□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第四章 13.悪あがき (……んにゃろう) 心の中で毒づきながら、ドーセインは待った。 (ヒユも、ギオも、あっさり捕まりやがって) ヒユやギオよりも格好悪い捕まり方をしたくせに、自分のことは完全にたなの上に上げて二人を責める。 (見てろ……絶対、あの小鳥は俺のモンだ!) そうして、なんとか縄を断ち切ろうともぞもぞ体を動かし続ける。 (そろそろ、動き出してやる) ドーセインの指が、湾曲刀のつかにつけられていた小さなスイッチに、触れた。 ドオ ――ンッッ! フィロットの町の中央広場に近いところで一カ所、ドーセインたちの最初の砲撃やステントラのバズーカよりも大きな爆発が起こった。 黒煙がたなびき、すぐ広場にものの焼ける嫌な臭いが漂ってくる。 「リーダー! カッティオさん!」 「今のはなんだ?」 「分かりません。ですが、少なくとも全部で民家が三件くらいは吹っ飛んだと思います。今メンバーを十人ほど送りましたが……」 「あー豪快だなぁ」 「ね、ねぇ、今度は時計台が吹っ飛ぶとか……そういうことはないよねっ!」 「知りませんよ! リーダーしっかりしてください! ていうかレイドさん何のんきなことをー!」 報告に来た『ガレアン』メンバーの若者は、リーダーたちの反応に危機感を覚えた。 (大丈夫なんだよなぁ、もうっ) そして頼みの綱である、この三人の中で一番まとも(にみえる)なカッティオを上目遣いに見た。しかし、カッティオは無表情のまま、しばらく空を見ていたかと思うと、また資料の整理に没頭し始めた。 どーみても現実逃避の姿勢である。 「カッティオさーん!」 彼は泣きついた。 一方、ガイルたちは。 「なんだ、今の!」 「爆発……でもバズーカとかそういうものじゃないな。フツーに爆弾使ったとしか」 「でも、ここにほぼ盗賊は集まって」 キラーン、とステントラの目がゴーグルごしに光る。 ミリルは一瞬訝しみ「あ」をつぶやいた。 「ほぼ、ってことは、全員集まったわけじゃあないのか?」 「……分からないんです。正確な人数も、はっきりしていませんし」 「俺が銃撃戦やらかしたときは、確か……十四人だったか。ガイル、お前の方は?」 「あー、あの体格差あるリーダー格のヤツらと、下っ端合わせて……七人か」 「それだけで二十一……ここに今いるのは?」 「ざっと、三十人強といったところでしょうか」 ミリルが辺りを見回して答える。すると、どこからか銃声が聞こえてきた。 パン! 「きゃああー!」 住民たちの視線が、悲鳴があがった場所に集中する。 女性が一人、真っ青になって左腕をきつく押さえていた。みるみるそこは赤く染まっていく。男が二人、その女性を抱き上げた。 すると。 パン! 「ぎゃっ」 一人が肩を撃ち抜かれて女性をおとしかける。 今度ははっきりと、どこから弾が飛んできたかが分かった。広場と東通りを結ぶアーチの方からである。 そしてちょうどその真下に、盗賊の残党が五人、オートの短銃を構えて住民たちを狙っていた。 「動くなあぁっ!」 盗賊の一人が叫んだ。住民たちの動作がピタリと止まり、盗賊たちは歓喜の叫びを上げた。 ガイルはいつの間にか隣に立っていたステントラに聞く。 「なぁ、あの銃器はなんだ?」 「あー、自動式拳銃……おおまかにゃオートとか言われてるんだが」 そう言って、ステントラはズボンのベルトに挟んでいた、例の信号弾が入っていたオートを取り出した。 「こんなヤツ。まぁ連射向きの銃なんだがねぇ。装弾数もほれ、こっちのリボルバーって呼ばれてるヤツよりずっと多い」 「そんなこと言われたって覚えねーよ。……突っ切って行って、斬れるか?」 「オイオイ無茶するなよ。お前はかわせるかもしれないけど、後ろにいる住民に流れ弾がいくぞ、確実にな。結構距離があるし、近づいて気づかれないなんてことは絶対にない。広場だし。遮へい物なしだし」 そう言われて、ガイルは渋い顔つきになる。 ステントラはちらりと、自分の後ろを見た。気絶しているヒユ、ギオ、そしてドーセイン。