STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第二章 5.『祭り』

ポツッ

「ん? 雨……」

さぁ突撃、というところで、晴れ渡った空から降ってきたしずくに盗賊たちはどよめいた。ほんの数秒で、こさめのような状態から一転、滝に変わる。

ドザアアアアアアアアッ!

「んぎゃああああああ!」
「つめてっ!」
「つーか、いてぇ!」
「お、エイルムだ」

ガイルは手をかざしながら、空に浮かぶ魔法陣を見つめていた。
青く光る魔法陣のさらに上に、深紅の輝きがあった。魔術を発動させているエイルムは厚手のローブをまとい、杖の上にこしかけながら右手を前に突き出していた。右の手のひらからは、魔法陣と同じ輝きがもれている。
エイルムは強く言った。

「アクア」

魔法陣は輝きを強め、現れる水の質量もさらに増えた。
男たちの悲鳴もかき消える。

「エイルム、ナイス! うーん俺たちの出番なくなったね」
「そーだな。ま、エイルムがいればたいてい事は済むし」
「…………チッ」
「カッティオさん今舌打ちしました? え? ひょっとしてあんたが一番喧嘩したかったの?」

しばらくボケーッとその場を見物することにした四人組だったが、奇妙な音が聞こえてくるのに気づいた。

「クシュッ…………ふえ……シュッ」

上空から。

「クショッ……ぐずっ、グシュッ」
「ちょ、エイルム! お前風邪引いてるの?」
「ダメよー! 風邪引いてる子が水遊びしちゃ、こじらせちゃうじゃないのー! せめて火遊びにしなさい!」
「レイドさん火遊びもダメです」
「じゃ、女遊び」
「黙ってろ!」

地上でコントが続く中、まさか自分のくしゃみが地上にまで聞こえているとはつゆ知らず、エイルムはひたすら水を召喚し続けた。
もうもうと立ち上る水蒸気のおかげで、すでにローブの内側までしけっている。上空ただいま湿度百パーセント振り切り状態。

「うう、爆発音がするから、何かと思って来てみたけど……グシュッ、やっぱ寝てたほうが良かったかも。……フェックシュ!」

エイルムは右手を出しつつ、くしゃみをしまくっていた。
くしゃみのせいで集中がとぎれとぎれになっているエイルムの不安定な魔法は、すぐに効力を失っていった。しぶとい盗賊たちは、滝を越えるほどの質量をもった水を受けても生きていた。
そのなかでも、ドーセインは格別で、一人水の中で立っていた。小型版ミサイル砲を背負って。

「こんちくしょー!」

引き金を引く。
ドカンと一発放たれた弾丸は、地面すれすれを飛びながらまだ無事な城壁へ飛んでいった。そして見事直撃。

ドゴオン!

「「「…………」」」
「ちょっとー! また城壁ぶっ飛んで……って、連鎖起こしてるし!」

フランツの言うとおり、どうやらかなめのあった場所が破壊されたらしく、まるでドミノのように城壁は右へ左へガラガラと崩れていった。
しかし、その向こうには。

「わ、もうこんな壊されてるー! めめめメルティナぁ〜」
「フェラード、なんならあなたを盾にして私逃げてやりましょうか?」
「ややややだよう! 待ってくれよう! 一人は嫌だぁああー!」
「あ、だだっ子フェラード」
「…………リーダー」

思わず、といった風にレイドとカッティオが片手で目元を覆う。
城壁の向こうに立っていたのは、『ガレアン』フィロット地区のメンバーたちと二人の上司でありリーダーのフェラード、そして一般隊員でありながらその補佐役を命じられているメルティナだった。フェラードは遠目にも分かるほど怖じ気づいており、メルティナに何度か耳打ちされるも首を横に振っている。
しまいには殴られた。
ガイルたち四人と盗賊たちはそれを白い目で眺めていた。

「と、ととと盗賊よ! わ、わわ私は『ガレアン』フィロット地区のリーダーフェラード! さささっさと投降し……」
「んなへっぴり腰の言葉聞いて誰が投降するかー!」

盗賊の一人がヤジを飛ばし(しかも真実)続いてフェラードをバカにするような発言がこれでもかとはき出される。
フェラードはまたしょんぼりと落ち込んでしまい、引きこもり状態になってしまった。メンバーたちが無言でその肩を叩いている。

