STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第二章 4.襲撃
彼女はうっすらと目を開けた。

(?)

奇妙な視界が目の前に広がった。 薄い水色の布が敷かれた妙に狭い空間に、自分がうつぶせになっている。

(ココハ)

上体を起こそうとして、左半身に突き刺すような痛みを感じた。 彼女が声を上げるのと同時に、爆発音が響いた。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ね、ねぇメルティナ、これって……!」
「攻撃を受けていますね」

一人のひげもじゃ男が、テーブルに向かい合わせに座ってカードゲームをしていた焦げ茶色の髪をした美しい女性に怯えた様子を隠さず話しかける。

「え、い、一体誰が!」
「落ち着いてください。こんな時、リーダーであるあなたが困惑している場合ですか」
「あ、うん」

大柄な体躯を硬直させていたひげもじゃ男は、顔つきを引き締め、立ち上がった。女性は男に見せないよう薄くほほえみ、立ち上がろうとして。

ドオン!

また遠くで爆発音が聞こえた。

「んきゃああ!?」
「……この小心者が」

飛び上がった男に、女性はにらみをきかせながらつぶやいた。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



ガイルは肉屋を飛び出し、猛スピードで走り始めた。
帽子や手袋は適当に放り投げ、爆発音のした方へひたすらに。間髪入れずにもう一音聞こえてきた。

(ウィリンの失敗にしちゃ音がでかすぎる。それに方向も)
「おっガイルじゃないか〜」
「げ、レイド」
「げ、ってなんだい。げ、って」
「そういう人間だからだ、お前が」
「それはどういうことかなカッティオ?」

テッドの診療所からも、レイドとカッティオが飛び出してきた。三人で音のした方へ走る。しばらくしてもう一度爆発音が響いてきた。

「一体何回爆発させてんだろうね? うるさいったらないよ」
「二回だバカ。数も数えられないのか」
「……カッティオ、悪いけど三回だ」
「……」
「あっはっは! 君も間違えてんじゃんあっはっはっは!」
「やかましいっ」
「喧嘩してる場合じゃねぇだろ!」

そうこうしているうちに、三人は現場にたどり着いた。そこには、むざんな姿をさらすフィロットの城門が。
大半が燃え落ち、炭化している。城壁もやぐらも崩壊していた。
と、やぐらの方から三人のもとへ走ってくる人影が。

「レイドさんー! カッティオさんー! わー!」
「フランツ、生きてたんだ」
「あの爆発じゃ死んでると思ったけど」
「勝手に人のこと殺さないでくださいよ! 実際死にかけましたがね!」

量産型の簡素な兜、鎧、剣を身につけた、まだ幼さが残る顔つきの青年が泣き寸前の顔で怒鳴りつける。
その後ろで。

ドゴオオオッ!

また城壁の一部がぶっ飛んだ。

「ひゃあっ!」
「おーすごいすごい」
「……修理には時間がかかりそうだな。『ガレアン』メンバー総動員させるか」
「給料もらえるなら俺も手伝うが?」
「ただ働きに決まってるだろーが」
「ちょっとあんたら何話してんの? 今まさに! 城壁ぶっ飛んだじゃん!」

フランツが必死に怒鳴るも、三人組はどこ吹く風。もはや爆発のことははるか忘却のかなたへ飛んでいったらしい。
と、そこへ。

「がーっはははははは! 見たかフィロットのヤツら! これこそ俺たちゴールドシルバードオーンの最終っ兵器!」
「ちょっとなんスかボス、そのゴールドシルバードオーンって! 最後完璧にぶっ飛び音じゃないッスか!」
「え、なに? 俺らそんなダサい名前の盗賊だったの? うわ超ショック!」
「悪いかあああああっ! 俺が今二秒で名付けたんだよ! その……ご、ゴールディンサンダードカーンってな!」
「まるまる違うッス! 確かゴールドーシュリンプ……」
「その会話ウザい」
「ぎゃあああああ!」

城壁の外から、やけにごてごてした大砲のようなものを構えていた男たち……その中で一番派手な格好をした男と周りのツッコミに、ガイル、レイド、カッティオ、フランツはそれぞれ投石した。
弓矢のような鋭さで石は飛び、ガガガガンッ、と男たちのひたいに命中した。

