□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第三章 7.大捜索……灯台もと暗し 住民たちは、がめつかった。いや、そんな言葉では足りない。足りなさすぎる。なにせ、願いを叶えてくれるという白い小鳥を盗賊たちから守るため……ではなく、自分たちが利用するために探し始めたのだから。 他人の家や店に無断で上がり込んだり、そこらに置いてあるツボや樽をひっくり返したり、木箱をぶち壊したりしながら探し回る住民たちの目は、完全に『マジ』である。 だが、一向に小鳥が見つかる気配はない……。 「……おーい、ステン」 「あんだぁ緑」 「緑じゃねーよ。……ここまで、町のヤツらががめついとは思わなかった。だいぶ慣れたと思ったんだが」 「あっはっは〜。同感……」 「すごいパワーでしたね〜。向こうもバカバカしいけど戦い慣れてる盗賊ですし、それをものともしない住民の皆さんには感服しますねぇ」 「ルーちゃん? それはどこまで皮肉なの?」 「グゴー」 「コイツは寝たまんまだし」 ガイル、ステントラ、ティルーナ、テッドの四人は、盗賊や住民たちの『捜索』による被害を今のところ受けていない裏路地に座っていた。 ときおり脇を子供たちが駆け抜けていくが、四人を見もせず……というか気づきもせずに行ってしまう。大人たちも同様だった。 「すごいなぁ……も、獣だよな。欲望もあそこまでいけば」 「ですね〜」 「お前らの欲望は酒と食い物だろ……どーせ」 「んがー」 「つかイビキうるせぇ。わざとはヤメロ。黙らせるぞ」 ガイルは気絶(睡眠?)中のテッドの首筋に、ス、と剣を近づけた。ぴくり、とテッドは身じろぎし、両手をゆっくりと上げる。その顔には、いつも通りのニヤニヤ笑いが浮かんでいた。 ……先ほどから起きていて、狸寝入りをしていたらしい。 「いやぁガイルくん、久しぶりに会いましたねぇ」 「そーだな。最後に会ったのはティルーナとメミィの創作料理で男どもが身体機能停止させられたときか」 「…………」 「失礼ですね〜、身体機能停止なんて大げさな。私、ちゃんと味見しましたよ?」 「人間外の生物の舌なんか信用できるか! というか、アレは悪夢以外のなにものでもない。半ば兵器だったぞ……」 こんな状況下で思わず『あの事件』を思い出してしまいガイル、ステントラ、テッドはすーっと顔色を失った。……馬鹿馬鹿しいくらい嫌なタイミングで、墓穴を掘った。 「いや、これはもうどーでもいいから……なんか、聞いてたか?」 ガイルの真剣な顔を見ても、テッドはいつも通りひょうひょうとした態度で答える。 「いいえぇ。私はちょっと捜し物をしていましたら、急にあのでかい盗賊にげんこつヒットさせられて……で、縛られたまんまずーっとおぶわれてて」 「意識はいつからあったんだよ」 「ティルーナちゃんと会う五分ほど前からですねぇ」 「あのバカ頭目、なんか言ってたか」 テッドはふぅー、とため息をつきながら、服の襟元を軽く引っ張った。 「ええ〜、早く探せーとか絶対気づかれるなーとか。あとは、そうですね。『幹部』という言葉も聞こえてきました」 「『幹部』? いったい何の」 「そこまでは知りませんよ」 最後、問答が面倒になってきたらしいテッドの回答は、かなり投げやりな調子だった。テッドが会話に飽きてきたのを見て取り、今度はステントラが質問する。 「な、お前の捜し物ってなんなんだ?」 「へ? ああ、メミィが時計台で見つけた小鳥ですよ。ケガをしていたので、今朝手当したんです。本当はミリルさんに預けるつもりだったんですけど、やっぱ自分で面倒見ようかと……。でも少し目を離していたらいつの間にかいなくなってて」 「…………こ、小鳥?」 ガイルとステントラはお互いを見、テッドを見て、もう一度聞いた。 「小鳥の特徴は?」 「羽毛も、くちばしも、足の先まで全部真っ白で……」 瞬間、ガイルはテッドの胸ぐらをつかみ上げブンブンと振り回した。 「おいいいい! お前か! お前捕まえてたのか! なんで目ぇ離したんだよ!?」 「いえ〜、新しい耳と鼻と目頭から蒸気が出る錠剤が完成したので、誰に試そうかちょっと考えて……あ、あなたたちがしてくれます?」 「「却下!」」 それ一体何に使うんだよ、というツッコミもなくそろって断りながら、ガイルとステントラは今度こそお互いの顔をしっかりと見合わせる。 