STRANGEU - カゲナシ*横町



S T R A N G E U




□ 第一巻 守るための誓い - 3.帰還者
 フィロットの町を駆け抜ける、二つの黒い影。

「いやあなんか春先を思い出させるよね、ていうかデジャヴ?」
「あまりにもかぶりすぎているが、確かにまあ、同じ状況だな」

 あのときと違うのは、自分たちが巡回中ではなく支部でデスクワークをしている最中だったこと、後に、巡回中だった部下達を何人か引き連れて疾走していること。
 今度はいったい何が起こったのかと、不謹慎ながら好奇心を抑えきれずにいたあのときとは違う。触れることができたならば、しびれてしまうような緊張感が《ガレアン》隊員達を支配していた。

「さて、到着っ!」

 目は笑わせないまま、レイドが限りなく明るい声で叫ぶ。
 あっという間にたどり着いた南門は、木っ端みじん……とまではいかないものの、半壊した門が重なってろくに通行できそうになかった。

「あ、レイドさんカッティオさーん、お疲れ様ッス」
「ドロスか、生きてたか。生き埋めになってるかと」
「死んだことにされてないだけマシだと思っておきます……」

 門の周囲の破損状況を調べていた、全身土埃まみれの《ガレアン》隊員が二人の元へやってきた。ドロス=マクファーレンは純朴そうな顔にあきらめの色をにじませつつ、独り言を終えると姿勢を正した。

「瓦礫が飛んで、屋根や壁が一部破損した民家は三軒だけです。住民の被害はゼロ。見張り等や詰め所にいた隊員および訓練兵は、自力で脱出したとのことですつまり自分ですが」
「あ、一応埋まってたんだ? お疲れ様〜」
「瓦礫に埋もれたあとにかけられる言葉がそれっていうのも、ほんとこの町独特ですよね……」
「で、爆破の原因および怪しい人影なんかの情報は?」

 ばしばしとドロスの背中をたたいて土埃を払ってやりつつ、レイドが鋭く質問する。額から流れる汗を適当に拭いながら、雰囲気の変わったレイドに対しても態度は一定のまま、ドロスは報告した。

「爆発直前や朝方からは自分たちが見張っていましたが、とくに人影は見ていません。死角まではわかりませんが、爆発の状態からいって、詰め所と反対側の城壁下に爆弾が設置されたようです。ひょっとすると、春先やこないだのと同じく遠隔操作のものかも」
「うーわーめんどくさいなぁ。またなんか来るっていうの?」
「それしか言っていないな、本当に」

 さすがにカッティオが突っ込んだ、その瞬間。

 ドォッ……!

 今度は、正門の方から爆発音が響いてきた。

「……うわ、こりゃデモ確実だな」
「えぇええ俺らまた休日返上ですか」
「なんっでこうもあちらさんは門吹っ飛ばすのが好きなんだよ」
「同時に二つぶっ壊すなんて、もーほんと町の人間がぶち切れそうな気がするんだけど、ねえカッティオ」
「……さすがに支部の予算も付きそうだぞ。本部からはまだ支援金が届かないし」

 とりあえず、一つだけ残った東門は死守せねば(薄給で修理にかり出される人材がキレる)と、《鳥》を使っていち早く連絡をとろうとするカッティオ。
 と。


「うわ、もうなんなんだよこのデジャヴ!? ていうかあっちも壊されて……あーあーあー俺まだ新品見てねぇってのに」


 《ガレアン》の制服とも違う、しかし、見慣れた黒が視界に映った。

「「え?」」



◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 とりあえず、轟音が響いてきた方へ、何も考えずに駆けだした。
 あっという間にやってきた正門は、二ヶ月前と同じように吹っ飛ばされ、ぼろぼろで。

「……これまた直すのか。そろそろ《ガレアン》の財布が心配になるな」

 思わずつぶやいた言葉がこれだった。

「げぼほぉっ!? が、ガイルさんガイルさん財布の心配はまだいいんですから、ちょ、手ぇ貸してもらえませんかね!?」
「ん? お前埋まったのか、鈍くさいったらねぇな」
「ごく普通の被害にあったはずなのにどうしてこうまで言わなきゃならんのですかね? 俺たち精神的には確かにあんたらについていけますが、肉体的にはもうどうしようもないんですってば」
「おい、その言い方だと俺まで身も心も変人みてぇじゃねぇかよっ!」
「え、そうだと思ってました」

 正門の見張り搭があったであろう場所は瓦礫の山で、そこから上半身だけをのぞかせ、ジタバタともがいている訓練兵姿の男を見たガイルは、とりあえず自分を変人と言い切った彼の頭をぶっ叩きながら引っ張り上げた。
 全身土まみれでむせてばかりいた男だが、彼は「あぁ〜」と困り顔をしながら笑って、どうしましょう、とガイルに尋ねてきた。

「ついさっきこの町に、物資補給にやってきた商人がいたんですが、多分この下なんですけど発掘手伝ってくれません?」
「不運だなその商人……」

 しかし、瓦礫をよけるといっても大人何人分の身長だけ積み重なった小山である。それに、町の人間ならいざ知らず、外から来た人間なぞとっくに潰れているんじゃ、とガイルは思ったのだが。
 どごっむ

「「?」」

 彼らの目の前にある瓦礫の山、その中からくぐもった打撃音が響いてきた。それは二度、三度と繰り返され……。

「……でいやっしゃあああああっっっっっ!!!!」
「うぉっ!?」

 ドゴッッッッォオオオッ!!!
 一部瓦礫が吹っ飛び、ガイルはとっさにバックステップでこれを回避、訓練兵の方は本調子でないぶんかわしきれず、瓦礫を食らって吹っ飛んだ。
 やがて周囲の民家からも、ようやっと異変に気づいた住民達が「なんだなんだ」とやってきて、正門の惨状を見てうなだれるやら諦めるやら笑うやら。
 そんな中、瓦礫を吹っ飛ばしてさらに被害を拡大させながら現れた、人間より二回り、三周りは大きな身体に、ガイルは一瞬言葉を失う。

「オシャン族、か?」
「あー、よい、しょっと! うわあ、つぶされちゃうかと思ったよ。一体、何がおこったんだい?」

 イグスは目をぱちくりさせながら、なんとか自分の荷物も引っ張り出してため息をつく。

「まったくもう、力業は苦手……って、わあ大人のセーレーン族!? あれ気配は人間だ!」
「俺はれっきとした人間だチクショウ。髪の色で判断すんなや」
「え、でもそれはどうやったって……」
 ガイルの姿を見て、とても複雑そうな表情を浮かべるイグスだったが、次の瞬間反射的に身体を丸める。

「ぉおっほほほほほぉーーーほほほーーーーー!!!」
「…………ガイルさん、こりゃ悪夢ですかい」
「悪夢だ夢だ非現実に決まっている」

 訓練兵が呆然とつぶやくとなりで、ガイルはすでに逃走準備をしていた。だが、遅い。

「お待たせいたしましたわぁ、我が、愛しの……」

 からん、と瓦礫の欠片が崩れ落ちる音がした。
 かつん、と瓦礫を踏みつけるヒールの音がした。
 しゃらん、と無数にちりばめられた髪飾りが、揺れた。

「ガイル様ぁ。ヴィンス=ミルナー、ただいま戻りましたわぁ!!!」

 真っ赤なボンテージで身を包み、狂喜の笑みを浮かべながら両腕を大きく広げた、かつての敵が現れた。