STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第一章 3.影七つ……遺跡へ
ヒュー ンッ

「さーてっ、ねぇくるりん、フレリアはまだっ?」
「その呼び方はよせと何度言ったら分かるんだお前はー! 俺の名前はクリオーゼン! 『くるりん』などと言う低俗なものではなーい!」
「あははははっ! いーじゃんくるりんでー! かわいいしさっ」
「……落とすぞ」
「あ、それ勘弁、ゴメンってばクーリー!」

十六、七歳程度のその少女は、真紅の羽毛をもつ巨大なタカに似た鳥類の背に乗っていた。その鳥、クリオーゼンの背には鞍が取り付けられ、その後ろには少女の荷物がくくりつけられている。

「早く遺跡が見たいの! ああ、首都フレリアの地下いっぱいに広がる、世界のトップとよばれるイースティト遺跡……早く見たいー! 行きたいー! キャー!」
「耳元でぎゃーぎゃー騒ぐなぁっ! 振り落とす、今日こそ落としてやるー!」
「うわっきゃー!」

クリオーゼンはスピードを緩めずに一回転、急降下と急上昇をしばらく繰り返した。
そして。

「…………うぉおえぇ……気持ち悪ぅ……」
「ちょっと〜、クーリーが酔ってどーすんのよ」

少女はポンポンとクリオーゼンの首を、励ますように叩きながら言った。

「さーてっ。珍しいお宝もあると、嬉しいんだけどなっ!」

バサッと羽織っていたマントが翻る。その下のジャケットに縫いつけられたシンボルマークは、宝石をくわえ飛翔する鳥のシルエット。

「パレセア……本来、ヴァインドは独自研究を手助けするためのギルドなんだが。 お前、単に観光しやすくするために俺たちを利用してないか」
「へへ、気にしないのー!」

少女、パレセアもまた、遺跡の国の首都フレリアへ向かっていた。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



ヤオタの案内で、価格、サービス共にそこそこな宿をとったガイルとティルーナは、早速荷物を分けてユウシェー遺跡へと向かった。

「ウーゴルン遺跡より断然近いですから、歩きでもいけますけど……馬車、使います?」
「いや、歩けるなら歩く」
「『そーすれば金はふところから出て行かないからなー』」
「……ティルーナ、お前いつ読心術身につけた? もう僧侶じゃねーだろ」
「それじゃ言わせていただきますよ。そこまで金に執着するナイト見たことありません」
「旅人はいつだって切り詰めるもんだよ」
「今は観光客ですよ? 私たち。もうちょっとぱーっと遊んだって」
「『観光』は短い『旅』だろ」
「屁理屈だー」

不毛なやりとりを続けながらも、三人は中心街、住宅街を抜け北門側から町の外へ出た。
トコトコと若干かすれて見えづらい小道を歩きながら、ガイルは隣を歩く、やけに楽しそうなヤオタを訝しんだ。

「……おい、何がそんなに楽しいんだ?」
「え?」

ヤオタは驚いた表情で振り返り、すぐにニコッとかわいらしい笑みを浮かべた。

「いえ、なんだか他の人とこうやって……並んで歩くだけでも、すごく、その、久しぶりで」
「久しぶり?」

思うところのあるガイルは、うすうす勘づきながらも聞き返した。
ティルーナも、ガイルの屁理屈に負けてからとがらせていた口を元に戻す。

「はい。僕、一人っ子で、父さんも病気で死んでから ときどき近所のおばさんとか、おじさんとかが身の回りの手伝いをしてくれたんですけど、もうこれくらいになったら自分で稼がないとって。それからずっと……独りで生きてるような感じがしてたんです。変ですよね。どこかで絶対、支えてくれてる人がいるはずなのに」

ヤオタは苦笑しながら続けた。

「レストランで食材運びしたり、皿洗いしたり、人の庭の植物とか、ペットとかの世話をしたり、ずっと忙しくて、働いたら眠るの繰り返しで……。 あ、そういえばこうやって自分のこと話すのも、すごく久しぶりです」

そうして、うーんと大きく背伸びをしながら晴れ渡った空を眺めた。
……ガイルは、そんな境遇の少年を『羨ましい』と思ってしまった。もちろん父が病死したとか、自分で働くとか、同じ事の繰り返しとか、そういうものがではない。

『独りで生きているような気がしたんです。変ですよね。どこかで絶対、支えてくれてる人がいるはずなのに』

それをしっかりと理解している少年が、ひどく、羨ましい。
自分はそれが分からず、ただぼう然と、人の、時の流れに身を任せていたから。

(……ったく)

いかに過去の自分が『ガキ』だったかを再認識させられた気がして、ガイルは思わず舌打ちをしそうになった。

「……すごいですね〜。自分が独りじゃないってこと、きちんと理解してるなんて」

そんなとき、横からティルーナが……まさに自分の思っていたことを口にした。ガイルは若干、ヤオタはひどく驚いた顔をしてティルーナを見る。

「私もそれっぽい感じのときがありましたけど そのときは、どれだけ大切にされてても全然それに気づかなくって、……とっても大切なことなのに」

いつもの腹黒さはどこへやら、ティルーナは純粋そのものの笑みを浮かべてヤオタの手を握った。

「というわけでっ! ちゃっちゃと遺跡見物に行きましょー!」
「へっは、はいっ?」
(どーいう話の切り替え方だ)

やれやれと内心ため息をつきながら、ガイルはさっさと走っていってしまう二人の背中を見た。

「……って、俺も走るのか」

どんどん遠くなっていくその背中を眺めながら、ようやっと我に返ったガイルも慌てて走り出す。
知らぬ間に、少しだけ困ったような、それでいてとても楽しげな微笑を浮かべて。






「いいか? 今日は……ここだっ」

暗がりで他人に気づかれないようにこっそりと、だがその状況で最大の声を出しながら、彼はそこを指さす。

「へぇ、今日は近いんだね。規模は?」
「小さいけど、最近観光するはずだった遺跡がボツで、こっちに流れてきたりするヤツも多いらしい……って、姐さんが言ってたけど」
「そりゃそーだよね。ここまで来たんだもん。遺跡なんかどこでもいいから見たいよなぁ」
「まっ、いーか? これも失敗はなーし! というわけで……行くぞ!」

勢いよく立ち上がったが、また勢いよく後頭部を低すぎる天井にぶち当てて、そいつは悶絶した。






巨大な影が、遺跡の上を一瞬で通り抜けていく。
怪しげな人影が、監視役の目をすり抜けて遺跡の中へ忍び込んでいく。
そして、ガイルとティルーナとヤオタがたどり着いた。