□ 第二巻 古き遺跡の都 - エピローグ その後ガイルは、見慣れぬ白い部屋で目を覚ました。体中に包帯が巻かれ、簡素な病院服を着せられている状態で。 椅子に腰掛けたまま、ベッドに上半身だけをのせて眠っていたティルーナを起こしてみると。 『が、ガイルさん起きましたぁああ〜!』 と、らしくない叫び声をあげてしがみつかれた。その声を聞いてどこか白衣を着慣れしていない様子の若い医者とパレセア、そして『エリス』の人々が飛んできた。 まずパレセアに謝られ、『エリス』のメンバーたちに感謝と謝罪をされた。爆弾犯は逃がしてしまったが、ガイルが身につけていたブレスレット型発信器の音声記録を調べたところ、その叫び声やらなにやらが確認されたため、捜査を進められると。それと、一般の観光客だったというのにあらぬ疑いをかけ、大変迷惑をかけた……と(パレセアも同様の理由)。 彼らが去っていったあと、医者は慣れていない様子で、もごもごと怪我の説明を始めた。 『ええと……これで、本当に動き回っていたんですか? 左腕骨折、肋骨二本骨折、右足複雑骨折、さらに左二の腕と額の傷、腹部からの出血……ふ、普通なら出血量だけでも、死んでしまっていておかしくありませんよ?』 ならばなおさら、あの爆弾犯がほぼ無傷(ガイルがつけた傷は除く)だったのはなぜなのだろうか。 とにかくガイルは、三日どころか二ヶ月以上の入院滞在という最悪の思い出を異国の地、イースティトで刻み込んだという。 はぁ……と、彼女はため息をつく。 「やけに暗いですね」 「そりゃあねぇ……せっかく逃がしてあげたのに、結局証拠、押さえられちゃって。もういいわぁ。あっちもスカ、こっちもスカ。……あ〜あ、またペルソナ様に怒られるんだわ」 「けれど、収穫はあったと、言っていませんでしたか……?」 「あ、あったあった。なーんか、かぶってるのよぉ」 はい? と書類の整理をしていた男が首をかしげる。彼女はヒラヒラと、男の前に一枚の羊皮紙を出した。 「これは?」 「ん〜、運命の精霊捕獲作戦のとき、あのバカんとこへ仕込んでおいた偵察クンが まとめてくれた『失敗内容〜注意事項』……ちょっと、下の方の危険人物見てみて?」 言われたとおり、羊皮紙の一番下を見てみる。そこには、『ガレアン』だけではなく『住人』と分けられた人々の名も書き出されていた。 「……。フィロットは、『ガレアン』だけが恐ろしいわけではないと」 「うーん、おまけにね、今回の報告書にも」 ばさりと新しい書類を、男が整理していた山の中から引き抜く。一気に書類はザラザラと流れていくが、男は特に表情も変えず、また同じように整理を始める。 「『若草色の長髪・空色の瞳・男・武器〜片手剣、魔法の類は使用せず。橙色の長髪・糸目・少女・戦闘要員とは見えず、上記の男と行動を共にしている』。……ねぇ? そっちとぜーんぶおんなじこと書いてるの。 まぁ、こっちにはプラス、ヴァインドの少女っていうのもあるけど」 彼女は男から返された羊皮紙と書類を見比べ、眉をひそめる。 「まぁ、別な人だったんならまだいいんだけど……同じ人に、二回邪魔されるとさすがにねぇ」 眉間のしわは徐々に深くなるが、反対に口元には笑みが浮かんでいる。 「ぶち殺したくなるわねぇ」 「……じゃ、今が頃合いじゃないですか。その『緑頭の剣士』って、イースティトのある病院で入院中らしいですけど」 「うーん、そうしようかしら。一番楽よね、病院での事故死」 とんでもない会話をさらさらと続けながら、彼女は羊皮紙と書類をゴミ箱に放り投げる。 「でもま、今はペルソナ様の計画優先ね……あ〜あつまんない」 「どうしても、ご自身で殺やりたいのですか?」 男が聞くと、彼女はぞっとするほと妖艶な笑みを浮かべ 「そりゃあ、人任せよりはね」 それを聞き、男はしばし手を止めた。 「……でしたら『人外』の場合は?」 彼女は目をぱちくりさせ……にんまりとした。 「あらぁ? いいヤツあるのぉ?」 「まぁ、成功するかどうかはわかりませんが」 「いいわよ、むしろそこそこ強いの送り込んでみて、それ倒したら……『ゼト』が、あの町に遊びにいくってことにしましょ」 彼女は、笑ったまま立ち上がり、このことを『ペルソナ様』へ伝えるべく部屋を出た。 「まったく、偶然だろうけど、その剣士もかわいそうに」 男はゴミ箱をちらりと見て、つぶやく。 「いっそ、あの人に会う前に死ぬことができればよいですね」 そしてまた、書類を整理し始めた。 |