STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第一章 3.不穏な始まり
テッドの診療所にて。
そこにいたのは軽く打撲したレイド、無傷のミリル、カッティオ、風邪気味エイルム、そして重傷のメミィだった。メミィは頭を包帯でぐるぐるまきにされ、まさにミイラ状態。呼吸できているのかどうかも怪しい様子である。

「まったく、今日はお客さんが多いですねぇ」

テッドは部屋の奥から人数分のカップをもってきて、お茶を入れ始めた。それを手渡され、メミィ以外の四人は素直にお茶を飲むふりをした。
変人の町での教訓、『一つ、テッドの診療所で出されるものを口にしてはいけない』。

「というか、『ガレアン』の副リーダー二人が来るのも何ヶ月ぶりでしょーか?」

『ガレアン』というのは、ヨーゲンバード国内の町村、またはそれらをいくつかひっくるめた地域を守るための組織の総称で、レイドとカッティオは『ガレアン』フィロット地区副リーダーの地位にある。
田舎町で、他の町と交流が少ない割に発展しているフィロットの中で、彼らはそこそこな権限を持っているのだ。『ガレアン』内部は基本実力主義なので、レイドもカッティオも若くしてその才を引き出している人材、なのだが。

「最近ケガらしいケガも、病気にもならなかったからね」
「……バカは風邪引かない頑丈者」
「なんか言ったぁカッティオくん?」

またもやバチバチと火花が散り始める。しかし慣れているテッドとエイルムの二人は完璧にそれを無視、ことをミリルに聞いていた。
そして。

「ほぉ。この子が、メミィさんが投げようとしていたひん死の小鳥ですか。いやぁよくまぁ死にませんでしたねぇ」

テッドは興味深そうに小鳥を眺める。人医の他に獣医も兼業している彼は町中の動物のことも診察しているのだが、全身の羽毛はもちろん、くちばしから足の先まで真っ白という小鳥は初めて見た。
エイルムは軽く咳き込みながら聞く。

「容態はどうなの?」
「だーから君は寝てなさいって。ほらぁ、奥にもう一個患者用ベッドあるから」
「あ、でも」
「エイルムさん、季節外れの風邪ってこじらせるとやっかいですよ? テッドさんの言うとおりになさったほうが……」
「……わかりました。寝ますよ」

エイルムは諦めて肩をすくめると、奥の部屋へ入っていった。
それを確認して、テッドは小鳥をそっと持ち上げる。どうやら左の翼を何かに引っかけたらしい。そこだけほんの少し赤く染まっていた。

「ほいほいっと……はいおしまい」

テッドはなんこうをほんの少しだけ傷口につけ、包帯を巻かずにミリルがつくったかごのベッドに小鳥を寝かせた。

「ミリルさん、あなたがこの小鳥……ああいや、やっぱ私が預かりましょうか。忙しいでしょう?」
「あ、はい、お願いします」
「にしても、メミィさんの絶叫って最強かも」
「町中に響きましたからねぇ。鐘代わりになったくらいですし」
「……」

男性陣の言いように、ミリルは何とか無言を通した。かごの中で眠る小鳥を見てあごに人差し指を当てる。
そして立ち上がり、なんとなく時計に目をやった。
十時二十一分。
あと、二分。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ひゃー、疲れた……ったく、シェンズで優雅ゆうがに過ごしてうまいもの食って、でフィロットに帰ってくる予定だったのに」

一人の青年が、男たちのいるトールの森にかなり近い丘からフィロットの町を見下ろしていた。
その出で立ちは、黒。
黒髪、黒いゴーグル、黒いマント、黒いジャケット、黒いブーツ。
唯一別の色と言えば、やけに白っぽい肌のみ。

「ふっふ〜、早くガイルとティルーナちゃんに、おみやげ見せてやらなきゃなー」

青年はあやしく笑いながら、革袋を背負い直して丘を下り始める。
十時二十二分。
あと、一分。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「…………」

ガイルは帽子、マスク、エプロン、手袋を装備してひたすら包丁を上下に動かしていた。ガン、ガン、と包丁が振られ、まな板が傾けられるたびに袋へ骨がたまっていく。
解体した肉をどさりとボウルに入れ、新しい塊に掴みかかった。

「いやぁガイルくん、すまんなぁ。助かるよ」
「いーやいいんだ。つーかちょうど仕事欲しかったんですよ。ああ、素晴らしい同居人たちのおかげでな……っ」
「はっはっは。もろに殺気が出てるところが恐ろしいねぇ。じゃ、それやったら休憩してくれ」
「はい」

笑顔のまま奥へとマッハのスピードで戻っていった肉屋の店主に、内心深く頭を下げながらガイルは包丁を振り続けた。乱暴に振れば振るほど血が飛び散り、顔についたりするので気分が悪い。
だが何かに直接怒りをぶつけたい気分だった。

(アイツとアイツのせいでええええええっ!)

一人はのんびり首都へ観光、もう一人は家でお菓子と仲良くやっている。
ガイルは手に持っている包丁をすかさず二人の脳天めがけて投げたくなった。

「あの酒代と菓子代をなんで俺が払わなくちゃならねーんだ。どっちも俺の大っ嫌いなもんじゃねーかコンチクショウッ」

最後まで言い切ったとき、思わず力が入って包丁がぶれた。
変なところを切ったらしく、顔に血がベタッと飛んできた。

「ちっ! 水、水・・・・」

慌てて包丁を置き、水道の水で目を洗う。
マスクを取ってほっと一息つき顔を上げると。

(!)

鏡の自分。
しぶいた鮮血。
暗い世界。
赤、黒、紅。

『シネ』

「…………ル……ガイ……ガイルくんー? 大丈夫かい―?」

はっとして振り返る。
どうやらほんの一瞬気を失っていたらしい。

「……?」
「ガイルくんてば。……ああ、血がかかったんだね。今布をもってくるよ」

店主はひょこっと顔をのぞかせると、ぽけーっとしたガイルを見て少し笑った。

「どうしたんだい? なんだか寝ぼけた子供みたいだけど」
「は、え?」
「いやいや。ちょっと待っててくれ」

店主が部屋を出て行き、ガイルがため息をついて包丁を洗おうとしたそのとき。
十時二十三分。
爆発が、起きた。