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□ 第三巻 清き森の謎 - 第三章 9.謎は深まり 五人は、なぜか地べたに座って(一名正座)対談していた。 「……つまり、ゼンシュだっけ? あんたはどこぞの研究所の雇われ下っ端アサシンで、たまたまなんかよく分からん研究対象の運送任されてこの森を突っ切ろうとしたら道に迷い、あげく材料無くしちまって右往左往してたとこに」 「このお嬢さんにとっ捕まった……」 「ちょっと、とっ捕まったってどういうことよ!! 私はただ力なく倒れてたところ人が通りかがったから助けて~って呼び止めただけで、道案内まで買って出たのよ!? それなのに、はーっ! ゼンシュさんったら変なふうに言っちゃって」 「あのな、それじゃー言わせてもらうけどお嬢さん。獣道ど真ん中に大の字うつぶせまんま死体でーすみたいにぶっ倒れて、俺が逃げようとした瞬間猛烈な速度で身ぐるみはいで食料強奪、保存食ほとんど平らげて道案内するって胸張った瞬間にココはどこでしょう?って首かしげられた瞬間の俺の絶望具合はどうだったと思うんだっ!!?」 「そんなの、おじさんじゃないんだから分かるわけないでしょ」 「こうきたか!! とうとう開き直りやがった小娘!!」 「やかましい、そして一文一文なげぇんだよお前ら」 「はいすんまっせんしたっ!!」 ゼンシュはガイルのひと睨みで、正座から土下座にレベルアップ。 「で、その研究対象について、あんたは詳しいこと知ってんの?」 「いや、俺は単に荷物運んでおけよ、駄賃は後々払うって言われただけで、チラ見だけしか」 「じゃあ、どこに運ぶつもりだったんだ?」 「首都の……どこだったかな、そっちもまた研究所だったはずだ」 「ふーん……」 ゼンシュの言葉を聞いて、ステントラはどうでもよさそうにゴーグルの淵を叩いた。それを見て、ガイルとティルーナは顔を見合わせる。珍しいステントラの癖の中で、一番イライラしているときのものだ。 「にしても、ウィリンさん。テッドさんはどうしたんですか?」 「あ~、なんか、一緒に薬草探してたはずなのにいつの間にかいなくなっちゃってたのよね。テッドさんもしょうがないわよねぇ、こんな森の中に女の子一人置いていっちゃうなんて」 「その責任はなにもテッドだけってワケじゃないだろーが」 「何よ、あたしにも責任があると?」 「……完璧に意識が無いってところは、これぞまさに『無責任』」 「ティルーナちゃん、なにか言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだいほら早く」 「なんのことですか~? 小声ならステントラさんの方から聞こえたような気が」 「って何気になんで俺の方へ矛先向けるの!?」 ステントラは盛大にため息をついて立ち上がり、マントについた泥を払った。 「つーかいつまでもこんな会談してたって意味ねーし。そっちの事情は分かったから、さっさとその研究対象のブツとテッド探すぞ~」 言うなり、ステントラは足早にその場を立ち去っていった。他四人も慌てて立ち上がり、ステントラの後を追う。 ガイルは眉をひそめながら、ティルーナに手で合図をして、ステントラの隣に立った。ちらっと後ろを確認してみれば、ティルーナは会話をしつつウィリンとゼンシュの気を引いている。 「おい」 「ん?」 「なんでそんなピリピリしてんだよ。さっきから、お前なんか余裕ゼロだぞ」 「…………」 ステントラは軽く空を見上げ、唐突にバリバリと頭をかいた。 「いや、だってあの男、ゼンシュがさ、あんなよくわからんブツ運んでたって軽く言うもんだから」 「お前がそんな苛立つくらい、あの化け物、タチ悪いのか」 「悪い」 ステントラはまた唐突に、ピタリと顔を正面に向け、吐息に混ぜるようにつぶやいた。 「想像が当たってりゃ、神族も魔族も黙っちゃいないはずだ」 「…………」 彼の口から『神族』や『魔族』といった言葉が出てくると、どうにもお伽話の中だけでの存在ではない、と再認識させられる気がする。 実際、ティカには神族に属する天界種族が普通に生活しているし、魔物にだって、ついさっき出会ったばかり……別に存在を信じていないわけではない。むしろ実際目にすることが多いのだから、当然と思っている。けれど、彼の言う神族、魔族は、天界に住まう神々、魔界に住まう魔神を思い浮かべさせるのだ。正直、ガイルはそこまで神やら魔神やらの存在を信じることができていない。なのに、ステントラは当然のように話を進めていく。 まるで、世界の全てを知っているかのように。 「っ!」 考えて、ぞわりとした。 「ガイル?」 「あ、いや、なんでもない」 「? そっか」 ステントラはため息ではなく、普通に頬をふくらませて息を吐き出した。