STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第三巻 清き森の謎 - 第二章 4.不機嫌な森番
男は必死になって、『荷物』を探していた。

「くそ、くそ、くそっ! 寝かけてたから油断したぁっ」

あれは今回の任務の要(かなめ)であり、あれがなければすべては始まらない。

「んにゃろぅ、ったく……ん?」

男はガサガサと茂みをかき分けて、細い獣道へ出た。そして、そこで変わった少女に出会った。
彼女は、道のど真ん中でうつぶせになって倒れていた。

「…………」

瞬時に男は踵をかえしたが。

「待〜ち〜な〜さ〜い〜……」

ズリズリ、ズリ……

「お、わ、ちょっ、ぎゃああああああっっっ!!?」



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「あんたらかい。ったく、やかましいったらありゃしない」

開口一番鼻を鳴らして、ネーリッヒはそう吐き捨てた。
フィロットの隣にある広大な森、トール。いつつくられたのか分からない、その森の入り口に小屋を建てて住む老婆は、歳の割に若々しくみえた。
背はぴんとまっすぐに伸び、顔にあるしわも深くはあるが、皮膚が垂れ下がるようなことはない。おそらく、数十年前はアデレーナに匹敵する相当の美女であっただろう。しかし、一番の印象はそのつややかな黒髪であった。ほんのわずかに銀色の混ざるそれを、彼女は簡単にくくって前に垂らしていた。
久しぶりに会うティルーナへ、目元を和ませながらクッキーを入れたかごを渡すのと対照的にガイルとステントラに対する視線は絶対零度。
この差は一体なんなのだろうか、と二人は心の中で思ったが口に出すような自殺行為はしなかった。

「ま、とりあえず二人見つけたらさっさと帰りなよ」

ネーリッヒはそれだけ言うと、ティルーナの頭を一撫でして小屋へ戻っていった。三人はとりあえず、小屋の脇から森の中へ通じる細道へ向かう。となると、必然的に彼らはネーリッヒのあとを追う形になるわけで……。

「…………なんなんだい、あんたら」

ネーリッヒは軽く後ろを見て、じろりと(確実にガイルとステントラの顔)睨みつける。

「あー、ネーリッヒ、俺たちは森へ行きたいのであって そのための道はあなたの住んでいる小屋の隣にあるんでして……」
「ていうかさ、そこまで怒らなくても」

瞬間、ビビビッとミニ・電撃が飛んできた。「ヒィイ!?」と叫んで、ガイルとステントラはティルーナの後ろに隠れる。右手をビシッとこちらへ向けるネーリッヒは周りの空気中水蒸気が全部凍るのではないか、というぐらい冷たい雰囲気をまとっている。

「……あたしゃあね、うじうじしてたり乱暴だったりする男が嫌いだがね。いっつまでもぐだっぐだ言う男が一番嫌いだよっ!」
「だぁああちょっと待てネーリッヒっ! 分かった! あなたが小屋に入るまで俺たちここに立ってるから! だから連続でテナボルト飛ばしてくるのはやめてくれっ!?」
「そそそそうそうそうってルーちゃん何こっそり安全地帯へぇええっ!?」
「やーですもん、そんな電気ビリビリ〜。当たったら、真っ黒コゲコゲになってしまいます」
「「死ぬわぁっ!」」

綺麗にハモったガイルとステントラだが、その後数分間、ネーリッヒは自身の魔力が尽きるまでビリビリを飛ばしてきた。……どうやら日頃イロイロと溜め込んでいたストレスを、この場で全て発散させることに決めたらしい。
この完璧な八つ当たりを一身に受けることとなってしまった不幸な男性二名は、ぐだぐだの状態で依頼に挑むこととなってしまった。

「「…………」」
「わぁ、なんだか一気に頬がこけてますけど。テッドさんそっくりです」
「くそ、なんだって初っぱなからこんなに体力消耗しなくちゃならねーんだ」
「あははぁ〜、ネーリッヒもきっつい性格になってきたなぁあはは。あ、もともとか」

一人元気に獣道を突き進むティルーナは、立ち止まってふるふるっと体を震わせた。

「ティルーナ?」
「……この間までとっても暖かかったのに、この森っていつもどこか肌寒いですよね〜」
「だな。もう一ヶ月か、そこらくらいしたら、この森も綺麗に色づくだろうな〜」

ステントラは乾布摩擦で二の腕を温めようとしていたティルーナに、自分のマントを羽織らせようとして拒否される。かわりに彼女は、ガイルの着ていたジャケットを借りた。

「ねぇルーちゃん、俺のマントって臭い?」
「臭いというか、いつも着てますからねぇ」
「いや、きちんと洗濯してるし、毎日取り替えてるんだよ?」
「お前が着替えてるところなんか一度も見たことないが」

薄いシャツを二枚重ねにしただけの夏服姿になったガイルは、それでも鳥肌一つたてずに平然と歩いていた。往生際の悪いステントラは「えー」といいながら、しきりにマントの匂いをかいでいる。
と、そんな彼の足がピタリと止まった。

「…………?」
「おい、どうしたステンレス、置いてくぞ」
「なーんでステンレスっていうの!? ていうかもうそのいじめ止めない?」
「「ヤダ」」
「んだよこのSコンビ! こっちがヤダって言いたいっつの! ていうか、俺を置いていって困るのお前らだからなっ! こっから先、道がないんだもんねー!」
「じゃあとっとと先頭歩け」
「……ひどいよね、なんでこう毎度毎度命令口調なの」

ぶつぶつつぶやきながら、ステントラはちらりと背後を見やる。一瞬だけ、『何か』がいたように思えた。
だが、ステントラよりも感覚の鋭いガイルは「早くしろ」と言いたげにガンを飛ばしてきている。

(あいつに分からなくて、俺に分かる……?)
「……気のせいか」
「はぁ?」
「いやいやいやなーんでも? とにかく行こう〜!」
「?? なんか、いいように流されたような」

ガイルは首をかしげつつ、いきなり元気になったステントラを見る。なにかを忘れようとしているようにも見えたが、獣道ど真ん中でホップステップジャンプ〜!なんて軽やかにしていたため、疑問は瞬時に呆れへ変換さ

ズドッ

「がっ!?」

自分の視点がいきなり一メートルほど下がって、ガイルは驚き両手をバタバタと振り回す。よく見てみれば、腰の位置まですっぽりと直立の姿勢で……落とし穴にはまっていた。

「あ、ガイルごめん、言うの忘れてた。 このへんな〜ネーリッヒに頼まれてて、ちょっとした罠しかけてあるんだよ」
「……なんでまた」
「いや、ネーリッヒいわく『変なヤツらがこの森にきても、まぁある程度足止めできるようにするための防護措置』だって」
「変なヤツらってなんだよ。誰がこんな森好きこのんで来るかっ!」

ガイルはずるずると落とし穴から這い出つつ(ステントラの手を払い除けて)、文句を言った。ステントラは疲れたように笑いながら、二人に言う。

「とりあえず、仕掛けたの俺だし、罠あるトコは、ちゃんとこれから言うから。あんま俺の前でないでね?」

二人は、憮然とした表情で小さく頷いた。