「フェラード……本当にいいのか? あれで」
「小心者、照れ屋、気弱、あがり症、あれくらい見事なヘタレ四拍子がそろってる人も珍しいよな」
「の、わりにファイターの職極めてるんだが」

ファイターといえば接近戦のスペシャリストである。剣技もできれば格闘技も可、技も多種多様……なはずなのだ。なのに、『ガレアン』では誰一人として彼の戦っている瞬間を見たものはいない。
というか、もはや彼がどうやって、どうして『ガレアン』へ入ることができたのかということすら一番つきあいの長いレイドも忘れてさっている。

「うーん、あの人もこのフィロットの町じゃ五本の指に入る謎の人物だよな……」
「あんたらの上司でしょう! フェラードさんのフォローとか考えてないんですかー! というか、盗賊たち調子のってきちゃってますよ! どーすんですか!」
「まーまー、落ち着いてフランツくん。リーダーのとうとい犠牲を踏みつけ、いや足場にして、誰かが今なんとかして」
「踏みつけとか足場とか結局フェラードさんのことフォローする気無いでしょう」
「うん」
「即答かー!」

……もうここまで来ると盗賊に攻撃されていること自体どうでも良くなってきている。というか、盗賊たちの存在すら忘れられている。ドーセインは思った。

(やりにくー……)

振り返れば、盗賊たちは例の滝攻撃からだいぶ立ち直ってきていた。フェラードにガンガンヤジを飛ばしている様子を見れば、たいしたダメージは無かったようである。
ドーセインはにやりと笑い、叫んだ。

「てめぇらー! さっさと乗り込んで例のもの探し出せー!」

おおおー! と盗賊たちが叫び、それぞれ武器を構えて町に突進していった。それを迎え撃とうとする『ガレアン』メンバー。

「盗賊どもを残らず捕らえなさい!」

正面衝突が今まさに……おこるはずだった。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「まったくもー皆さんどこ行っちゃったんでしょう」

ティルーナは一人、とことこと大通りを歩いていた。ガイルはバイト先から帰ってこないし、町の人々もどこかへ出掛けている。
なんだか、町で、世界で独りぼっちになったようで寂しくなってきた。
つい数分前に、ウィリンの家の方から特大の爆発音が聞こえたが、それでもティルーナの気分は変わらなかった。

「…………」

だんだんとその歩みは遅くなり、とうとう止まってしまった。ギュ、と上着の裾を握りしめ、ティルーナはうつむく。
……独りは大嫌いだった。

「……みなさぁん」
「はいはい、どーしたのかな? おじょーさん」

思わず泣きそうになったところへ、明るい声がかかった。パッと顔を上げると、目の前に全身を黒い衣類でかためた青年が。
ティルーナはそれを見て満面の笑みを浮かべた。

「ステンシルさーん!」
「ステントラ! 頼むステントラだから! 『シル』じゃなくって『トラ』ね!」

ステントラはツッこみつつ飛び込んできたティルーナを抱きしめた。頭をくしゃくしゃとなで回し、聞いてみる。

「なぁ、さっきからドカドカ音するんだけど……『祭り』?」
「そーですね、お祭りじゃないですか? ガイルさんもどっか行っちゃいましたし」
「何っ! アイツ俺らそっちのけで『祭り』に行ってるのか! ずるいぞっ」
「ですよねっ。ねぇステンシルさん、私たちも行きましょう!」
「あーはいはいステントラだから。ま、いろんな人誘っていこう……」
「ホーップステーップジャーンプッ!」
「だぐはっ!」

ティルーナの手を引きながらフラフラと歩き始めたステントラだったが、真横からいきなり両足跳び蹴りを食らって吹っ飛ぶ。
抱えていた革袋は死守したが、本人はぼろぼろになった。

