□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第一章 3.影七つ……遺跡へ ヒュー ンッ 「さーてっ、ねぇくるりん、フレリアはまだっ?」 「その呼び方はよせと何度言ったら分かるんだお前はー! 俺の名前はクリオーゼン! 『くるりん』などと言う低俗なものではなーい!」 「あははははっ! いーじゃんくるりんでー! かわいいしさっ」 「……落とすぞ」 「あ、それ勘弁、ゴメンってばクーリー!」 十六、七歳程度のその少女は、真紅の羽毛をもつ巨大なタカに似た鳥類の背に乗っていた。その鳥、クリオーゼンの背には鞍が取り付けられ、その後ろには少女の荷物がくくりつけられている。 「早く遺跡が見たいの! ああ、首都フレリアの地下いっぱいに広がる、世界のトップとよばれるイースティト遺跡……早く見たいー! 行きたいー! キャー!」 「耳元でぎゃーぎゃー騒ぐなぁっ! 振り落とす、今日こそ落としてやるー!」 「うわっきゃー!」 クリオーゼンはスピードを緩めずに一回転、急降下と急上昇をしばらく繰り返した。 そして。 「…………うぉおえぇ……気持ち悪ぅ……」 「ちょっと〜、クーリーが酔ってどーすんのよ」 少女はポンポンとクリオーゼンの首を、励ますように叩きながら言った。 「さーてっ。珍しいお宝もあると、嬉しいんだけどなっ!」 バサッと羽織っていたマントが翻る。その下のジャケットに縫いつけられたシンボルマークは、宝石をくわえ飛翔する鳥のシルエット。 「パレセア……本来、ヴァインドは独自研究を手助けするためのギルドなんだが。 お前、単に観光しやすくするために俺たちを利用してないか」 「へへ、気にしないのー!」 少女、パレセアもまた、遺跡の国の首都フレリアへ向かっていた。 ヤオタの案内で、価格、サービス共にそこそこな宿をとったガイルとティルーナは、早速荷物を分けてユウシェー遺跡へと向かった。 「ウーゴルン遺跡より断然近いですから、歩きでもいけますけど……馬車、使います?」 「いや、歩けるなら歩く」 「『そーすれば金はふところから出て行かないからなー』」 「……ティルーナ、お前いつ読心術身につけた? もう僧侶じゃねーだろ」 「それじゃ言わせていただきますよ。そこまで金に執着するナイト見たことありません」 「旅人はいつだって切り詰めるもんだよ」 「今は観光客ですよ? 私たち。もうちょっとぱーっと遊んだって」 「『観光』は短い『旅』だろ」 「屁理屈だー」 不毛なやりとりを続けながらも、三人は中心街、住宅街を抜け北門側から町の外へ出た。 トコトコと若干かすれて見えづらい小道を歩きながら、ガイルは隣を歩く、やけに楽しそうなヤオタを訝しんだ。 「……おい、何がそんなに楽しいんだ?」 「え?」 ヤオタは驚いた表情で振り返り、すぐにニコッとかわいらしい笑みを浮かべた。 「いえ、なんだか他の人とこうやって……並んで歩くだけでも、すごく、その、久しぶりで」 「久しぶり?」 思うところのあるガイルは、うすうす勘づきながらも聞き返した。 ティルーナも、ガイルの屁理屈に負けてからとがらせていた口を元に戻す。 「はい。僕、一人っ子で、父さんも病気で死んでから ときどき近所のおばさんとか、おじさんとかが身の回りの手伝いをしてくれたんですけど、もうこれくらいになったら自分で稼がないとって。それからずっと……独りで生きてるような感じがしてたんです。変ですよね。どこかで絶対、支えてくれてる人がいるはずなのに」 ヤオタは苦笑しながら続けた。 「レストランで食材運びしたり、皿洗いしたり、人の庭の植物とか、ペットとかの世話をしたり、ずっと忙しくて、働いたら眠るの繰り返しで……。 あ、そういえばこうやって自分のこと話すのも、すごく久しぶりです」 そうして、うーんと大きく背伸びをしながら晴れ渡った空を眺めた。 ……ガイルは、そんな境遇の少年を『羨ましい』と思ってしまった。もちろん父が病死したとか、自分で働くとか、同じ事の繰り返しとか、そういうものがではない。 『独りで生きているような気がしたんです。変ですよね。どこかで絶対、支えてくれてる人がいるはずなのに』 それをしっかりと理解している少年が、ひどく、羨ましい。 自分はそれが分からず、ただぼう然と、人の、時の流れに身を任せていたから。 (……ったく) いかに過去の自分が『ガキ』だったかを再認識させられた気がして、ガイルは思わず舌打ちをしそうになった。 「……すごいですね〜。自分が独りじゃないってこと、きちんと理解してるなんて」 そんなとき、横からティルーナが……まさに自分の思っていたことを口にした。ガイルは若干、ヤオタはひどく驚いた顔をしてティルーナを見る。 「私もそれっぽい感じのときがありましたけど そのときは、どれだけ大切にされてても全然それに気づかなくって、……とっても大切なことなのに」 いつもの腹黒さはどこへやら、ティルーナは純粋そのものの笑みを浮かべてヤオタの手を握った。 「というわけでっ! ちゃっちゃと遺跡見物に行きましょー!」 「へっは、はいっ?」 (どーいう話の切り替え方だ) やれやれと内心ため息をつきながら、ガイルはさっさと走っていってしまう二人の背中を見た。 「……って、俺も走るのか」 どんどん遠くなっていくその背中を眺めながら、ようやっと我に返ったガイルも慌てて走り出す。 知らぬ間に、少しだけ困ったような、それでいてとても楽しげな微笑を浮かべて。 「いいか? 今日は……ここだっ」 暗がりで他人に気づかれないようにこっそりと、だがその状況で最大の声を出しながら、彼はそこを指さす。 「へぇ、今日は近いんだね。規模は?」 「小さいけど、最近観光するはずだった遺跡がボツで、こっちに流れてきたりするヤツも多いらしい……って、姐さんが言ってたけど」 「そりゃそーだよね。ここまで来たんだもん。遺跡なんかどこでもいいから見たいよなぁ」 「まっ、いーか? これも失敗はなーし! というわけで……行くぞ!」 勢いよく立ち上がったが、また勢いよく後頭部を低すぎる天井にぶち当てて、そいつは悶絶した。 巨大な影が、遺跡の上を一瞬で通り抜けていく。 怪しげな人影が、監視役の目をすり抜けて遺跡の中へ忍び込んでいく。 そして、ガイルとティルーナとヤオタがたどり着いた。 |