いや。 (起きてやがる、アイツ) なんともフリの下手な男である。だが、今下手に動けば盗賊たちに見られるかもしれない。 「……いいか! 仲間たちを全員解放し、小鳥をこちらに渡せ! でなければお前ら全員撃ち殺してやる!」 「ガイル、ちょっと壁になっててくれ。衝撃がお前の方にもいくかもしれないが……」 「ステントラ? 何する気だ」 ステントラはこっそり、手に持った自分のオートを指さした。 ガイルは眉をひそめる。 「お前、前に自分で言ってただろーが。銃は撃つだけでも体に負担がかかるって。今お前腹に穴開いてるんだぞ」 「分かってるって。だいじょぶだいじょぶ、ヘマしないからさ」 そう言うと、ステントラはガイルの後ろにそっと隠れた。盗賊たちは気づかない。そっと銃口をガイルの右手首の辺りから出す。 ここから盗賊たちの立っている場所まではそこそこな距離だが、その中でステントラはさらに盗賊の持つ銃器に狙いを定めようとしていた。 引き金に、指がかけられる。 その瞬間。 ザッ 「うわあはははははははははっっ!」 「は?」「げっ」 ガイルとステントラはそれぞれ別の反応をしながら振り返った。 ドーセインが縄を完全に断ち切り、そこに立っていた。その隣に、少し遅れてヒユも立つ。ヒユの手には薄く小さいナイフが握られていた。 「へん、隠しナイフくらい持っておく用心はしておくさ。盗賊だからなぁ」 「よぉし、よし、いいかぁフィロットのヤツら! よく聞けぇっ!」 ドーセインが声を張り上げる。空気がビリビリと振動した。 「俺様はたった今、念のため隠しておいた部下への合図も兼ねて、この ドーセインは自信満々な様子で、腰に差していた湾曲刀を掲げる。 すでにスイッチが押された一本を投げ捨て、もう一本の方をビシーッと目の前に突き出した。 「さぁ〜、さらに町をぶち壊されたくなかったら、さっき俺の部下が言ったように盗賊全員解放しろ。そして小鳥もよこせぇっ! はーはははははははっ!」 (よ、ようやく悪役らしいこと言えたぜあはーっはははははははっ!) 実際、ドーセインの頭の中はそれしかなかった。 だが、ドーセインの言葉は住民たちへ十分な衝撃を与えた。 「……めんどくさいなぁ」 レイドはぶつぶつ言いながら隣に立つカッティオを見る。 「どーする?」 「どうするもこうするも……メルティナ、お前の『 「『唄』ですか。まぁ気絶くらいなら」 そう言った瞬間に、ガチャッと鈍い音がした。「げっ」とうめきながら、レイドがすかさずメルティナを突き飛ばす。そして、銃声。 ヒユが、ブーツに隠していたオートの銃で撃ったものだった。 「おーい『ガレアン』、面倒なことしようとするなよぉ。変なそぶりしたら、今度こそぶち抜いてやる」 「ちっ」 レイドが舌打ちをする。 それを見て、ヒユは満足そうにニヤリと笑った。 「早くしろおっ!」 ドーセインが怒鳴る。それを見ながら、ステントラはぶつぶつとつぶやいていた。 「……起爆、爆弾……あ、そっか。アレか。でもなぁ……?」 「ステン?」 「……なぁガイル、ちょっとさ、賭けしてみていいか? 俺はお前に指示出すからさ、頼む」 「は?」 まわりの人間にも聞こえない、不審に思われないような声と態度で二人は話す。 「ゴニョゴニョ……ゴニョ」 「…………はぁ…………え、ちょ、待て。それって外れたら……」 「さらに町が吹っ飛ぶかもしれん。だけど、そう簡単にアレは」 「……分かった。外れたらその首かっ飛ばすからな」 ガイルは一度だけ深呼吸し、前方に立つドーセインと銃を油断なく構えるヒユを見た。そして走る。 今度は、本気で。 意外にあっけなく、それは実行された。 「お、あっ?」 「ん?」 ヒユが風を感じ振り返ったときにはすでに、ガイルがドーセインを後ろから羽交い締めにしていた。左腕でドーセインの首を締め付け、右手で湾曲刀をつかむ。 「あのさぁ、さっき爆弾を起爆させたって言ってたよな? 爆心地から離れた、この場所で」 「あ、ぐ……」 「って、てめっ」 ヒユはガイルを撃とうと狙うが、ぐるんとガイルはドーセイン共々一回転し、ドーセインを盾にした。