「古いよー! ていうか何で! 何で蹴るの?」
「こらそこの不審者ー! ティルーナちゃんを誘拐しようとしたな、逮捕!」
「あ、ウィリンさん」

ややくすんだ長い金髪を右の側頭部で一つにまとめ、薄い茶色の瞳をした少女がティルーナの前に立ち、ぶっ飛んだステントラを指さしながら叫んだ。

「不審者確保!」
「なにぃ不審者? どこだー!」

あっという間に肉屋の店主を筆頭にわらわらと男どもが現れて、ステントラをタコ殴りにしていく。
ウィリンはよーしよしとティルーナの頭をなでながら言った。

「ティルーナちゃん、もう大丈夫よ〜」
「ウィリンさん、ありがとうございます〜!」
「おいいい! 俺完璧に不審者か! ティルーナちゃん何でー!」
「あ、ステントラさんじゃないか。まったく紛らわしいなぁ」

あっはっは、と笑いながら男たちはステントラから離れていく。ぼっこぼこにやられたあげくロープで適当に縛り上げられて、ステントラは泣きたくなった。

「ウィリンお前ー!」
「…………あっ、ステントラ! 久しぶりね首都から帰ってたの?」
「何いまさら取り繕おうとしてんだオイ? せめて確認してから蹴りつけてこい!」
「だいたいそんな真っ黒な身なりしてるから不審者と間違えられるのよ。真っ白ならまだしも」
「今度は開き直って俺のセンスにケチつけるか。というか不審者と間違えたのお前だろーが」
「はぁぁ心の狭い大人っていやね。まったくティルーナちゃんはこうなっちゃダメよ。私のように広く浅い心をお持ちなさい」
「広く浅くってどんな心だオイ」
「何事も受け止めるけどやり過ぎは速攻で切り捨てる」
「じゃ今のもやり過ぎだろーが!」
「……ずいぶんにぎやかだなぁオイ? いつまでコントしてるんだ?」
「あ、ケゼンさん」

男たちが戻っていった路地の方から、濃い焦げ茶色の髪と瞳をしている男がやってきた。ステントラより若干年上に見えるその男ケゼンは、ボロボロのステントラを眺めながら言う。

「ステントラ、お前シェンズの町でくたばったんじゃなかったのか?」
「なんだその『くたばりゃ良かったのに』って言外に言ってるようなセリフは。死ねってか? 俺に死ねってか?」
「あーまぁ……てか、それよりてめぇ飲み比べの酒、たんまり買ってきたんだろーな? 今度こそ決着つけるぞー!」
「上等だケゼン! 今度こそ負かしたる!」
「そんなこといいからさっさと騒ぎ見にいこうや」

先ほどまで泣き寸前だったとはとても思えないような無表情で、ティルーナが切り捨てた。
五人の間にひゅう、とこがらしが吹く。ちなみにただいま夏目前。

「……ルーちゃん、頼むからキレないで。うん、さっさと行くからね、うん」

ステントラはなんとかロープをほどき、革袋を背負い直してティルーナと共に歩き出そうとした。

「ん? ステントラ、向こうに行くにゃ武器が……ていうか、お前この間弾切らしたって言ってたろ。首都で手に入ったのか?」
「あ〜、ああ、ムリだった。くそ、ウィリン、お前特製のフォンターある?」
「いつも持ち歩いてるけど・・・・何でみんな武器扱いするのよ。まぁ確かにちょっと爆発したりするけど」

どこがちょっとだ、と思いつつ、ステントラはウィリンから試験管ごとフォンターを受け取った。中には薄水色の液体が入っており、美しく怪しかった。

「よーし、俺たちも『祭り』に行くぞー!」
「おお〜、楽しみだな〜」

『祭り』とはこの地方の隠語で、この場合主に喧嘩場などの騒ぎを示す。
こんな感じで『祭り』に行くまで会話をぱらぱらとしながら、四人は崩壊した城壁の近くまでやってきた。
ステントラは三人人に残るように言い、まずは自分がひょいひょい、と城壁を登っていってみる。案の定、穴の開いた部分から城壁内の通路へ入ることができた。
いったん戻ってきて、ステントラは言う。

