STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第三章 8.ヴァインド
「っふぁぁああ〜! 着いた着いた着いたよー!」
「やかましいわぁっ!」
「うひゃっ」

久しぶりにしっかりと大地を踏みしめることができて、パレセアははしゃぎにはしゃぎまわった。
彼女がいるのはイースティト国首都、フレリア。国名の由来ともなった、イースティト地下遺跡の眠る町である。
そして、世界では俗に『財宝探し』とも呼ばれているヴァインドメンバー、パレセアの目的は……。

「はぁあっ! ようやく念願のイースティト遺跡を観光できるのねっ! もう感無量っ! ……で、いいんだよね? コレ使い方間違ってる?」
「町中で、大声で叫べば誰だって注目を集めるわ」

大きくため息と着きながら、パレセアの隣をどしどし歩くクリオーゼンは言った。

「あまり派手な行動はするな。イースティトはあまり、ヴァインドに対して良い感情を持たないと聞く」
「ああ、それってヴァインドを騙ったどこぞのバカが、見学と言って管理局の保護してた財宝根こそぎ奪った話からでしょ? でもあれ、三十年も前じゃない……確か」
「ふ、ふ、何年前だかは知らんが、人間の執念深さは他の種族の比にならんからな」

クリオーゼンは若干顔を伏せ、目を細める。
オープ族は、その美しい羽根が人間の間で高額取引されている種族であった。まだあまり多種族に関して知識が足りなかったこともあり、人間たちがこぞってオープ族を狩っていた時代もある。一気に絶滅寸前まで追い込まれたオープ族は、一部の人間たちが築いたギルドに保護されることで、なんとか種を残すことができた。
そのギルドが『ヴァインド・イザルカ』である。
もともとは三百年ほど前に、多種族との交流、そしてその生態の研究を目的に発足したギルドだったが、だんだんとその研究内容が生態から自然、文化にまで広がっていったものだ。今では世界各国の古代文明の研究を主体とする、巨大な組織である。

「でも、本当にヴァインドって気楽よね。簡単なルールをきっちり守れば、誰でもメンバーになれるんだから」
「だからこそ、思想も目的もバラバラだがな」
「そうそう! ときどきホントーに自分勝手なヴァインドに会うとやんなっちゃう。こんなやつギルドから外せばいいのにって」

腕組みをしながらパレセアは言う。
クリオーゼンの言うとおり、ヴァインド十人にそれぞれメンバーになった目的を聞けば、十通りの答えが返ってくるだろう。
ちなみにパレセアは『無償で世界中を旅することができる!』というなんともあやふやなキャッチコピーを握りしめてギルド支部へ飛び込んできた、というかなりどーでもいい経緯である。
と、そうやってぶつぶつ歩いている間に、二人はイースティト地下遺跡管理局へたどり着いた。正面からロビーへ入ると、フロントに突っ立っていた男がハッとして駆け寄ってきた。パレセアは堂々とジャケットに縫いつけられたギルド・シンボルを男に見せながら告げる。

「『ヴァインド・イザルカ』のメンバー、パレセアです。イースティト遺跡の見学に来たのですが」
「ヴァ、ヴァインドですか……はい。少々こちらでお待ちを」

ぴく、と口元を引きつらせて、管理人らしい男はパレセアに適当なソファを勧めると、飛ぶように奥へ引っ込んでいってしまった。その反応を見て、パレセアは唇をとがらせる。

「なによ……せっかく丁寧に言ったのに、化け物みたいな目で見て」
「ふん、まったくだ」
「あ、そーだくるりん」
「どわぁかぁら誰がくるりんだーっっ!」

クリオーゼンは管理人に向けていた侮蔑のまなざしを、烈火の如き怒りで満たしパレセアをにらみつける。しかしパレセアはいたって普通の表情で、柔らかすぎるソファに体を埋めていた。

「ねぇ、ここ見たら、次はどこに行こっかぁ?」
「…………」

クリオーゼンは沈黙する。シュルシュルと、怒りはどこかへ消えていってしまった。
パレセアの声は、まったくもって普通である。平淡で、……平淡すぎて、逆に寂しさがにじみ出てくる。
二ヶ月ほど前、クレンディア大陸でヒマを持てあましていたパレセアはラジオでちらりと耳にしたイースティト遺跡爆破事件に興味を示し、犯人が捕まるどころか目撃情報もないというのにクリオーゼンに行ってみたいと駄々をこねた。
その目は、新しいおもちゃを見つけた幼子のようで。
渋っていたクリオーゼンも最終的にはうなずいてしまって。
そして、イースティトへやってきたパレセアは、この遺跡を見終わってしまえばまたヒマができる。

「……なんか、行きたくないなぁ」
「…………」

行けば、その先が無いのを知っているから。
また、新しい道を見つけるのは難しいから。

「ふん、ずいぶん自己中心的な考えだな」

しかし、分かっていながらクリオーゼンはわざと突き放すように言った。

「お前が来たいと言ったんだ。しっかり目に焼きつけていけ……今のことを考えていればいい」

それっきり、クリオーゼンはそっぽを向いたまま黙り込んでしまった。
しばらく、まさに『無』の時間が流れてゆく。
……不意に、終わったが。
バスッ!

「おごっ!?」

クリオーゼンは急に背後からかかった重みに対処できず、べしゃ、と地面に伏せてしまった。

「よぉーし、それじゃーくるりんも怒ったことだし、ちゃっちゃといくわよ〜!」
「なっ、怒ったことだしとはどーいう意味だ!? まさかそれを狙っていたのかこの小娘ー!」
「あはーっはっはっははははは!」

己の背で大爆笑するパレセアを見て、クリオーゼンはぶつぶつとくちばしの中で悪態をつきながら起き上がった。
オープ族は移動手段、という認識ぐらいしかヴァインドにはない。十年間、そんな彼らを背に乗せて、クリオーゼンはただ淡々と空を飛ぶだけだった。
しかし一年前、彼女に指名されて。言われたとおりの場所に着いて、さっさと休もうとギルド支部の奥へ行こうとしたら目の前でボロボロ泣き出されて。仕方なく付き添ってやったら、先輩たち(オープ族)に『チーム』になるといいとまで言われて。
あの瞬間が、最高だったのか、最悪だったのか。

(まったく、そのせいでさんざんな目に……)

ガタガタとやけにうるさい足音を響かせながら、管理人の男が駆け寄ってくる。豪快に笑っているパレセアにかなり引きつつも、案内の準備ができたと言って、彼女が落ち着くのを待つ。

「ん、ありがとうございますっ。じゃ、行こうくるりんっ」
「それで呼ぶなぁああー!」

一人と一羽は歩いてゆく。遺跡は、目の前に。
遺跡に近づくその一歩が、彼女たちを『騒動』にも近づけていった……。