□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第三章 10.土壇場の作戦 三十分ほど前、五人は診療所を出た。 ステントラは『ガレアン』メンバーを集めに行こうとしたレイド、カッティオに、なにやらゴニョゴニョと耳打ちしてガイルたちの方へやってきた。 そして、そこからステントラの言うとおりの場所へ向かっていた。 「二人になんて言ってきたんだ?」 「ナイショ」 「(カチン)……小鳥の位置が分かるってホントか?」 「あ〜まぁ大まかなヤツならね」 「なんでそれ、さっさと言ってくれないんですか」 ぶぅと頬をふくらませ、ティルーナはもっともなことを言う。ステントラは肩をすくめて言い返した。 「俺だって、その、白い小鳥=知り合いだとは……だってさ、あんまり会わないし、最初信じられなくってさぁ。あの子がこの町にいるってこと自体が。俺も」 「どーでもいいから、一体どこにいるか教えろ」 「ちょっと待てって」 ステントラはまた地面に手をつき、じっと待った。すぐにまたあの魔法陣が浮かび上がる。真っ白な魔法陣の上に、小さな、本当に小さな球体がいくつか浮かび上がった。青い球体が一つと、赤い球体がいくつか固まって。 それらの球体はちょこまかと、ここからそう遠くない裏路地を移動している。 「ちなみに、青が小鳥で赤が盗賊なんだけど……こっちだな」 「……お前、メカニックだから俺と同じく魔法からきしだと思ってたんだが」 「シツレイな。ちょっとしたものなら使えるわい」 ちなみにメカニックとは、銃器、機械の扱いに長けた職のことである。 ステントラの魔法で、盗賊たちの動きを確認したあと表通りを歩き始めると、正面からパチンコを構えた少年たちが目の前を駆け抜けようとしていた。ステントラは「ちょうどいい」とつぶやき、すかさずそのうち二人をとっ捕まえる。 他五人の仲間は立ち止まって、ステントラとガイル、ティルーナをにらみつけて叫んだ。 「お前、なにすんだよ!」 「ナルを離せっ」 「はーい、たんま。……ねぇ、君ら盗賊に空き缶食らわせてた子たちでしょ? まだ空き缶ある?」 少年たちは全くこちらの言うことを聞こうとしない。ぎゃーぎゃーわめいて、ステントラやガイルにつかみかかった。 ステントラは少年を一人おろし、飛びかかってきた少年の腕を絡め取る。ガイルも、気乗りしない表情で少年二人の動きを封じた。 「なぁ、ちょっと頼みがあるんだってば。俺たちこれからさ、盗賊いるところに行くんだけど、撃退するのに協力してくれない?」 「お前らの言うことなんか聞くかよっ! さっさとナルの方も離せって言ってんだろ!」 ステントラは「おー怖い」とつぶやきながら、後ろにいるガイルとティルーナに聞こえないようにボソリと脅した。 「いいのかい? 俺って今不機嫌でさぁ……、このままいったら、『説得』にも飽きて『暴れる』かも」 もともと全身黒ずくめ、ゴーグルで目を隠しているといった『結構怖い容貌』のステントラは、いつものお気楽な雰囲気を完璧に消し去ったとき、……かなり迫力がある。 少年たちはぞわっと身震いして、ガクガクと首を縦に振った。 「お、ありがとーよ。おいガイル! 協力者ゲットだぜ〜」 「……俺、今ほどお前のこと大人げないと思ったことはない」 「なんだとぅ? ……ま、いいや」 珍しくステントラはたいした反論もせずに会話を切った。 「それじゃあ、協力者も増えたしあいつらの場所もわかったし。……あ、かなり土壇場な計画思いついた」 「土壇場ってオイ」 ガイルは呆れた表情でステントラを見た。 なんか不安。いやすごく不安。 しかしステントラはガイルの視線を無視、素早くティルーナや少年たちと向き合って続けた。 「それと、さっきレイドとカッティオに、散らばったメンバーもそろそろ正気に戻ってくるかもしれないから、そこを集めて一般人の避難やら盗賊ぶっ飛ばす戦力に回してくれって頼んでおいたし」 「え〜? 