STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第二巻 古き遺跡の都 - 第四章 15.暗がりへ
「っこ、れ……」
「先ほどのより、爆発自体は小さかった、が……」

パレセアは救助した(と思っている)ティルーナと共にガイルと爆弾犯の双子を空から捜していた。そこへ突然聞こえてきた爆発音。急いでそこへ向かったものの……。
あったのは、穴。
これだけ強い日差しに照らされているというのにぽっかりと、底なしの闇がそこからのぞいていた。
イースティト地下遺跡。

「あの、爆弾魔、遺跡をぶち抜いたっていうの……?」

目の前の光景が信じられないとでもいうように、パレセアは頭を手で押さえた。

「だろう、な……目的は、遺跡から郊外への脱出か。まったく面倒な」

本当は単に、余った爆弾の処理だったのだが。

「なんにせよ、あの中は危険だな」
「そうね……どうしよう」
「えーなんでさっさと飛び込まないんですかー」

はい? と言いつつパレセアが振り返ると

「あなた何その格好ー!?」

太陽光を遮る頑丈なゴーグル、軽くて硬い特殊素材のヘルメット、膝当て肩当て手袋に、背中には大きめのリュックが。

「私、もともとイースティト遺跡見に来たんですよね〜。ちょうどいいです」
「いやいやいや待って? ちょっと待ってよまずそれどっからだしたの? それにあなたどれだけスリリングな観光したいのよ!?」
「まさか、……飛ぶ気か」
「オーイエ〜ス」

そう言いながら、ティルーナはリュックの肩掛け部分をしっかり握りしめた。

「まっ待ちなさい!」
「おい何を……って死ぬぞ!? ここから飛べば死ぬぞ!?」
「レッツゴー! ガイルさん、お先に〜」

言うやいなや、ティルーナはバッとクリオーゼンの背からダイブした。ぎゃあああああと、パレセアが悲鳴を上げる。

「ふふ、気持ちいいですねぇ」

しかしそんな彼女のことは完璧に無視し、ティルーナは悠々とスカイダイビングを満喫していた。そして、目の前に遺跡への穴が迫ったとき。

「ポチッとな」

定番ともいえる一言と共に、手元にあったスイッチを押した。瞬間、リュックが開いてパラシュートのご登場。

「あ、これも気持ちいいですね」

ご機嫌な様子で、ティルーナはゆっくりと闇の中へ吸い込まれていった。
それをぼう然と見つめる、パレセアとクリオーゼン。

「……何、あの子」
「……知るか」



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



パタッ
何かがしたたる音。
パタッ
したたったものが頬にあたり、ガイルは目を覚ました。

「んあ?」

スッと頬を流れる感触、口元まできたので、試しに舐めてみた。鉄の味がした。

「……血?」

ようやく、ガイルは状況を理解した。意識がはっきりするにつれて、だんだんと熱くなる左腕は自分の頭の斜め上にある。自分は何か、壁にでも寄りかかっているらしく、左腕はその壁に突きたった棒状の物に引っかかっているようだった。
真っ暗闇で、何も見えない。
体中が熱を持っている。しばらくして、右目も開かないことに気づいた。動く右手でそっとなでてみれば、血で固まっているらしい。
大きく舌打ちをした。

「ったく……」

コン、と頭を壁に当てて、ガイルは二秒ほど目を閉じ、そしてまた開けた。
二十秒もしてくると、暗闇でも少しはものの輪郭が見えてくる。そして、ガイルの目はわずかな光源をも察知した。

「あそこから、落ちたのか」

ゆっくりと上を見る。
はるか彼方に、ポツンと夜空に浮かぶ星のように小さい青空が見えた。

「どんだけ落ちたんだよ……ていうか、左腕一本で済んだのがすごいな」

座ったまま体の状態を確認する。全身擦り傷切り傷だらけ、左腕は確実に折れている。
ゆっくりと立ち上がって、右足にも鋭い痛みを感じた。

「……えーっと、前言撤回。案外重傷だな」

その割に軽い口調で、ガイルは手にしていたはずの剣を探す。だが、この暗がりの中あの黒塗りの剣を探すのは砂糖に混じった塩を選別しろとでも言うぐらい困難だった。
とりあえずそこら辺に落ちていた棒を拾い、簡単に折れないものであることを確認してから歩き始めた。

「町のど真ん中ぶち抜いて……てことは、ココ、地下遺跡か」

せめて火の玉を召喚する魔法ぐらい覚えておけばよかった、とぼやきながらガイルは手探りで進んでいく。
……その進行方向とは全く逆の位置に目を回している爆弾犯たちがいるのにも気づかずに。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「…………」

老人は、じーっとそれを見ていた。
老人の前には、ぐでーっと大の字になって爆睡している黒ずくめの不審者がいた。
老人は、手に持っていた杖を握り、

「くぉら起きんかステントラぁああああっっっ!」
「ふぎゃぶっっ!?」

勢いよくその腹部を殴った。びょんっと綺麗にVの字型になるよう手足を伸ばして、ステントラは呻きながら地面をゴロゴロと転げ回った。

「んなななななっっっっってじぃさん!? あんた何でこんなとこいんのぉ!?」
「いて悪いかバカたれ! まったく、あの子たちがいなくなったらすぐにダラける……」
「いいじゃん別に! あいつらもお休み、俺もお休み! も、最高じゃん! ていうか俺の方がいつもいじめられてるから、俺の休日って意味合いの方が強いんだけど」
「ほう、厄介払いだと言外に言いおったな……?」
「ノーノー、杖ノー、てかやめっ」

ガンゴンッ! とステントラの抵抗もむなしく、杖は彼の額にぶち当たった。
老人……そう、ガイルとティルーナがフレリアへ行くための馬車の中で出会ったあの風変わりな老人は、そのときと雰囲気を百八十度変えて絶対零度の視線でステントラを眺めていた。

「フィロットに、リシェラが来たと報告があったが」
「ん? ああ、もう天界に帰したぞ」
「リシェラのことを知っていたという盗賊団は?」
「あいつらはぜってーあれ以上知らないって。だってバカだもん。……というか、わざわざあんたが来ることかね」

ステントラは半ば呆れたように言った。

「『こういうこと』だからわしが来たのだ。……神々が総力を挙げて隠し通してきたあの子の存在を、人間がかぎつけただと? 今の時代お前と天界種族たち、魔族ぐらいしか『扉』の存在は知らんだろう。それに」
「そもそもかぎつけたのは『人間』なのか」

老人が言おうとした言葉を、ステントラは先読みした。

「ま、普通のヤツじゃないだろうさ。リシェラの存在が公おおやけになっていた時代といえば、もう『あれ』以前だ」

一瞬。
ステントラの言葉を聞いた、老人の息が止まる。

『あれ』とは、―――――

「……じいさん、あんたなんつーシリアス顔してんの? 俺もうべっつに気にしてないし」

からからと笑って、ステントラは誤魔化す。絶対に、あり得ない嘘を吐き出して。

「けどさ、今はココじゃあないだろ?」
「……ひょっとして、わざわざ送ったのか」
「そりゃあねぇ、俺にクジ運無いことは百も承知だろ? まぁあいつらも……『楽しめる』かどうかは別として」

そこまでステントラが言った瞬間老人は小さくため息をつきながら再度、手に持っていた杖で彼を殴り飛ばした。