□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第四章 14.双子、懐かれる カチン、カチッ…… 「兄さん、今度こそまけたよね? あいつら、ここまではさすがに」 「そうだな、全部終わった的に言ったから……探すとしたら、城壁の方だろ」 「うーん、ここまでやっておいて、最後の一個が残ってたなんてね」 「けど、これセットしたらずらかればいいんだよ。楽ちん楽ちん」 瓦礫の積み重なる広場だった場所の中央で、双子は鞄の中に忘れていた爆弾の設置作業をしていた。 もうあの怖すぎる剣士や、新しく出てきた銀髪鳥少女から逃げようという内容で彼らの脳みそはいっぱいいっぱい、この爆弾が爆発したあとこの町がどうなるかまで頭が回っていない。 「ね、ねぇ、早く早く!」 「急かすな! え、と……これは〜」 キッツは額から流れる汗を拭おうともせず、身じろぐことで左腕を貫く痛みにも歯を食いしばり耐えながら、最後の爆弾のコードを入力しようとした。 ざり 「「!!」」 背後から聞こえてきた、砂利を踏む音に二人の背筋が凍る。しかし。 「ぅうん?」 恐る恐る振り返った先に見たものは、黒いフワフワした毛並みの小型犬だった。小さな瞳をきらきらさせて、パタパタとしっぽを振っている。 「わぁ、かわいー」 「おいトッツ」 キッツが咎めるように言うが、彼自身も犬に興味を持ってしまっていた。 トッツは犬と向き合ってちょいちょいと手を揺らす。犬は嬉しそうに鳴きながら、トッツの膝の上にまで駆けてきた。そのまま犬を抱き上げ、顔をうずめる。 「兄ちゃん、こいつすっごいやわらかい〜」 「……ちぇっ」 唇をとがらせ、キッツはトッツを一瞥するとまた爆弾の設置に戻った。最後のコードを入力し、一息つく。時限タイマーの設定は、およそ十分後。 「トッツ、そろそろ行くぞ〜」 「あ、うん。じゃあね」 そう言って、トッツは犬を降ろし立ち上がろうとして……止まった。 「どーした?」 キッツがやや苛立ちながら問いかけると、トッツはまた地面にしゃがみ込み、犬を抱き上げてしまった。 「お前な、連れて行こうとかガキみたいなこと言うんじゃねーぞ。ったく、なんでこんな」 「兄ちゃん」 「兄さん、兄貴だろ」 「う……兄さん、こいつ」 トッツがそっと差し出してきた犬、キッツは首をかしげた後、それを見つけた。 左前足の内側にある、大きな切り傷。周りの毛にはべったりと乾きかけの血がこびりついていて……まるで自分の傷のようだ。 ぼう然としているキッツに、トッツは悲しげな表情のままポツリといった。 「僕らの、せいだよね」 「…………」 そう言われて、目を見開いたキッツはゆっくりと周りを見る。崩れた家々、倒れた街灯、押しつぶされた馬車、燃えている木々。そして目の前にいる犬の怪我も、みんな。 二人はぎゅっと、奥歯をかみしめる。 「バカ、だよ……僕ら。父さんの手伝いになればって、こんなの」 今更気づくなんて。 自分たちは一体、どれだけの人を巻き込んだのだろう。道具を持たされ、目的地に向かってがむしゃらに突っ走って……ふと足が止まり、周りが見えた。 自分たちの持っていた道具は、周りの人々をどうしていった? 「僕たち、こんなことやっちゃ」 「けど、やらなきゃ、俺らもっ親父も殺されてたっ!!」 認めたくない、認めれば、逃げられない、足が動かない。 コロサレル。 「……あの人は、絶対にやる。俺たちがどこへいようと、絶対」 生きなければ。生きていたいから。 一体、自分はどれほどエゴなのか。 「くぅん」 そのとき、犬が寂しげに鳴いて、抱えるトッツの指をペロリとなめた。「ひゃっ」と驚くトッツの手からするりと抜けだし、うまく左足をかばいながら着地すると、犬はキッツの足下をくるくると回り始めた。 「わんっ」 「……なんだよ、お前。俺らのせいで、怪我したんだろ」 「ぅわんっ」 しゃがみ込み、恐る恐る犬ののど元を撫でてやる。犬は気持ちよさげに目を細めたが、突然ぴん、としっぽをたてて走り去っていった。 「…………」 「ねぇ、兄さん」 「なんだよ」 「やっぱり、その爆弾逃げた後どっか人のいないところで処理しようよ。もう一回解体してさ」 「……そうだな、よーしあと残り、は」 キッツはまた爆弾と向き直り、タイマーを見た。残り時間は三分とない。 「コードは残しておかないといけないから、なぁトッツ、こっち一本抜いてくれ」 「あ、うん」 そういってトッツがキッツのそばでしゃがみ込んだとき。 「……どこにいやがるバカ兄弟ー!!」 「「!!!!!」」 今度こそ、確実に心臓が止まったと思った。そして脳もフリーズする。 「に、兄ちゃんヤバイヤバイヤバイヤバイッッッッ!!」 「バカでかい声だすなってばまずそこのぉっ」 「コードだよねうんはいっっ!!」 「だーっそこ違うこっちの裏ぁっ」 「あ、え、えええええっ!?」 完全に手順が狂った。さっきまで目の前にあったはずの切るべきコードは、他のコードに埋もれて見えなくなってしまっている。 どこだどこだ、探せ、これじゃない、バカそれ起爆コードだっ、えええ…… 焦りと恐怖にて脳みそ泥沼状態に陥った二人の前で、無情にも爆弾のタイマーは残り一分をきる。そして、あの怒鳴り声もだんだん近づいてきて。 「やべぇ間に合わない」 「兄ちゃんこっちに」 「ここにいたのか爆弾犯っ!!」 解体を諦め爆弾から飛びすさる双子に、剣と鞘を両手に構え迫るガイル。 両者の距離が一気に縮まった、その瞬間。 ―――――――――ッッッ!! 真っ白な閃光、轟音、灼熱。それらを全身に受けて、三人は浮遊感のなか意識を失った。 |