□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第三章 8.びっくり箱 ガイルたち四人は、路地裏から一気に走ってテッドの診療所までやってきた。診療所はなぜか扉が半壊で、その横の窓も全開になっていた。……このイロイロと黒い噂の絶えない診療所まで住民たちが狙うとは考えられないし、彼らの暴力の矛先が向けられていない証拠に、診療所の脇に積まれている木箱は無事である。 何があったんだと思う間もなく、ステントラがバッと地面に手をつけた。ガイルたちからは見えないその手の回りに、うっすらと魔法陣が浮かぶ。 「おいステン、お前さっきからなんか変だぞ? どうしたんだ」 「…………」 無視。 「ステントラさん、診療所目の前でどーしたんですか〜」 「…………」 またも無視。 「…………」 テッドは無言でステントラの脇をとおり、診療所へ向かった。……目には目を、無視には無視を。 だがステントラは一向に気にせず、スッと立ち上がったと思うと勢いよく走り出した。 目的地であったはずの診療所とはまったく正反対の方向に。 「あっ、オイ!」 ガイルは捕まえようとして、ためらった。 普段の態度からは想像もつかないほどステントラの雰囲気がせっぱ詰まっていたからである。 上手い具合に、ステントラはガイルとティルーナの脇をすり抜けていってしまった。 「あ〜、ステントラさ〜ん……」 ティルーナの声も、むなしく響く。 ぶっちぎっていったステントラはすぐさま角を曲がっていってしまい見えなくなったので、二人は渋々テッドの診療所へ足を向けた。 入ってみると、テッドやメミィの他にレイドとカッティオが立っていた。三人で何やらウンウンと悩んでいたところ、自分たちがやってきたらしい。 「小鳥、逃げたのか……」 「まぁ〜消えたというか逃げたというか、もう煙のよーに」 「なんで目を離したんだ」 「そのセリフは二回目ですねぇ。別に私、悪くありませんって」 テッドはややいらついた感じで、ガイルと同じことを言ってきたカッティオに答えた。 もともと彼は、『他人の起こす騒動に巻き込まれる』ということが嫌いである。まぁ『自分の起こす騒動に他人を巻き込む』のは大好きであるが。 「ところでメミィさん、頭はどーですかぁ?」 「う、……まだ痛いです」 「でも包帯はいらないみたいですねぇ。うんうん、回復力がけた違いですねぇ」 一体今この状況でこいつは何を考えているんだろうと思いつつ、レイドはふと左を向いた。 そしてようやく、待合室入り口でボケーッと突っ立っているガイルとティルーナに気づく。 レイドは力なく手をヒラヒラと振って言った。 「やぁ、見つけた?」 「なにをだ……って小鳥だよな」 「もちろん」 「知らん」 「チェ」 舌打ちをした割に、レイドはあまり残念そうに見えなかった。そのまま後ろの椅子に腰掛け、うーんとうなる。 「みんな結構闇雲に探してるけど……ていうかホントがめついよなぁ、この町の人って」 「今に分かった事じゃないだろう」 「いやでもさ、ここまで自分に素直だといっそあっぱれっていうかなんていうか」 「そのがめつい人の中に、一応俺たちも入ってるが」 ボソリとガイルがなにげに、この場にいる人間全員(自分含め)心に傷を負う言葉を口にした。 「……なんか、ステントラの様子がおかしかった」 「はぁ? あの真っ黒不審者の挙動不審なんていつものことだろ」 「いや、そうなんだけど」 (み、認めちゃうんだ) ガイルが全くすっぱり言い放ったので、逆にメミィは不安を覚えた。 「妙な慌て方しててさ」 「? 妙……でしたか? 私には二日酔いしてうちに転がり込んできたときと同じように思えましたけど」 「行動そのものがおかしいんだよ。白い小鳥と白い女の子をつなげるとか、いきなり先頭に立ち始めるし」 「え、白い女の子?」 思わずメミィはつぶやいた。 ガイル、ティルーナ、テッドはそれを聞き逃さず、素早く視線を彼女へと向ける。ただあまり事の繋がり方が分かっていないレイドとカッティオは、ぽかんとしていた。 「ガイル、その白い女の子っていうのはなんだ? 小鳥と関係あるのか?」 「ステントラ的に、あるらしい。