□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第三章 7.事情聴取のち首都へ リーゼの朝は早い。太陽が昇り、町を朝日が照らし始めたら、家々の窓は次々と開かれていく。 そんななかで。二つの理由から、夜通しで調べ続けられた一人の青年が『入国管理所』と書かれた建物からのそのそと現れた。 「……くそ、やっと終わった」 ガイルはげっそりしつつ、先にティルーナが帰っているはずのヤオタが紹介してくれた宿へ向かった。 昨日のユウシェー遺跡爆破事件は、なじみの深いリーゼの人々をがく然とさせ、いきどおらせた。そして、異様に逃げ足の速い爆弾犯の『初の目撃者』たるガイルは、ユウシェー遺跡の警備員レーゲルによってとある場所へ連れて行かれた。イースティト国の防衛軍事組織、通称『エリス』、そのリーゼ基地である。 『エリス』は、簡単に言えばヨーゲンバード国でいう『ガレアン』に近い役割を果たしている。とにかくそこでガイルは、ひたすらに犯人の体格、声、人相など同じことを何度も問われ続けた。しまいにはレーゲルの提出した始末書より 『君、国外から不法銃刀持ち込みの疑いだってね』 なーんていわれて、入国パス履歴を調べられたらガイルの名前は確かにあったのだが、あの剣の登録は本当にされていなかったからまた一波乱。 まさか君、爆弾犯の一味じゃあ…… いえいえ違います俺はホントーにただの観光客です じゃあなんでさっさと剣の持ち込み登録しなかったんだよまぎらわしーんだよバカヤロー んだとコノヤロー…… まぁこんな会話が『エリス』基地内でしばらく行われた後、剣の登録をするべく入国管理所へぶち込まれ……いやいや案内され、朝日がキラリと東の空より輝き始めた頃に、ようやくガイルは解放されたのであった。 「この、ステントラめ……武器に関しちゃ厳しいとは聞いてたけど……ここまでとは一言も」 ぶつぶつと己のミスの責任を、遠くにいる不審者男に向ける。……ここらへん、ガイルもかなり自己中である。 まぁそんなこんなで何とか宿にたどり着き、部屋に行ってみると。 「あーお帰りなさいガイルさん、どーでしたか? 初めて『お世話』になったご感想を」 「それはどーいう意味だ。ていうか『お世話』になんかなっちゃいねーよ」 「あ、そうですか〜。思いっきり宿の人たちが『爆弾犯がここに?』って連呼してたので、思わず私疑っちゃってあっはっは」 「……そーかい、世間様は完璧に俺を爆弾犯扱いってことなんだな」 冗談じゃなく泣きたくなってきた。 だが、最後にフレリアのイースティト遺跡を拝むまでは、帰ることなどできない……。 「おい、そろそろ連絡馬車捕まえにいくぞ」 「ええっ、ガイルさん自暴自棄になっちゃいけませんよ〜。そんな強盗みたいな」 「言葉通りに受け取るなっ! 捕まえるったら見つけて乗るって意味だろ!」 宿の一室でドタバタと騒ぐ二人は、それだけで十分人目を引いた。なんとか準備を整えて、二人はさっさと宿を出る。早朝だというのに、町の中心部はそこそこの賑わいを見せていた。 「え、と、馬車乗り場っと……あそこだな」 リーゼと外を繋ぐ一番大きな門、東門の前には、多くの馬車がとまっていた。馬車の前に置いてある看板をそれぞれ眺めながら、ガイルは適当な一台を選ぶ。看板には『リーゼ→フレリア直行 お一人五十イザ』と書かれていた。御者台でぼんやりしていた男に金を払い、さっさと乗り込む。 「へぇ、大きな馬車ですねぇ。もっと小さいの選ぶのかと冷や冷やしてました」 「俺が一睡もしてないからだ。少しは居心地のいい馬車で移動したいからな……ったく」 そう言いながら、ガイルは膝を曲げ、その上に肘を突いてカクンと舟をこぎ始めた。 そこでようやく、ティルーナは彼の右手首に針金のような細い腕輪が絡まっているのを見つける。 「ん? ……ガイルさん、それなんですか?」 「それってなんだ……」 「だから、その細い腕輪ですよ。装飾品はきらいでしたよね」 「ああ、『エリス』の方でも、爆弾犯と疑われて、な。一応レーゲルの口添えで、牢にはぶち込まれなかったワケだが……不法銃刀持ち込み、した、から……」 気力の糸が途切れたのか、ガイルはぼんやりしながらつぶやく。 「確かな証拠、が、無いうちは……これをつけてろと……発信器、に近い、らしい……」 「ふぅん、わかりました。もういいですよ〜、おやすみなさい」 ティルーナはガイルのすぐ隣に移動して、彼の頭をそっとなでた。 「……ガキ、扱い……は」 「はいはい」 やめろ、となんとか言い切ったところで、ガイルは深い眠りに落ちた。すぅすぅと穏やかな寝息をたてるガイルに微笑を向けながら、ティルーナは馬車が出発するのを待った。もう十分ほどして、数人の客が乗り込んでくる。 いつまで待たされるのだろうかと、少しだけティルーナがイライラし始めたとき。 ギ、ギ、ギィイイイイイ…… 大きなきしみの音、開門の音が響き渡った。番兵たちの怒鳴り声が飛び交い、馬車が一台一台門をくぐっていく。 そして、二人を乗せた馬車も門をくぐり、リーゼを出発した。 |