□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第三章 9.小鳥救出のち銃撃戦 『彼女』はひたすら走っていた。なるべく人間たちに見つからないよう、裏路地を。 ときおりすれ違った子供たちや大人たちは『彼女』など気にも留めずに去っていく。『彼女』にとって、それは好都合だった。 そして『彼女』は、少し油断して表通りに顔を出した。同じように、正面で裏路地をのぞき込んできた男とばっちり目を合わせてしまった。 「…………」「…………」 両者、しばし無言。 どちらかというと、男の方が先に我に返った。 「あ……い、いたぁー!」 「っ!」 「なぁにぃ!」 盗賊たちには、小鳥の姿も人間の姿もバレている。思わず『彼女』は舌打ちをした。 左腕をかばいながら、ひたすらに今まで通ってきた路地を戻る。 すぐさま後ろからドタドタと男たちが追いかけてきた。 「いっけー! 捕まえろー! 何チンタラしてんじゃボケぇっ! 頭ぶち抜くぞぉぉおお!」 追いかけてくる男たちの後ろから、偉そうな怒鳴り声が聞こえてくる。そして同時に銃声が。 ドゴドゴドゴッッ! 「ぅぎゃー! ボスっっ、こんなとこで乱射は止めてくだせぇええ!」 「俺さっきの空き缶のせいで貧血気味なんスよぉぉ! あ、なんか光り輝く階段見える……」 「おおおオイしっかりしろぉぉおお! お前その階段登るなよ? いいなぁっ! 登ったら地上とネバーグッバイだからなぁっ!」 『彼女』はひたすらに前へ、前へと逃げていた。 だが、彼女は正面からも追っ手が来ていることを耳で感じていた。 「〜〜〜〜〜っ」 狭い路地。『彼女』は強硬手段に出た。一瞬で、日の当たらない裏路地が光で満たされる。 「っが!」 それぞれ前と後ろから『彼女』を追いかけていた盗賊たちの中で、前の方にいた者は光を直視し、目くらましにあった。 だが、それよりもだいぶん後方にいた者たちは……。 「あ」 ヒラ、と一枚の純白の羽根が降ってくる。 『彼女』は空へ逃げた。 「っだあああああっっっ! とにかく追えー! もうこの際なんでもいい、おいヒユ! お前お得意の『糸』張れっ」 「りょーかーい」 ヒユは何もない空間に向かって両手を突き出し、何かを編むようにくるくると回し始めた。 そしておもむろに右手を振り上げ、何かを小鳥に投げつける。投げられたそれは、細く透明な『糸』だった。 「ういっと」 シュルンッ、と『糸』は重力を無視して小鳥に向かって飛び、小鳥の胴体に巻き付いた。 左翼をケガしていた『彼女』は回避ができず、そのまま『糸』にひっぱられる。 「っ!」 だが『彼女』は最後の抵抗で、必死に翼を羽ばたかせながらヒユと距離を取ろうとした。 高度は徐々に下がっていき、盗賊たちはそろってニヤリとする。 そこへ。 ザンッ 「ほい、小鳥救出」 「んなっ」 屋根の上からガイルが現れた。 そしてそこから飛び降りて小鳥にからみついていた糸をすっぱり切り裂くと、左手で抱きとめ盗賊たちと向き合う。 ほんの数秒前の盗賊たちと同じような、ニヤリとした笑みを浮かべて。 「んじゃ」 そう言って、ガイルはすたこら逃げ出した。 ぼう然としていた盗賊たちは、大あわてで追いかけようとする。 「ヒユ! 『糸』だ『糸』! 足止めしろっ」 「へいっ」 ヒユは走りながら、ドーセインの言うとおり『糸』を放つ準備をしたが、内心冷や汗をかいていた。 この『糸』は魔法の産物である。そう簡単に斬れるわけもないし、第一常人には見ることさえできないはず。それなのに、あの緑頭はあっさりと斬った。剣に仕掛けがあるかと思えば、そこら辺で適当に量産されていそうな平凡なものである。 訳が分からない。 (こーいった魔法の対処法を無意識に心得てるのかな、っと) ヒユは両手を組み、握りしめて、前方に勢いよく突きだした。 そこから『糸』は無数に伸び、ガイルの足を狙う。 (これでっ……) 「甘いっ!」 全力疾走していたガイルは左足を軸に振り返り、己の体に迫っていた『糸』を残らず斬り捨てた。 今度こそ、ヒユはがく然とした。 そしてようやく彼の『糸』が対抗手段になりえないと判断したドーセインは、ふところからリボルバーを取り出し、ガイルに照準を合わせる。 それを見たガイルは思わず「げ」とうめいた。 「へっ! じゃあな緑頭ぁっ!」 安全装置を解除し、引き金に指をかける。 その瞬間に、リボルバーが彼の手の中から飛んでいった。 「……はい?」 ドーセインは痺れて感覚のない自分の右手を見る。パーの状態で、プルプルと震えていた。 そして彼のリボルバーは遠く離れた路上に、銃身を一部へこませながら落ちた。 「おーいおい、ここじゃ銃器はご法度だぜ〜」 のんきな声が、またも屋根の上から聞こえてくる。ドーセインはギオとヒユ、下っ端数人をガイルの追っ手として走らせ、自分は屋根の上の人物と対峙する。 そこに立っていたのは、全身黒ずくめの青年。手には、ドーセインの持っていたものよりも命中精度の高いリボルバーがあった。 お前も銃使ってんじゃん! というもっともなツッコミも無視して、鈍い銀色に光る銃身を軽くなで、ステントラは再度それをドーセインたちに向けた。 「さぁてっと。今度はどこかっ飛ばそうか?」 軽い口調だったが、 ドーセインはそれを見て歯ぎしりし……ステントラの見えないところで、指を振った。それを見た何人かの盗賊は、スッと腰に手を伸ばす。 ステントラはそれを見て訝しんだ。 相手がたいした銃を持っていないのはすでに確認済みである。ここにいるのも、短剣や軽剣といった近距離用の武器ばかりを持った盗賊だけ……。 チャッ 今度は盗賊たちが笑う番だった。ステントラの顔が引きつる。 盗賊たちは隠しポケットから、それぞれリボルバーなりオートなりといった短銃を取り出し始めた。 (うっそ〜) ちなみに自分が持っているリボルバーの残り弾数は七発。向こうは全員あわせると……絶対に五十は撃てる。 ヤバイ。 「お〜兄ちゃん、強気に出たのが間違いだったなぁ。……うらケンカ売ったんなら買わんかいいぃっ!」 「結構ですっ!」 ガッと反対側の屋根に隠れる。その瞬間に パパパパパッ! 何種類もの短銃が火を噴く音が聞こえた。 リボルバーを構えたまま、ステントラはうめく。 「うーん、おとり作戦すでに失敗。もうこうなったらティルーナちゃんにやってもらうしかないなぁ」 そう言うとステントラは、また別の銃を懐から取り出し、空に向けて撃った。赤い煙が伸びていく。信号弾だった。 「なっ・・・・」 それを見たドーセインは、一旦下っ端たちを止める。 今の信号弾になにかしらの意味があるのは明白で、それが分からないかぎり下手に動くのはマズイ、と考えたのだ。 しかし、その何かの対策を考える前に攻撃は始まった。 スカカカカカッッ! 空き缶ボンバー再度登場。 「「んぎやああああ!」「おうあああああっっ!」「しっ死ぬ死ぬ死ぬぅううううう!」「やややだぁあああぁ!」」 一度それを食らったことのある者は見た瞬間に額を押さえうつぶせになり、その混乱に巻き込まれた者たちも次々と(仲間の手で)沈められていく。 空き缶は主に、ドーセインに向かって放たれていたのだが。 「いいいいでででぇええ! 一体っ、なんなんだー!」 この攻撃は、ティルーナ以下診療所を出発したところで合流した、町の子供たちのものである。 「全く、ステントラさん降参が早いですねぇ」 ティルーナはパチンコをいじりつつ、物陰から呆れたようにため息をついた。 |