「お〜い、マジでいるって」 「どうするか……素直に俺たちも鳥、探すか?」 「でもこの町、田舎田舎と言われながらも結構でかいからなぁ……。ん? ルーちゃん、どうした?」 ステントラはガイルの後ろで、ボーッと宙を眺めているティルーナを見て言った。 ティルーナはその状態のまま、ポツリとつぶやく。 「……あの、そういえば盗賊に捕まる前……不思議な子に会ったんですよねぇ。その小鳥みたいにぜーんぶ真っ白で、綺麗で」 「なに、」 言ってるんだ、とガイルが言うよりも早く、ステントラがバッと身構えた。あごに手を当てなにやら考え込み出す。 「……マジで、あいつか? いやでも、白い……白……」 そして言った。 「おーい、捜し物増えたぞテッド」 「はい? あの、流れ的にまさかその『不思議な白い女の子』も探すとか……?」 「『白』繋がりで何かあるかもしれないし〜」 んなアホな、という視線をガイルとテッド、そして言い出しっぺのティルーナにまで浴びせられたステントラは、しかしいつものようにショックを受けたふうでもなく、ただ淡々と言った。 「とにかく探す。あ、小鳥のほう怪我してるんだよな? じゃ診療所から大して離れてないかもしれないし」 「あー……まぁ飛べはしないでしょうね」 「そうと決まったら行く」 有無を言わせぬステントラの言葉に訝しみながらも、ガイルたちはただうなずくのみだった。 メミィはぱちりと目を開けた。だが、目を開けているはずなのに何も見えない。 (?) ゆっくりと記憶の糸をたぐり寄せる。確か朝、時計台の点検に行って、何かを見つけて……。 「小鳥!」 その何かを思い出し、勢いよく起き上がった瞬間に後頭部に鋭い痛みが走った。思わずくの字に折れ曲がりながら、バランスを崩してベッドから床に落ちる。 「んぎゃっ」 またも後頭部に何かがはじけるような痛みがリピート。 ボロボロと涙が流れるが、頬の上の方でそれらは何かに吸い込まれていく。そっと顔を手で触ってみて、ようやく頭を全部包帯で巻かれていることに気がついた。そう分かった瞬間に息苦しさが襲ってきて、慌てながら包帯を取り始める。 「ぷは……く、苦し」 軽く咳き込みながら後頭部をさする。かなりの大きさのこぶで、パンパンにふくれ妙に熱を持っていた。ちょっとつつくだけでも、針を刺すような痛みに襲われる。 確か、小鳥を拾い上げた後、『自分が一番この世で嫌いなもの』を直視し……そこから記憶がない。 (あー、また私、暴れちゃったんだろうな。たぶんミリルが止めてくれたんだろうなぁ……) 普段は優しくとも、いざというときは他人を殺しかけるプリーストの親友を思い出して、メミィは遠い目をした。 「ここ、テッドさんの……?」 キョロキョロと辺りを見回す。落ち着いた色合いの小さな病室に、窓から見える意外としゃれた庭。何度かお世話になっている、テッドの診療所だった。 「まぁ、当然よね。ここくらいしか運び込めないだろうし」 そう言って、ついクセで頭をかいた。ズキリと頭が痛み、ヒッと情けない声を上げる。 ちょうどそのとき。 カラ、カラン――――― (ん?) 静かな玄関の鐘の音が響いてきた。 メミィは頭を押さえながら、そっと立ち上がる。そしてゆっくりと待合室へ向かった。 入ってきたのは十三、四歳ほどの少女で、印象は『白』。 「……綺麗」 思わず、メミィは声に出してしまった。 少女はバッと振り返り、顔をゆがめて左腕を右手で握る。それを見て、メミィは尋ねた。 「あ、大丈夫? ケガしてるの?」 二歩歩いたところで、メミィは止まった。 少女との距離が縮まらない。 もう一歩、すると、少女も後ろに一歩下がる。メミィは不思議そうに首をかしげて、その場で止まった。少女の方は油断なくこちらを睨んでくる。 「…………えっと〜」 「…………」 再度話しかけようとしたその瞬間、少女は近くの窓へと突進。激突する、と思ったメミィは息を呑むが……。 シュッ 少女が指を振るだけで鍵が開き、窓が全開になった。そして少女はそこから外へと飛び出す。 ちょうど彼女と目があって、メミィはふと気づいた。 (……怯えられてるの?) 怒りにも近い感情と、本能的な怯えを瞳に浮かべ、少女はそのまま外へ逃げていってしまった。 そして。 「「どこだ小鳥―!」」 同時に叫びながら、レイドとカッティオがスライディングで診療所へ突っ込んできた。 |