STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第一巻 白き小鳥の真実 - 第四章 14.戦いのあと……月の下で
ほんの少し、欠け始めた月の下に『彼女』は現れた。建物が崩れていたり、炭化していたり、水浸しになっていたり……、戦場さながらのひどい光景だった。
実際戦場だったが。

「リシェラ」

名を呼ばれ、『彼女』は振り返る。そこに立っていたのは、ステントラだった。

「久しぶりだったな。まぁた母ちゃんそっくりに育ってきて」
「ス、テン……」

リシェラは最後、泣きながらステントラに抱きついた。ステントラはとまどったように、そっとその小さな頭をなでる。

「あ、あー、悪い。えっと、何したか分からんけど、とにかく悪かった。あ、ひょっとして腕の傷か? 痛むのか?」
「違う、そっちは大丈夫。ステントラこそ、お腹、穴開いちゃったんでしょう? 大丈夫なの?」
「あっはっは! 俺頑丈だから。だいじょーぶ。あのプリーストの姉ちゃんに塞いでもらったしな〜」
「……ステントラのとこにも、連れてって、って……街の子に聞いたんだけど……まさか、あの子」
「はいはい、ルーちゃんだよな、うん……それ以上は、言わなくていいから」

いつものニヤッとした笑みではなく、まるで妹を眺める兄のような気分でステントラは笑いかけた。
リシェラは、それを見てさらに顔をくしゃくしゃと歪ませる。

「っごめんなさい……ごめんなさい! あたし、あたしが悪くて……お母さん、最近地上に降りちゃダメって言って……でも、やっぱり来たくなって!」
「うーん、あれからこっちも様変わりしたから、なぁ。たぶんさ、母ちゃんもお前にちゃんと、地上の新しいことを教えてから自由に行き来する許可だそうって考えてたんじゃないのか?」
「う……そう、言ってた」
「なんで待たなかったんだ?」

ステントラの口調はどこまでも優しく、だからこそ、リシェラは一層激しく泣きじゃくった。

「だって! お母さん、ずっと……っいそが、しいって! かまって、くれなく、なってえぇ」
「そりゃぁアイツも結構多忙だしさ、そこらへんはホラ、うーん……」

ステントラもあまり良い言葉が浮かばず、適当に言った。

「……とにかく! 上にもいろんなヤツがいるだろ? 忙しいときは他のヤツと遊んだりして、アイツは仕事の合間にでもちょっとだけ甘えるくらいなら許してくれるって!」
「……う、うん」

最後の方はもはや文になっていなかった気がするが、リシェラが泣き止んだので結果オーライである。ステントラはホッとして、リシェラの頭をポンポンと叩いた。

「俺が言うのも、なんだけどさ。お前はまだもうしばらく、天界にいた方がいい。母ちゃんにしっかりこっちのこと教わってから、また来な」

リシェラはごしごしと自分の服の袖で涙を拭い、上目遣いにステントラを見た。

「……ステントラ、あたしが力を使えば、この町もすぐ……」
「ったーくほれ、そろそろ本当に帰った方がいいぞ。この町なら心配するな。結構みんな根性あるからさ、すぐ直るって」
「……あの、緑の髪のお兄ちゃん、ホントに大丈夫?」

リシェラはステントラに背中を押されながら、恐る恐る聞いてみた。
ステントラはそこでいきなり爆笑する。

「ス、ステントラ?」
「……っくっく、わ、悪い。あ、アイツならも、ピンピンしてるって。マジで。いや、でもあのときはさすがの俺も……冷や汗かいたけど」

ガイルは、眉間に銃口を突きつけられた状態で一気に湾曲刀を振り切ろうとしたのだが、「危なーい!」と叫んで間にティルーナがスライディングしてきたことでそれにつまずき結果弾丸をかわして湾曲刀も吹っ飛ばし、ただの頭突きでとどめをさしたのである。
相当な衝撃がお互いを襲ったらしく、二人はその瞬間に気絶した。
結果的に、双方死なずに済んだのはティルーナのおかげなのだが……。

「絶対ルーちゃん、僧侶より武闘家の素質あると思うんだよなぁ」

ボソリとステントラは、ティルーナが聞いたらぷんすか怒りそうなことを言った。
そして、思い出したように聞く。答えはなんとなく、分かっていたが。

「あ、そういえばリシェラ。お前メミィから逃げたり、絶対近づかなかったって……なんでだ?」

するとリシェラは、何を思いだしたのか一気に真っ青になって一言言った。

「……ひん死のところを、とどめさされかけたの……」

またも爆笑。
リシェラはぶぅと頬をふくらませ、そっぽを向いた。

「ふ、く……やっぱこの町にいると、人生も退屈なんて思えなくなるな」
「ステントラ、あんまり上にも来てくれなくなったよね。それもあったから、あたし……」
「だってよぉ」

ステントラはぶつぶつ言いながらも、笑って答えた。

「今度、俺の方からも適当にヒマつくって遊びに行くって。母ちゃんにもそー言っとけ」
「ホント?」
「本当だ。ったく、俺の周りって疑り深いやつばっか」
「……それじゃ、約束だよ」

リシェラは満面の笑みを浮かべて、地面を蹴った。ふわりと、その体が光に包まれる。やがて光は少しずつ小さくなり、夜空へ溶けるように消えていった。

「…………」

ステントラはそれをしばらく眺め、踵を返し、ガイルの家へ向かう。その途中で、ぽつりとつぶやく。

「運命の精霊まで、来たか。それに」

リシェラの、運命の精霊の力は、『無条件で人の望みを叶えること』。世界中の伝説や、伝奇にも記されていないことを、なぜあんなショボい盗賊が知っていたのか。
さらに、あの盗賊たちは大量の銃器、遠距離操作の爆弾まで出してきた。絶対に、あんなバカなヤツらだけで手に入れられる代物ではない。

「……なんだかなー」

ステントラは、無意識のうちに撃ち抜かれた腹部をさする。
小さく首を横に振り、無言でガイルの家へ入っていった。