□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第三章 10.遺跡の町フレリア ガイルとティルーナを乗せた馬車は、老人が降りてからそうかからずにフレリアへたどり着いた。 リーゼとは違って、町中にキカイが一切見られない。建物の形も、リーゼは木の柱とレンガを組み合わせたフィロットと同じ形式だったのに対して、フレリアではまるで箱のように四角い家がずらりと並んでいる。しかも、レンガではなく土や石、木をそのまま使っている。 「へぇ……この町自体が世界最大の遺跡として保護されているのか」 「わ、なんか古めかしい雰囲気ばっちりです〜!」 馬車から降りて、周りの景色を見た途端に元気になったティルーナを苦笑しながら手元のパンフレットと交互に眺めるガイル。 未舗装の土がむき出しで、風が吹くたびに砂の舞う大通りになんのためらいもなく飛び込むティルーナは、ふとガイルに聞いた。 「あのガイルさん? そういえば、どーして首都のフレリアじゃなくてお隣のリーゼに、飛行場があるんですか? どうせだったらここと航路を繋いだ方が早いのに」 その質問に、ガイルは面倒くさそうに答えた。 「ああ……遺跡があるから、だな」 「え、遺跡があるとダメですか? でも、リーゼもすぐ近くにユウシェー遺跡、ありましたよね」 何気なく言ったその遺跡の名前に、ティルーナは思わず眉をひそめてしまう。 だがガイルは特に気にせず、続けた。 「フレリアは町全体が遺跡とされている。そして、遺跡は地上のみならず」 言いながら、ガイルは地面をとんとんと蹴る。 「地下にも広がっている。ま、ガイドには、地下遺跡はフレリア自体の面積の約二倍の大きさをもつとあったが……つまり、地面の下は穴だらけってことだ」 「はぁ……あ、そっか。飛行艇の離着陸の時とかの重さに、土地自体が耐えられないんですね」 「そう。それに町の外は、砂漠とまではいかずとも砂が多い。リーゼくらいまで行くと、だいぶ安定した地盤があるし、首都からも一番近い町だからな」 ひとしきり説明が終わって、すっかり人混みに紛れた二人はイースティト遺跡管理局を捜し始めた。十字路に立っていた兵士から場所を聞き出し、二人は二十分ほどで管理局に着くことができた。 「ふぅん……管理局のなかに、遺跡があるのか」 管理局の建物は、機械都市から輸入されたというコンクリートと鉄筋でかなり頑丈に造られておりそれがまるで城壁のようにぐるりと遺跡の周囲を囲んでいた。二人は無駄に横に大きい正門から中に入り、ロビーのフロントに向かった。 「すみません、観光見学なんですが」 「あ、はぁい。えっと、お名前と出身……あ、国外からの旅行者でしたら、入国パスもお見せ下さぁい」 「ガイル、こっちがティルーナ=エィラ……出身はヨーゲンバードのフィロット。これが入国パスだ」 はいはぁい、とかやけにのんびりした声で、フロントに立っていた女性は細長い紙に二人の情報を書き込んでいく。 「それとぉ、申し訳ないのですが最近の爆破事件により、一応顔写真も撮っておくように言われているんですよぉ。よろしいですか?」 写真と聞いて、ガイルは一瞬顔をしかめたが、仕方ないとつぶやき了承した。パシャッパシャッとそれぞれ一枚ずつ顔写真を撮られ、ロビーの奥にある扉を示される。 「あちらからイースティト遺跡へ行けますのでぇ。あ、ちなみに地上は一部、地下は全面的に封鎖されておりますので……すみませぇん」 「あ、地下、見れないのか」 まぁ当然だな、と口の中でつぶやき、二人は女性に一礼して扉へ向かった。その奥につながっていた、薄暗い廊下のつきあたりの扉をあけると、埃っぽい空気が顔面を直撃した。 扉の向こうには、砂埃の舞うなかにユウシェー遺跡とひどく似ている雰囲気で、世界最大級の遺跡が存在していた。 「っごほ。うわ……」 「ガイルさん、大丈夫ですか?」 じんわりと涙をにじませながら、ガイルはああ別に、と答える。フロントでもらった遺跡内の地図を見ると、出発地点は本当に遺跡の端っこだった。 「封鎖されてる部分は迂回するとして、どうする? 見れるところは本当に限られてるが」 「うーん、それじゃあ手っ取り早く『大神殿』にでも行きましょうか」 二人は地図を見つつ、ジグザグに進んでいった。 「にしても、暑いな」 「ですね。