集めるって、どうやってですか?」 ティルーナが眉をひそめながら聞く。 ちょうどそのとき、少しでも気を抜けば聞き漏らしてしまいそうなほど小さく、それなのにけしてか弱さを感じさせない歌声が響いてきた。ガイルとティルーナは顔を見合わせるが、少年たちはきょとんとしている。 「……メルティナの『 「そうでしたね〜。人を眠らせたり、気絶させたり操ったり」 ティルーナが言うとまともな効果がないようだが、メルティナの職はクラウンである。クラウンの魔力が込められた唄には、様々な効果があるのも事実だ。 相当な実力を持つ彼女なら、唄のなかでさらに条件をつけることぐらい簡単だろう。たとえば、『そこら辺に散らばっている『ガレアン』メンバーたちを自分のいる場所まで呼び寄せる』とか。 「……って、でも結局、メルティナさんと会うのにもやっぱり時間が。レイドさんやカッティオさんと分かれたの、ほんの数分前ですよ?」 「あの異常なくらいプライド高いメルティナが、小鳥一羽で我を忘れると思うか? 『ガレアン』だって、緊急時の連絡方法だって考えてるさ」 「なるほど、『鳥』か」 『鳥』とは、フィロットだけではなく世界中で使われている伝達魔法の通称である。 手紙や書類などをまとめて、魔法を発動させるためのルーンが書き込まれた羽根ペンで送る相手の名前を書き、空中に放り投げると、一瞬でその相手のいるところへ移動する、というものだ。普通に手紙を送ったりするよりも早いのは確実だし、自分に魔力がなくても扱える。 『ガレアン』たちは、この羽根ペンと緊急連絡用の紙を常備している、と聞く。 「まぁーとにかく! 混乱してた『ガレアン』の方も、大丈夫だと思うんだけど……」 ステントラは言いながら、ぽりぽりと頭をかいた。 「ガイル、お前ちょっと盗賊のところにひとっ走りしてきてさ、『軽く引っかき回して』きてくれよ」 「? ああ、分かった、けど……」 「で、俺はお前のあとを隠れながら追っかける。で、『それ』が終わったら、広場の方に逃げてくれ。俺がおとりになってなんとかカバーする。広場には『ガレアン』がいると思うし……ていうかそう言ってきたから。それと、ティルーナちゃんと少年くんたちは〜」 ステントラは振り返って、じっと待つティルーナたちを見た。 「君らは俺の『保険』になって欲しいんだよね」 「『保険』?」 「そうそう」と言いながら、ステントラは付け足す。 「俺さ、今おとりになるって言ったけど、それが失敗したときか予想外の展開になったときに君らには影から空き缶、盗賊にぶつけてほしいんだよ。その合図も、きっちりするから」 そう言って、ニヤリと笑いながらステントラはポンとローブの上から、腰の辺りを叩いた。 カチャン、と何かがぶつかる音がした。 「じゃ、この土壇場計画が成功することを祈ってから行きましょー」 ……こんな行き当たりばったりなステントラの計画だったのだが、意外にもいい感じの結果になった。今日は皆よほど運がいいのだろう。 「ナル、いけっ!」 ステントラに最初に捕まった少年は不敵に笑って、パチンコで空き缶をとばした。それは上手い具合に飛んで、盗賊の下っ端に命中する。そうやって空き缶をポンポンとばす度、少年たちの間で歓声が上がった。 一方、屋根の上では……。 「ふぅ、助かった」 ステントラはごそごそと信号弾を込めていたオートの銃をふところにしまい、代わりにもう一丁リボルバーを取り出した。先ほど一発撃った方と同じ型である。 ……一体何丁持っているんだか。 「よっと」 ステントラは軽く振り返り、屋根の反対側をのぞき込んだ。 すると、ドタバタしている盗賊たちの人数がなにやら減って……。よくよく見れば、あの肥えたピカピカ親父もいない。 「?」 「バカがぁっ!」 後方斜め下から声が聞こえ、ステントラは「んげ」とつぶやく。空き缶ボンバーから逃れた盗賊たちが、こちらに回り込んできてステントラを銃で狙っていた。 