「さて、なにやら怒鳴り声や発砲音がけたたましく聞こえるが、まぁ気にしないでおこう。そいで、誰が行く?」

親指でくいっと崩れた城壁を指さすステントラに、まずケゼンが名乗りを上げた。

「ま、とーぜんだな。……あ〜やっぱウィリンも来て? 俺弾丸買ってくるの忘れたから、お前のフォンターで間に合わせる。間違っても隣で暴発させるなよ」
「ちぇ」
「今なんだ、舌打ちしたか? 俺吹っ飛ばす気だったのかこの野郎」
「あたしは女よ! どっちかっていえば『このアマ』でしょ!」
「ウィリンさん〜、もうこの際野郎だろーがアマだろーがどうでもいいですよ。……ステッカーさん、私は?」
「おいおいおい、ステンシルより悪くなってるぞコラ。ティルーナちゃんは待ってて。ちょっと今回は危ないから。町の方で、おじさんたちと一緒に……あ、テッドの診療所の方が安全か」
「ああ、あそこなんかテッドの改造のおかげで他の建物より頑丈なんだっけ? ていうか、テッドって生物以外にも詳しかったのか……」
「いやいや診療所を改造したのはこの俺だよ? 『ちょいと絶叫とか破壊音とかが周りに響かないように防音設備整えてくれ』って頼まれて」
「おい診療所だろ。絶叫とか破壊音って何!」

まぁとにかく、城壁の上へ登るのはティルーナ以外の三人となり、ティルーナは頬をふくらませながらそっぽを向いた。
かなりつまらない。
城壁の向こうからはにぎやかな(このとき四人のいる方とは反対側の城壁がドミノのごとく破壊されていた)音が聞こえてくるというのに。

「ゴメンよルーちゃん。また後でな」
「……ふーんだ」

ティルーナはステントラに顔を見せず、だがちゃんと言うことを聞いて広場の方へ戻っていった。
よし、とうなずき、三人は城壁の中へ入り込む。
破壊されていない場所を走り回り、階段を見つけてはガンガン登る。そして、三人はすぐに城壁のてっぺんにたどり着いた。
ステントラはしー、と人差し指を口に当て、そろそろと階段からふちの方へ歩いていく。
妙に猫背で忍び足なところが怪しさ満点。プラス黒装束で完璧なる不審者。

「てめぇらー! さっさと乗り込んで例のもの探し出せー!」
「例のもの?」

思わずステントラも首をかしげる。
やけにキラキラしている肥えた男の一喝で、その仲間と思われる男どもが原始的な武器に始まり、最近出回り始めたばかりの高価な銃器まで構えてこちらに突進してきている。
下を見れば、崩れた城門の付近に人影が四人、そして反対側の城壁には黒い制服に身を包んだ集団が。

「盗賊どもを残らず捕らえなさい!」

高く澄んだ声が、ステントラのいる場所にまで響いてくる。

(あ、メルティナの声だ。おいおいフェラード、一般隊員に負けてどーするよ……)

そんなことを思いつつ、ステントラは他三人を呼んで二言三言会話をし、急に立ち上がった。

「ちょ、おいステントラ?」
「いや〜、やっぱ悪い子のお仕置きは一発、でかいのがいいでしょ」

そう言いながら彼がどこからともなく取り出したのは、バズーカ。先ほどドーセインが使った小型版ミサイル砲だった。
『キカイ』をよく知らないケゼン、ウィリンはその使用法が分からずポカンとしたが、ガシャコンと言わせながらステントラがそれの照準を盗賊たちと『ガレアン』たちのど真ん中にあわせるの見てハッとする。

「ちょステン。それなんかやばいんじゃね? おいステン!」
「大丈夫、この町のヤツらがこのバズーカ一発で死ぬかよ。つーことで」

ステントラはレンズをのぞき込み、地面にねらいを定めながら引き金に指をかけた。

「一発勝負さよーならー!」
「おいいい! さよならって何! やっぱ殺す気かー!」

二人の制止も間に合わず、ドゴンとステントラのバズーカは火を噴いた。
三人の眺める(二人は呆然)先で、ステントラの放った弾丸(ウィリン特製フォンター)は白い煙をひきながら目標へ一直線。
そして。

ドオオオオッン!

「「…………」」
「ふぅ、正面衝突回避。メカニックステントラお手柄〜」
「どこがお手柄よー!」

ウィリンがステントラを城壁から蹴り落とした。