「何すんだてめぇー! く、くそう、俺の存在に気づくなんざ何者だぁ! 俺は影のように生きる……」
「どこが影なんだろうねぇ。あんた影どころかミラーボールだよ? も、キラッキラのまん丸でさ」
「すごい、あの上着全部宝石だ。……五万……ほう、十万」
「ガイルさんー! いや分かりますけど、気持ちは分かりますけどリアルにあの宝石の鑑定しないでくださいよ! って十万? マジで?」
「おいフランツ、思いっきり本音こぼしてるぞ」

ガイルのつぶやきに目の色を変えたフランツへ、カッティオが冷静にツッコんだ。
その間、自称『ゴーなんたらかんたら盗賊』の影(実際はミラーボール)はレイドの一言を聞いてキレ……なかった。 砲台の上で、丸い体をさらに丸くさせて、めそめそと泣き言を漏らしている。

「うっうっう。ヒユ〜ヒユ〜、俺、俺ミラーボールって……二重にけなされたよう。ひっく」
「ボスゥ! やいてめぇら、ボスの体格と自称『影』の件についてはツッコむんじゃねぇ! ボスは、ボスは怒りっぽいがと〜ってもナイーブな心の持ち主なんだ!」
「「「「知るかぁ!」」」」

四人見事なシンクロ・ツッコミ。そしてとうとつに訪れた奇妙な沈黙。……沈黙は盗賊のボスが泣き止むまで続いた。
その後、ボスは(部下たちのこれ以上ないほどのヨイショのおかげで)なんとか気を取り直し、大砲の上から叫んだ。

「やいてめぇら! 俺様は〜……盗賊団のボス、ドーセイン様だぁ! このミサイル砲の威力が分かったなら、さっさとそこをどきやがれぇ!」

ボス、ドーセインはなにげに盗賊団名を省きつつ、ガイルたちに叫んだ。にやり、と悪役らしく片方の口角をあげて、目を細める。この間『捜し物』のために突入していったシェンズの町でもこの奇怪な兵器の前に恐れをなして『ガレアン』たちは攻撃をしてこなかった。
ドーセインはそうして油断し、フィロット……『変人の町』が『変人の町』たるゆえんを忘れていた。

どごおおおおおおおっ!

「…………」

ドーセインはガイルたちに人差し指を突きつけながら、そろーりと下を見た。自分たちはまだ撃っていない。もう一度そろーりと顔を上げる。
町の奥の方から、白煙が上がっていた。
ガイルたちは冷静にそれを見て、つぶやく。ドーセインたちにも聞こえるように。

「あー、ウィリンがやった」
「なんかこう、偶然だったとしても対抗意識が感じ取れるよね」
「タイミングが良すぎないか?」
「また家が吹っ飛びましたか」
「…………」

沈黙する盗賊たち。ガイルたちは至って普通の表情(むしろ怖い)で言った。

「まぁそういうわけで」
「別にそういう……『キカイ』だっけ? 確かにヨーゲンバードじゃ珍しいけど、爆発自体はここいらじゃ日常茶飯事だし・・・・」
「大して深刻でもないな」
「むしろウィリンが祭りの時にフォンター(※この世界での回復薬)ばらまいた時の騒ぎのほうがヤバかったですよ」
「ちょ、おい、そのウィリンって誰だ? 俺たちのミサイル砲を超える兵器でも造ってんのか?」

思わず、といった風に、盗賊の一人が尋ねる。すかさずドーセインがスパンと殴るが、殴られた盗賊の問いはドーセインを含め、すべての盗賊たちが思ったこと。
これにもガイルがさらりと答えた。

「いや、錬金術師れんきんじゅつし目指すとかほざいてる爆弾女。実験実験言いながら毎日破壊活動してるヤツで」
「アルケミストったら頭いいじゃん! なんで爆発? 治療薬の調合がおもだろ!」
「アイツの場合、治療薬造ったら確実に爆薬になるんだよ。というか、そんなこと俺たちが知りたいわ」

絶句する盗賊。
ガイルたちはそれぞれ武器を構え(ガイルの場合は拳、他三人は剣)、すごんだ。

「さて、あんたらは一体何しにきたんだい? 喧嘩なら高く買ってあげるけど」
「レイド、その口調じゃお前が喧嘩うってるぞ。とっととUターンして帰れのほうが」
「あんたらどっちも喧嘩しか考えてないでしょ」
「まぁ……運動にはちょうどいいか」

完璧にバカにされて盗賊たちは我に返り、一気に沸騰した。
雄叫びを上げながら剣、棍棒、短槍を構え始める。
後方でミサイル砲やらその他の銃器を構えていた男たちも、銃口を町へ向けた。