そして今度は、何も言わず撃ち込んでくる。 「んおおおおおおおっっっ!」 ステントラは人間とは思えない反射神経と動体視力で、一気に放たれた十発近い弾丸をすべて避けた。しかし、一発だけ脇腹をかする。ステントラは思わずぞっとした。 (おいおいおい俺も好んで腹に穴開けたいとは思ってねーよ!) しかしこうしていても埒があかないので、盛大に舌打ちしながらリボルバーを構える。だが、向こうは八人でこちらをねらい打ちしてきているので隙がない。 少しでも止まれば、確実にどこか穴を開けられる。 「そうも……言ってられないか!」 ステントラは覚悟を決め、ダダンッと屋根の上に踏ん張った。瞬時に照準を合わせ、リボルバーの引き金に指をかける。 盗賊たちも負けず劣らず、ドンドンドンッと重たげな音を響かせながらリボルバーを撃ちまくっていた。だが、内数人がすでに弾切れを起こす。 そんな中で、銃を撃ち慣れていない盗賊の一人が、反動で後ろに倒れた。 「ぅわっ!」 そうしてずれた弾丸は、元々ずれていた狙いから見事にステントラの脇腹に命中した。 「でぇっ!」 大声で叫びながらも、ステントラは引き金を引く。寸分の狂いなく放たれた弾丸は盗賊たちの持つ短銃に当たり、次々と使い物にならなくさせていった。 やがて左手に持っていたリボルバーの弾丸も使い切ると、ステントラはようやくそこで両手を下げた。 「……いでぇよ〜」 彼の眼下には、手元から銃を吹っ飛ばされ、ゴム弾を眉間に命中させられて気絶している盗賊が七人、そして弾切れを起こしたリボルバーを片手にぼう然と突っ立っているドーセインがいた。 「……ん、なぁ?」 「さ、さすがに人殺しは勘弁だから……あはは〜、もともとこっちのヤツにはゴム弾しか入れてなかったんだよね〜。でも結構硬いヤツだから、気絶くらいはできるかって」 ステントラは二丁目のリボルバーを軽く振って屋根の上に座り込み、血の吹き出る脇腹を押さえながら力なく言った。 弾のなくなったリボルバーをがちゃがちゃと慌てながら動かしているドーセインから視線をずらし、後ろを見てみる。残った盗賊たちは完璧に戦意喪失して、その場に突っ伏していた。泣いている者までいる。恐るべし空き缶ボンバー。 そこへ、木の棒やさびたフライパンなどを持ったティルーナたちがそろーりと現れる。そして、問答無用で頭部を数度殴りつけ、気絶させていった。 ゴンガッバキドゴッ! というかなり嫌な音が響く。 「……ステントラさん!」 その音が落ち着いてきた頃、屋根から身軽に降りてきたステントラの下へティルーナが駆け寄ってきた。 ステントラは血のついた左手をかくし、右手を気楽に振る。 「よ、ティルーナちゃんお手柄……」 しかしティルーナは厳しい顔のまま、ステントラの両脇腹を軽く拳でこづいた。「ヒッ」とステントラが声を上げる。 ため息をつきながら、ティルーナはステントラのマントをはぎ取った。 「血だまりができてますよ。メミィさんがこの場にいたらどうするんですか」 「あ、あははは〜、ティ、ルーナちゃん……加減してよ」 一気に力が抜けて、ステントラはぺたんと地面に座り込む。 ティルーナはいつもの明るい雰囲気からは想像もできないような、苦しげな表情でステントラの顔をのぞき込んだ。 ステントラはニヤリと口だけで笑って、血のついていない右手でくしゃくしゃとティルーナの頭をなでる。 「まぁ大丈夫だって。もっとひどい状態になったことあるしさぁ。ここで年上がくたばるわけには……」 瞬間、目にもとまらぬ速さ(実際ティルーナにも見えないほど)でオートの銃を抜き放ち、ステントラはパンッと一発家の間にある細い通路に向かって撃ち込んだ。 そこを無理矢理通り抜けようと四苦八苦していたドーセインは、目の前に弾丸が飛んできたことでガチリと固まる。 「……いかないし。おーい、頭目さん。動くなよ」 ステントラは気楽な口調で、しかし油断なく逃げようとしたドーセインに狙いを定めた。 |