□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第三章 12.遺跡の崩壊 ゴゴゴゴゴ……ッ フレリアの住民たちは、わけも分からぬままただ叫んでいた。 最初に遺跡で起きた大爆発、住民はもちろん警備員たちまであ然と、空へ立ち上る煙を眺めていた。そして、それに続くように起きた四つの爆発。遺跡だけではなく、町の大通りや住宅街を直撃したそれのせいで、多大な被害が及んだ。 逃げまどう人々に、さらなる追い打ちがかかる。 ゴゴゴゴゴ……ッ やまない地鳴り、そして焦れったいほどゆっくりと大きくなる振動。 最初に気づいたのは、誰だったか。 遺跡が崩れだしたと。 フレリアは、到着当初にガイルが解説していたように、地中に広く深く遺跡が広がっておりそのせいで地盤がすかすかの状態になっている。そこに一気に衝撃が加わって……フレリアは、地の底に沈もうとしていた。 「っこんの……」 町の外へとひたすらに走る住民たちに何度もぶつかりながら、ガイルはまずティルーナを探し始めた。彼女は周りがパニックを起こしていても、未だ激しく大地が揺れ動いていても何食わぬ顔でガイルとの待ち合わせ場所に突っ立っていた。 「なんですかコレは。いきなりグラグラグラ〜!って」 「あの爆弾犯、変なトコぶち壊したらしいな」 盛大にため息をつきながら、ガイルは一瞬目をつむる。ティルーナは久々に、彼の途方に暮れる姿を見てふと聞く。 「ガイルさん、ジャケットどうしました? なんか一部シャツも切れてますけど」 「あ〜……まぁ、イロイロあってな」 歯切れが悪そうにガイルは答える。 こんな大混乱の中、爆弾犯を見つけることは不可能だった。人に聞こうにも、誰も他人の話を聞けるほど落ち着いているとは思えない。最悪だった。 「……はぁ。とりあえずティルーナ、お前どうする? 先に町の外、逃げるか」 「面倒くさいんでついていきます」 ティルーナはあっさり答えた。 普通ならこんな少女を……と誰もが思うだろうが、ガイルは特に何とも思わず了承した。二人は人があまりいない裏路地を駆け抜ける。ガイルはその間に犯人の人相……遺跡でティルーナにぶつかったあの男のことを話した。 「へぇ、あの人爆弾犯の片割れだったんですか」 「らしい。けど、俺があったのは全然人格違ったな。目もつり上がってたし」 「あの人は垂れてましたねぇ。言動は気弱そのもの」 「二人そろって強いわけでもない、けど」 ぎり、と奥歯をかみしめる。 「ムカッつくほど逃げ足はえぇっ」 「下手に強かったり弱かったりするよりも、タチ悪いですねぇ」 二人が向かっていたのは、市街の爆心地。 別行動していた双子だが、どうやらお互いにはぐれてしまっただけのようだった。本当に相手の居場所がわからないとき……まして、ガイルと戦った方は重傷である。鉢合わせしそうなのは、遺跡から一番近い爆発地点。 裏路地を飛び出す。 町は、ユウシェー遺跡のときよりも激しく破壊されていた。家々はただの土となり灰となり、柱の木々は赤々とした炎を燃え上がらせている。黒ずんだ地面をゆっくりと、気配を隠しながら歩く。ティルーナもそれをまねて、必死に呼吸を殺しながらガイルの後ろについた。 黒ずみがさらに濃くなり、爆発で吹き飛ばされえぐれた地面の真ん中に。 彼らはいた。 「にい、さん……?」 「トッツ、やっぱここならいるって思ったんだよ」 キッツはガイルに刺し貫かれ、自分で無理矢理剣を引き抜いた腕の傷を押さえながら、必死に笑顔をつくった。 兄とはぐれ、それでもお互い打ち合わせた時間に爆弾を起爆させたトッツは、かたかたと震えながらクレーターの中心で待っていた。爆弾を仕掛けていたそこは、かまどから出したばかりの鉄板のように熱く思わず失神しかけてしまったが、今は熱もひき、慣れた。 キッツは来る。根拠も何もなくそう思っていた。 そして。 「兄さんそのケガ! い、今包帯っ」 「いーんだよバーロー。てかさっさとずらかるぞっ」 「え? え?」 「姐さんがもういいって。どーやら捨て駒だったらしいな、俺ら」 「す、捨て駒……」 キッツの言葉を聞いて、トッツは青くなる。だが、そんなトッツを見てキッツは明るく笑った。 「バカヤロ姐さん見逃してくれんだぜ!? いやー、マジで『あ、もう俺らあの世逝き?』とか思っちまったけど、なんかめんどくさくなったみたいで」 「そ、それはそれで超小物……てか、僕ら駄キャラ?」 「いーだろーが駄キャラでもなんでも。