俺は知らんが……なんとなくアイツに気迫で押されたら、普段ダラーってしてる分迫力あってさ」 「……また面倒なものを」 「あの、さっき来ましたよ? 女の子」 「…………」 は? と唖然として振り返る三人。 そして。 「マジでぇっ!」 「んぎゃああああっっ!」 窓からステントラが身を乗り出してきた。額には大量の汗が浮かんでおり、この短時間で相当走ってきたのが分かる。 本当にいきなりの登場で、診療所内にいた全員が叫んだ。 「ってステンんんんん! お前どこ行って……ていうか事をさっさと解説しろぉお! もうなんか頭の中ゴチャゴチャだ!」 「んぐごあっっくっぐるじっ……」 ガイルは怒りに身を任せ、ステントラの胸ぐらをつかみ上げた。ゆっさゆっさと上下左右に振り回され、みるみるうちにステントラの顔は青く染まっていく。 頃合いを見計らって、テッドが止めた。 「はいはい、そこまでぇ」 「「ぜぇー……ぜぇー……ぜぇー……」」 荒い息の二人、それを眺める冷静な五人。空気にかなりの温度差が。 数分後ステントラは、白い小鳥、白い少女、強引な行動、これらについて洗いざらい吐かされることとなった。 「あ、あー……信じてくれるなら」 「ホラ吹きが」 「大嘘つきが」 「夢遊病者が」 「…………も、言ってやらない」 ステントラはグレてやろうとした。だが、引きつり気味笑顔のガイルがそれを阻止する。 「言え。お前がおちょくられようが小馬鹿にされようが知ったこっちゃない。言え、何か知ってるんだろ」 「……りあい」 「ん?」 ガイルたちはそろって右耳に手を添えた。 そしてもう一度ステントラが言うのを待つ。 「その、小鳥……女の子と、知り合い」 「ふーん」 ………… ………… …………は? 「「「「「「はぁぁぁー!?」」」」」」 「ほらぁもう完璧ひいてるじゃん! だから言いたくなかったの!」 だがステントラは、開き直った様子でベラベラしゃべり始めた。 「知り合い! 俺その子と知り合い! んでもって女の子は小鳥! ていうか小鳥が女の子の格好になれるだけ! で、……その……」 ステントラはたたんだ白いハンカチを取り出し、端っこをぎゅっとかんで引っ張った。 「あの子世間知らずだから、たぶん今頃、町の人や盗賊に追い詰められてウウウウウ〜」 「演技も演出もどーでもいいんだよっ気色悪い」 ゴンとステントラを蹴り飛ばし、ガイルはしみじみ思った。 小鳥の知り合いがいるなんて初めて知った。なんかもうこいつ人間びっくり箱? 「って、人間になれる小鳥なんているのか? あと、本当はそいつどんな……」 「あの子はそーいう種族だから、人間の姿になれるの。……あ〜あんまり細かいところは本当に教えられないんだけど、まぁ箱入り娘といってもいいか。かなり大事に育てられてたし」 ぴらぴらと先ほどまでかんでいたハンカチを振りながら、ステントラは態度を一変させ、かなりどーでもよさげにつぶやいた。 「あ〜あ〜、もうちょっとであの子の行方がわかりそーだったのになぁ……。残念だなぁ……誰のせいかなぁ。ここでちょっと話を聞いたら、すぐそこへ行くつもりだったのになぁ」 「……俺のせいだと?」 「じゃ、誰のせいかなーん?」 にやり。 ゴーグルの奥で、ステントラの目がそう歪んだ気がした。 ぷちっと頭の奥で何かが切れかける音が響いたような気がしたが、ガイルは持てる精神力、理性を総動員してこれを静めようとする。 先ほど一回たまったイライラを放出したからか、案外あっさりと感情は収まった。 「ガイル〜、急な展開で悪いけどさ、手伝え」 「オイ、最後がなんだか命令形に聞こえたが? その直前に謝罪の言葉がある分余計目立つぞ」 「そうかぁ?」 ステントラは下手くそな口笛を吹きながらしらを切った。 そして、メミィとテッド、レイドとカッティオにそれぞれ言う。 「ちょっと二人はここで待ってて? そっちの二人はなんとかして『ガレアン』集めて。最後盗賊ども町から追い出すからさ。ティルーナちゃんは……」 ぴくりとティルーナの肩が震える。 それを見て、ステントラはにんまりと笑った。 「一緒に小鳥、探しに行くか」 「!」 一瞬驚き、次にニヤッと笑ってティルーナはうなずいた。 |