ガイルはまだ眉をひそめたまま、思う。 孤児の自分を拾ったバカ男。死にかけるたびにめちゃくちゃ心配してボロ泣きしかけてる……涙は見たこと無いけど。『変人の町』にあっさり馴染んだ本物の変人。酒好きなのに酒に弱くて、低血圧の銃器オタクで。 「ステンレス」 「って唐突!? どしたのガイルんな真顔でさぁ。っつか俺なんもした覚えないんスけど? どーしてそう人の名前いじくるかな」 「気分。そして原因はお前の存在だ」 「わお、とうとう自己中の道の果てまできやがったなこの野郎!! 人の存在全否定した挙げ句っ」 ……うん、普通普通。全然、ふつーにツッコミの道貫いてるコイツ。 口に出した瞬間、ステントラが無言で突っ立ったまま大泣きしそうなことを素直に思って安心する辺り、ガイルの性格のひねくれ度合いが伺える(一応親愛の情ともいえるが)。 「もういい」 「って、また唐突に捨てたなオイ」 ステントラはがっくりと肩を落とし、少しだけ歩くスピードを緩めた。それを見て、ガイルもうんうんと頷く。 (まぁ、励ますのは性に合わない、というか嫌だからへこませとこう) コレも一応、彼なりのステントラへの気遣いである。嫌がらせとも言うが。 (しかし、あの気色悪いもの……確かにイロイロ不自然なところがあったが) 外見は、魔物でも滅多に見ないほど凶悪、そして確かに三人の命を狙ってきた。だが、命を狙ってきたはずなのに、殺気が欠片も感じられなかった。 (だから、俺は気配が読めなかった?) 確かにガイルは、生きるのに必死だった幼少の頃に殺気や闘気といったものを読むことを強いられてきた。そして戦闘などの時には相手の気を読み、隠れている敵の奇襲や、次の攻撃に備える事ができるようになった。 (けどあいつらは、殺す気でこちらに近づいてくるのに、殺気がなくて……) 殺気がないまま何かを殺す、ということは、その辺にある石を軽く蹴り飛ばすのとワケが違いすぎる。そんなことができるなんて、とガイルは眉をひそめる。 (んで、そんな化け物を『実験材料』の一言で、アサシンとはいえたった一人で輸送していた、か。訳がわからないっちゃあ分からない……うーん) 今まで手に入れたあの正体不明の生物についての情報をざっと整理してはみたものの、そこから先へどうにも進めない。ガイルは常識もあるし、冷静さも持ち合わせているが、推理力等もずば抜けているかといえばそうでもない。 ステントラはもう分かったような口をきいていたな、と、再度隣を歩く青年をちらりと見やる。 「ん? どうした?」 「……こんなヤツなのになんかイロイロ知ってるって、ものすごくムカつく」 「ええー唐突にムカツク野郎発言? そりゃーあんた、俺の方がちょっち長生きだし?」 「ちょっちどころじゃねーだろ、ひょっとしたら一回り以上違うんじゃ」 「ふっふ、そこらへん企業秘密だからなっ!」 「お前企業秘密って、どこぞの生体実験でも受けたのかよ」 ああ本当になんかコイツ一発無性に殴りたくなってきた、とかなり理不尽なことを思い、ガイルは手を握りしめる。 「ちょ、ガイル? なんでそんな険しい顔しながら右手あげてるの? ご丁寧にグーで」 「そこまで解説しないと分からんか?」 「いや分かる。俺が何をした? なんで俺が殴られるぅ~!?」 「あの二人、いつもあんなバイオレンスなこと繰り広げてんの?」 「さっきまでステントラさんがイライラしてましたけどね。今はガイルさんがイライラしてるみたいですねぇ。あ、右ストレート決まりっ!」 「ごふぅっ!」 「あ、ゴーグルの角で手を痛めたみたい。さらに不機嫌そう」 「今度は左っ!」 後方で楽しげに実況をするティルーナたちのことなど構わず、ガイルはふぅ、とかはぁ、とかため息をついてその場を歩き始めた。 「ちょっと、被害者の俺放置ですか。ほっぺメチャ痛いんスけど」 「気のせいだろ」 「自分でやっといて気のせいとか言う!?」 「言うでしょ」「言いますよぉ」 「フィロットの年頃少女ってこんな人の道 外れてそうな発言ばっかなの?」 「いやいやいや! 変人の町なんて異名あるけどきちんと常識人いるよ!? 俺みたいな!」 「あんた格好からしてモロ変人代表じゃねーかっ!?」 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも五人は歩き続け、次のポイント目前までやってきた。 「えっと、この茂みの先」 精神的、肉体的にある程度回復してきたステントラが木の枝をかき分け、一歩踏み出そうとした瞬間。 「ぴっぎゃあああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!??」 まさにそのポイントから、甲高く奇妙で、せっぱ詰まった大絶叫が響き渡った。 |