とにかく、俺らが受けた任務はしゅーりょー。あとはさっさと」 「さっさと捕まるだけだ」 ビリッと空気が震える。二人が弾かれるように振り向くと、そこにはやはり……。 若草色の、輝き。 「駄キャラかなんかしらねーが、それ以前にお前ら『敵キャラ』ポジションだろーが」 器用にも眉毛をピクピク動かしながら、ガイルは言う。 「こっこまでボッコボコにしておいて、あとはさっさとずらかれだぁ? ざけんじゃねーぞオラ 」 不機嫌絶頂怒り心頭怒髪天をつく勢いのガイルさん、ただいま口の悪さ五割り増し。というか、今にもリアルにその美しい髪の間から鋭い二本の角が見えそうで、マジ怖い。 「あのー、ガイルさんー? もしもーし、……勢いにのって殺しちゃ駄目ですよ?」 「ああ、そこまではしねーよ。せいぜい三分の四殺しだな」 「ちょっと待って!? 三分の四って確実に死ぬよね? ていうか殺す気でしょ!?」 「……あー、姐さん以外にも怖い人いた」 キッツは乾いた笑いを響かせながら、うつむいた。 だが、これ以上なく激しいツッコミと悲嘆に暮れる声も、今のガイルには一切通用しない。 「どーでもいいが、」 言いつつ、消える。 「さっさと、」 二人は近づく殺気に、身をすくませる。 「観念しやがれやぁあ!」 「「遠慮しますっっっ!」」 同時に叫びながら、トッツはキッツから伸びてきた右手を見もせずにつかみ、引いた。地面を蹴ったキッツの体があった場所に、ガイルの剣が振り下ろされる。 「ちぃっ」 「ちょ待ってー! 何コレ? 何なんかあっちの方が悪役のツラしてんぞー!?」 「うわああああああん怖いいいいいいいっっ!」 「黙れクソガキャああああ!」 速く、重い一撃。キレても冴えを失わせないガイルの剣戟を、キッツとトッツはお互いに助け合いながらヒラリヒラリとかわしていった。 「だあああああもちょこまかちょこまか……ん?」 人間やはり怒るのにも集中力がいるらしく、疲れを感じ始めたガイルの頭は急速に冷えていった。 勢いよく剣を向ければ、引き合ったり突き飛ばしあったりして上手く範囲から逃れていく双子。鋭い突きは、先に気づいた方が強引な解決策をとる。真正面から攻めても、すべて勘づかれる。 くるくる、ゴロゴロ、視界の端へよっていく双子。決して立ち向かってくるわけでもなく、かといって完全に背を向ける訳でもない。 「ちっ、あのミラーボール……ドーセイン、とかいうのに動きが」 似ている。 一ヶ月前、神族の小鳥を巡ってフィロットを襲撃してきた盗賊団のボス。まるまるとした体格のくせに、なかなかすばしこくガイルでもその剣に捕らえることができなかった。 一瞬ガイルが以前の事件を思い起こしていた間に、耳ざとく彼のつぶやきを聞いた二人は言った。心底、驚いた顔をして。 「「え、なんで親父(父さん)、知ってんの?」」 「親子なんかいぃい!」 「うーわー」 はたから戦いの様子を眺めていたティルーナも、聞こえてきた新事実に思わず頬を引きつらせた。 盗賊団のボス、ドーセインの息子たち。思わず、完璧にその姿、その所行を思い出してしまったガイルとティルーナはがっくりと脱力する。 だが、今が逃げる大チャンスだというのに、双子は嬉しそうに跳ね飛んだ。 「すごいよ兄さん! 父さんのこと知ってる人がいるなんて、それぐらい父さんは有名ってことだねっ」 「はっ、当たり前だろトッツ。親父は全世界にその名を轟かせたこともある超超有名大盗賊団 ゴールディンシールバーストリックミュージカルサマー団の首領なんだからなああああははははははっっ!」 そんな盗賊団いねぇよ、と心の中で、あくまで心の中だけでつっこむ。もう、なんだかこいつらと関わり合うのが嫌になってきた。 体のそこからわき上がるような憤怒も、あっという間に『呆れ』と『失望』に変換されていってしまう。 (まずいまずいぞ俺いや俺が不味いわけじゃねぇけどこいつらといること自体なんか……いや絶対まずい!) しかし力の抜けきった体は、なかなか言うとおりに動いてくれない。離れたところで、なんとか我に返ったティルーナが気の毒そうにこちらを眺めてくるのがわかる。 バサッ 不意に、大きな鳥の羽ばたきが聞こえてきた。ティルーナも、空を見上げてぽかんと口を開ける。双子たちも、同様に。ただ一人、ガイルだけはその正体に気づいていたが。 「まったく、やっと見つけたわよ爆弾犯んんん」 かなり暗い雰囲気を漂わせながら、双子を睨む一対の深緑の瞳。 ヴァインド・パレセア再登場であった。 |