なんか、リーゼよりも太陽がさんさんと……」 ティルーナはむむぅ、とうなりながら空を睨む。そのとき、右の曲がり角から人影が飛び出してきた。 ドッ 「うひゃっ」 「あ、ああごめ、ごめんなさいっ」 いきなり現れたその人物は、すかさずティルーナの背中に手を回し、後ろに転びかけた彼女を抱きとめる。 「はぁ、びっくりしました」 「ごっごめんね? どこかぶつけてない?」 ティルーナは目の前の人物の声を聞いて、とりあえず全身を確認する。特にケガはない。 「大丈夫です、すみません〜」 「いい、いえ、僕の方が」 悪かったです……と消え入りそうな声で言って、青年はティルーナを立たせた。 「ああ、すまない」 少しだけティルーナより先を歩いていたガイルが引き返してくる。 「ガイルさん、それはどっちに対してのすまない、ですか?」 「そっちの人に対してだ。お前、またよそ見してたんだろ」 「うぅ……」 「い、いいえ、僕の方もちょっと急いでて……っ」 そのとき、ガイルは青年と目があった。 短く刈り込んだ赤銅色の髪に、濃いグレーの瞳をしたたれ目の青年は、ガイルを見た瞬間飛び上がらんばかりに驚いた。 「っひ」 「?」 ガイルは首をかしげ、眉をひそめる。 (あ、ああああああああここここで会っちゃったよおおおおおおおお) しかし、なんとか少しだけ冷静になって考えてみれば、あのとき自分はマントで全身を覆っていた。声だってこもって聞き取りづらかったはずだし……バレてない、バレてなんかいないと必死に言い聞かせる。 けれど、 「でっでわささささよーならっっ!」 「あ、ちょっとアンタ……」 微妙に裏返り気味の声で一方的に別れを告げると、青年は脱兎の如くその場を逃げ出した。 あ然として、彼を見送る四つの目。 「……なんだ、アレ」 「ものすっごく慌ててたというか、怯えてませんでした? ガイルさんそこまできつく睨まなくても」 「目つき悪いのがどーした今更そんなこと言われたってどうってことない」 その割に少々傷ついたような目をして、ガイルはとぼとぼと大神殿へ足を向けた。 瞬間。 ド……ゴオオオオオッッ! 「「っっ!」」 思わず立ちすくむ。 こんなところで。 「おい、マジかよ」 何とか一言、絞り出すように言って我に返る。ガイルとティルーナは、爆発のあった場所……今まさに向かおうとしていた大神殿へ駆けだした。 「っ!?」 「今の、爆発は……まさかっ」 その頃、ガイルたちとは正反対の方向にある壁画を眺めていたパレセアとクリオーゼンは、いきなり聞こえた爆音に耳を疑う。 「そんな……だって、ここ簡単に爆弾持って忍び込めるようなところじゃ」 パレセアの言うとおり、遺跡管理局は爆破事件が起こってから、まずイースティト遺跡の警備を強化させた。フロントでの手続きは本当に簡単なもので、実際強化されたのはあの……薄暗い廊下だった。 銃器や爆弾といったものを持った人間が歩けば、すぐ管理局中にアラームが鳴る仕組みになっているのだ。ちなみに、銃器や爆弾は金属で判断するのではなく魔法的なもので設定されているという(なのでガイルの剣はひっかからなかった)。おまけに管理局を乗り越えて遺跡に侵入しようものなら、それこそあっという間に魔法結界に阻まれておだぶつである。 しかし、クリオーゼンはぽつりとつぶやく。 「正面突破と、強行突破、上空からの侵入がダメなら……ひょっとして、地下か?」 「……え?」 「この町には、この町以上に巨大な広さを誇る地下遺跡があると言っていたな。もしも、その地下遺跡が町の郊外まであったとして……何らかの方法で、その地下遺跡に侵入することはできないだろうか」 「でっでもそんなの、爆弾使ったって分かるよ! だってフレリアの地下遺跡は、一番浅いところでも、地上から百メートルは離れているって!」 「ふん、とにかくここで仮説ばかりたてて騒いでいても意味がないな。パレセア、行くぞ」 「う、うんっ!」 パレセアはクリオーゼンの背に乗り、鞍についていた取っ手を握る。クリオーゼンの太く、力強い足が地面を蹴った。ふわりと浮き上がり、勢いよく翼を羽ばたかせる。土埃が舞う。 「さて、結界に触れないようにというのが限りなく不満だが、仕方ない」 「……大神殿、の方だね。まだ見てなかったのに」 「…………」 パレセアのつぶやきを聞いて、クリオーゼンの目が細くなる。もう一度大きく羽ばたいて、彼は黒煙の立ち上る大神殿へ飛んでいった。 |