を始める直前に、澄は跡形もなく消えてしまった。澄の体から漏れ出す光以外に、青海やリク達普通の人間にとって、この洞窟で光源となるものはない。
 では、今まで周りが見えていたのは、なぜ?

『青海君、ちょっとそこ危ないよっ!』
「へ……っ!?」

 ぼんやりと青白かった洞窟内が一気に暗くなり、代わりにその光が一点に集まりだした。集まった光は人の形を成し、それは勢いよく青海に向かって飛んでくる。

「伏っせてぇえええええええええええ!!!」
「っぎゃああああああああああああああああああっっっ!!?」

 満面の笑みを浮かべた死に装束幽霊に突進され、青海は、まさに化けの皮が剥がれた不気味な少年を見たときにも流さなかった涙を、滝のように噴出させながら倒れ伏した。

「澄、お前、ナニヲ!」
「滑舌悪くなってきてるよー、名無しの鬼さん。中途半端に強くなっちゃったせいで、そんなふうに獲物選んじゃうなんてね。でも安心してよ……」

 す、と人差し指を唇に当てて、澄はつぶやく。

「今日は、お客さんいっぱいだからね」

 こぉおおおおお……

「な、なになになんなのリク君この音っ」
「不気味でどうしようもないということ以外はなんともっ。秋穂、俺たちここで終わっちゃったりするのかな」
「なに不吉なことばっかり……」

 青海と同じように、澄の突進に驚いて伏せた四人だったが、ふと、頭上を何かが飛び退っていくのを感じて、軽く見上げる。そして、後悔。
  ォオ―――――……   ヴォォ―――――……

「あれ、頑張って今まで集めてきたんだよ。けど、決め手になったのはやっぱり昨日の夜の、君たちの百物語かな。いやー、なかなか十分すぎるくらい集まっちゃって!」
「……ゆ、ユーレイとか、そういう、レベルじゃなく、て」
「妖怪」

 呆然とつぶやく青海の目の前で、入り口から次々と飛び込んでくる灰色のおぼろげな影たちは、皆少年めがけて突っ込んでいく。顔の肉が半分崩れ落ちたことでのぞいた少年の頭蓋からは、人差し指ほどの小さな角が、伸びていて。

「おおおおおおおおおおおお」
「確かに君は強い鬼だけど、そこまでたかられちゃあ一溜まりもないよ。ということで」

 最早灰色の塊としか言いようのない少年に向けて一言、澄は告げた。

「ばいばい」

 目にも止まらぬ速度で、澄の手が、指が、複雑な動きを繰り返す。ぱん、と音を立ててその動作が止まった瞬間、灰色の塊は弾けて、消えた。
 あとに残されたのは、呆然とする人間の子供たちと、満足げな死に装束の幽霊が一人……。
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