頭までドーセインの後ろに隠れたまま、鋭い声で言う。 「盗賊ども動くなよ! でないと頭目の首へし折ってやる」 「っ」 「ひゅ、うっ」 ドーセインはうめいた。だが、ガイルは無視して続ける。 「湾曲刀につけておいたスイッチで爆発させたってさ、遠距離操作が可能な爆弾ってことなんだよな? 噂じゃあ、世界で一番『キカイ』が発達してるっていう機械都市でも開発途中……それも『失敗作しかできていない』らしいけど。裏でも流れない、流せれないようなもの、無名の盗賊がどうやって手に入れたんだよ。しかも、複数個なんて……。ホント、ワケ分からん」 ガイルはステントラが言っていたことをそのまましゃべり、さらに力を込めてドーセインの手から湾曲刀を奪った。そしておもむろに、つかの部分にあるスイッチに親指をかける。 それを見た『ガレアン』、住民たちはぞっとした。 「ガイルやめろー!」「いやー!」「また爆発が」「ざけんなー!」「裏切る気かてめー!」 だが、ガイルは外野のことなど全く気にせず、ポチッと押してしまう。 「「「「「「ぎゃああああっっっっっ!」」」」」」 広場にいた(雰囲気にのまれた臆病な盗賊数名含む)全員が叫んだ。 だが。 シーン…… 「…………?」 何も、起きない。 「え、えーっと……」 ドーセインの首を絞める腕の力が急に抜けた。ドーセインはげほっげほっと盛大に咳き込みながら、涙目でガイルを見上げた。 「一回威力をどかーんと見せつけて使い切って、その威力を相手に分からせたところで、まだあるぞなんて嘘ついて……早い話が実際、あの一つだけで終わりだったんだろ」 (…………当たっててよかった……ほんと理屈抜きの賭けだったからな) ニヤッと、ガイルは不気味に笑った。 ドーセインは四つんばいの姿勢で下を向き、正面に立つヒユに言った。 「ゴメン、バレた」 「ボスぅぅぅぅ! もうちょっと考えて使ってくださいよおおおぉおお!」 「だって最後のしめは威力強い方がなんか……なんかいいと思ったんだもんんんん!」 涙ボロボロ、鼻水だらだらのドーセインは、胸ぐらをつかんでいたヒユと共に硬直した。小鳥のことを教えたときと同じような、いやそれ以上の、殺気の波が住民全体に広がっていく。 ドーセインはがくがくと震えていたが、何を思ったか急に後ろに立っていたガイルを殴り飛ばし、ヒユからオートを奪い無差別に発砲を始めた。ほとんどは見当違いの方向へ飛んでいったが、何発かは住民にかする。しばらくして弾切れを起こしたが、また新しい弾倉をぶち込んで撃ち始める。 「こんにゃろー! 小鳥手に入れて、最強の盗賊団つくって人生五回やり直しても使い切れないほどの金手に入れて、遊びほうけて、最っ高の人生設計をよくもー!」 が、ガキだ……、とフィロットの住民たちは思った。だが、銃を持ったガキほど危険なものはない。 一般の人間は、叫びながら広場を逃げ出した。 ドーセインはまだ撃ち続ける。 「んにゃろー! 今からでもいい小鳥をよこせー!」 「んのバカったれがー!」 殴られた頬をさすりながら、ガイルは立ち上がった。ドーセインはもはや仲間の盗賊たちのこともどうでもいいようである。例のアーチの下にいる盗賊たちも、壊れたボスをみてぼう然としている。 南通りや西通りの方へ逃げていく住民たちの中で、ステントラは一人東通りの方へ走っていた。人混みを抜けて、盗賊たちと対峙する。 「んじゃーな」 ステントラはオートを構え、一気に五発撃った。弾丸はすべて盗賊の構える短銃にあたり、その手から強引に吹っ飛ばす。我に返った盗賊たちも、そのまま近づいてきたステントラに、銃のグリップで頭部を遠慮なく殴られて失神していった。 そしてステントラは振り返る。 「このヤロこのヤロこのヤロおおおおおお!」 「そんっなに金が欲しいなら……」 ガイルはドーセインの湾曲刀を抜き、走った。峰打ちなど、甘いことは考えない。 ただ、斬る。 「地道に人生かけて働くか!」 銃口が、こちらを向く。 「賭けで一発大穴当ててみろー!」 ガイルは、湾曲刀を振り抜いた。 パ ―ンッ 同時に、銃声が響いた。 |