STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第三巻 清き森の謎 - 第一章 1.帰国のち厄介事?
ガイルはベッドの中で、目を見開いたまま硬直していた。
別に変な風に寝返りをうって首やふくらはぎをつったわけでも早寝したのに太陽が真上にあった……わけでもない。
しかし。

「うぅ……ごぉ……ふぴー……」

奇怪すぎるいびきをたてて、全身黒装束の男が自分のベッドで毛布をはぎ取りながら眠っていれば、誰だってこうなるだろう。
しかも彼は、眠っている間も愛用のゴーグルやマントを脱いでいない。

「…………」

目と耳で受け取った刺激を脳がしっかりと把握するまで、ガイルの場合は二秒ほどかかった。理解したその瞬間。
ドグォッッッ!!

「ごふぁっっ!?」

勢いよく無防備な腹部に向かって蹴りを一発、ベッドからはじき出される寸前に頭部へゲンコツ。ほぼ同時に行われたのではないかと思わせる速度と神業に近い正確さで放たれた攻撃で壁にめり込んだ黒い青年、ステントラはしかしムクリと起き上がって抗議した。

「んなああっぁああ何すんのぉおおおお!?」
「ざっけんじゃねーこの変質者っ! てめぇ何で俺のベッドに入ってきてる!? 昨日叩き出したばっかじゃねーか!」
「いいいやだって『アクセント』でケゼンとまた泣きながらガブガブ飲んでたら 気持ち悪いし眠いしで、足は勝手にフラフラ……って……うぉえっぷ」
「ここでリバースはやめろっ! マジで出てきそうならそこの窓から飛べ!」
「いえそりゃ勘弁もうさっきの腹のヤツ効いて……すげぇ、グルグルいってる……中身」
「うぅわ背景にドロドロ縦線しょったまま青くなるなっ! くそせめてこの桶、犠牲にしろっ!」

目が覚めた瞬間に二日酔いの世話なんて……とガイルはココロの中で泣きながらいつも自分が顔を洗うのに使っている桶を、ステントラに投げつける。
しかし低血圧で現在二日酔いキャンペーン中ステントラに、いつもの俊敏さはない。ヒュンッと鋭い音を立てて飛んできた桶を受け止められず、脳天クリーンヒット。

「ぅぉおぇ」
「だぁあああてめぇ俺のことなんだと思ってる! 遺跡爆破の直撃受けた二ヶ月間重症患者だぞ!?」

ガイルはベッドのバネすら利用して飛び上がり、跳ね返ってきた桶を受け止めその中にステントラの顔をつっこむ。……ちなみに、この間おおよそ三秒、前言の『怪我人』という言葉が嘘のように思える動作だった。
しかし、彼は実際それほどの怪我を負っていた。

「ぅう、でもよ、なんでか異常に治り早くって、結局三週間で病院出られたじゃん……」
「そりゃな。俺だってびっくりしたさ」

ばんばんっ、と日光を部屋の中に導くため(プラス背後から漂う酸っぱい臭いを排出するため)、ガイルは乱暴に窓を開けながら言う。

「あっという間に骨は再生するし傷口ふさがるし 二週間して俺がトコトコ歩いてるの見たときのあの医者の顔ったらなかったが……」

ぽかん、というか魂が抜けたような表情で、眼鏡が鼻からずり落ちていた。ティルーナは「わぁすごい」と言ってのんきに拍手をしていたが……本当に、すごいか?

「あ〜、まぁ、治ってよかったじゃん」

ステントラは青い顔のまま、へらへらっと笑ってみせる。だが、桶に向けて伏せられた顔の口元は、何かをこらえるように引き結ばれ……。

「やべぇ、第二のウェーブがうぉおおぇぇええ」
「って、どれだけ吐くんだお前……ていうか酒に弱いならもう飲むなよ」
「いやいや、俺が酒を断てると思うのかいガイルくん」
「無理だな。内臓ボロボロになって内側から死んでくぞ」
「あっはっは! 酒よ俺を溺れさせてくれぇっっ!」
「お前ひょっとしてまだ酔ってる!?」

しばしガイル宅の二階ではドンガラガッシャンと派手な乱闘が繰り広げられていた。そしてそれは、起き抜けのティルーナの

「るっさいご飯ちょーだい」

の一言と共に飛んできたフォークで終結させられた。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「えっと、またなの?」

『ガレアン』フィロット支部の事務室にて巡回を終えてきたメンバーの報告を聞いたレイドは若干、顔を引きつらせた。

「は、はい。ウィリンさんとテッドさんが、四日ほど前から森に出かけて、それっきりと……」

はぁ、とため息をつくレイドの隣で、報告しに来たメンバーの青年はおろおろと視線をさまよわせている。

「あー、それ以外に何かあった?」
「いいえ、あとはウィリンさんが実家に置いていったフォンターがいきなり爆発したとかケゼンさんがぐだぐだの状態で『アクセント』の外にほっぽり出されてたりとか……ぐらいです」
「あ、それはどーでもいいか……てか、また探しに行かなきゃいけないのかぁ……面倒だな〜」

町の住民を守る者として最低の台詞をさらっと吐きながら、レイドはぽりぽりと頭をかいた。

「ねぇ、誰か代わりに行ってきてよ」

ジト目で辺りを見回すレイドだったが、他の机に座って書類の処理を行っているメンバーたちは絶対に目を合わせるものかと、顔を書類にぎりぎりまで(その間隔およそ五ミリ)近づけて作業をしている。

「君、行ってきてくれる?」
「は、はいっ!? ぼ、僕なんか無理無理無理ですっっっ! あそこで道に迷わない人ってネーリッヒさんとステントラさんくらいしか知りませんよっ!?」

思わずポロッとその人の名前を出してしまい、青年はハッと口元を押さえる。
しかし、時すでに遅し。

「あ、じゃあステントラたちに頼もうか。あとで連絡しとこーっと。情報ありがとう」

にっこり笑顔ですかさず返答したレイドはフンフンと鼻歌を歌いながらメンバーのまとめた書類にサインをしていった。
それを見た青年は、ココロの中で気の毒なあの人たちに謝った。

(すいません、犠牲になって下さいホントすいません)

……彼も、何気にひどい性格である。