□ 第三巻 清き森の謎 - 第三章 10.未確認巨大生物大接近 甲高い奇声、眼前に広がる光景……思わず五人はあ然とした。 「テッド?」 ほぼ無意識にウィリンがつぶやく。と同時に、ガイルとステントラが矢のように飛び出した。 次のポイントには、確かにテッドがいた。……以前見たものより二、三倍大きな化け物と一緒に。 化け物はテッドの胴に、二本の触手を絡め、ぐるんぐるんと振り回していた。テッドの身体はぐったりとしており、振り回される度、辺りの木々の枝に手足がかすって、浅い切り傷ができていた。 「はっ!!」 ガイルが剣を抜き、跳躍する。テッドに絡みついた触手の根本を斬りつけるが、表面がやたらとぬめっていて、刃がすべってしまう。 眉をひそめ舌打ちをし、ガイルは化け物の胴体を踏みつけ、そのゴムのような体の柔らかさからくる反動で飛び退った。そこへすかさず、ステントラが発砲する。両手に握るのは、双方とも威力の高いリボルバー。 ドッ ダダンッ!! ダダ ドンッ! 「おいゼンシュ!! あのキモいのどうなってんだ!?」 ステントラが苛ついた声で怒鳴る。前の二体には効いたはずの弾丸だったが、目の前の化け物は深くめり込むだけ、そのままポンポンと跳ね返ってきてしまった。 ぐ、と息を詰まらせながらも、ゼンシュは精一杯答える。 「わからねぇ。俺も、こんな風になるなんて一切聞かなかったんだよ!」 「お前それでも運び屋か!?」 「安全な物資だと思ってたんだよ! あんなドロドロの化け物担いでたなんて想像もしたくねぇっ!!」 「そーゆーことはきちんと人の話を聞いてから引き受けましょう!」 叫んで、ステントラはザッと周囲に視線を巡らせる。そして、左手のリボルバーを懐にしまうと、見当違いの方向に向かって走り始めた。 「あ、お前どこ……っと?」 「ウィリンさん、ウィリンさん作の『フォンター』はありますか? 爆薬じゃなくて」 「もちろん、急に必要になったときため、試作品だって、いつでもどこでも持ってるわ」 「それ、四つくらいくださいな」 「いいわよ〜。あとでお代請求させてもらうけど」 「ガイルさんにお願いしますね〜」 「……キミタチ、何をしてるんか?」 「見ての通り、よ。ルーちゃんガンバッ!」 「は〜い」 ウィリンからカラフルな試験管を貰いうけ、ティルーナはたったとこの状況に不釣り合いすぎる、散歩にでも行くような足取りで化け物の方へ駆けていった。それを見て、ゼンシュは慌てる。 「ちょ、お嬢ちゃん死ぬ、死ぬよ!?」 「死なないわよ、ティルーナちゃんなら〜。ていうか、おじさん役に立ってないわね」 「あの緑頭の剣も、メカニックの銃器も効かない化け物に俺の暗器が効くと思うか!? それに、俺は元々接近戦より飛び道具を使った中距離戦専門。あんな人が振り回されてる中、刃物なんか投げられねーよ」 「大丈夫、死なないわよ、テッドなら〜」 「お前の発言無責任すぎるんだけど! 何フィロットの人間って不死身なわけ!?」 「んー、まぁとりあえずダイジョブよ! ポジティヴシンキングよ!!」 「それ一歩間違えたらすごいどん底まで落ちるよ、テンション」 ああもう目の前でシリアス戦闘中だっつーのに俺は何漫才なんて、とかゼンシュが自己嫌悪に陥った瞬間。 「ていや」 可愛らしい気合いのかけ声が発せられ、視界の隅をキラキラと光る何かが、複数横切っていった。 「?」 ドッ ゴォオオオオオオオオッッッッ!!! 「どぁああ!?」 「げっほ!」 「あっらぁ」 ゼンシュの驚愕の声、ガイルの咳き込む声、ウィリンの落胆の声が同時にもれた。そして直後に、化け物の絶叫が響く。 ゴァアアアアアアアアアッッッ!! 「ちょ、今何が!?」 「ルーちゃん、フォンターなんか敵に投げたらダメでしょ!? 相手の傷が回復したりなんかしちゃったらどーすんのよ!!」 「だーいじょうぶですって〜。……ウィリンさんのフォンター味方に投げたら同士討ちになってしまいますよ」 「何をボソボソ言ってるのかしらぁ?」 「いいえなんでもありませんよ、ガイルさんが悪態ついてる声じゃないですか?」 「確かに悪態はついてるがな、ごほっ。にしても、やたら毒々しい煙まき散らしてんな」 ティルーナが投げたウィリン特製フォンターは、化け物の顔面にぶちまけられ、しゅうしゅうと音を立て煙を発しながら、化け物の表面を焦がしていった。化け物はもだえながら、より一層触手をめちゃめちゃに振り回す。 「うびょほ――――――――――――!!!」 もちろん、まだ解放されていないテッドは、倍速で宙を舞うことになり。 「そーらよっと」 いつの間にか戦線復帰していたステントラが、一丁のリボルバーを構えて、撃った。 先ほどの重々しい爆発音とは異なり、ポシュ、という可愛らしい破裂音。 動体視力が優れているとはいえない、ウィリンとティルーナでも、銃口から発射されたものの形がはっきりと見えた。 「……木の実?」 どこかで見たことあるような、とウィリンが眉をひそめたのと同時に、木の実はテッドに絡みついた触手に当たった。 木の実自体の衝撃はほぼ無いに等しかったが、触手は振り回す速度を変えず、そのまま木の実と激突したため、発砲時の数倍の衝撃が木の実に伝わり。 木の実が弾けた。ゴマ粒ほどの小さな種を、勢いよくはじき出して。 そこで、ウィリンも図鑑の中の知識を思い出した。 「あれ、パンカン草の種だわ。外側からものすごい力を受けると、内側から一気にはじけ飛ぶの。至近距離でのその衝撃は、ある意味天然の爆弾とも言われてるって……」 木の実の爆破を受けた触手が、だらんと下がった。弾丸すらはじいたはずの化け物の触手は、小さな小さな種の集中攻撃を受け、ポツポツと穴が開いていた。そこから、気味の悪い緑色の体液が流れ出る。 「ガイル!」 呼びかけられるよりもずっと早く、ガイルは走り出していた。剣を腰の位置に構え、地面との平行を保つ。 痛烈な突きが繰り出され、木の実の攻撃を受けた場所から触手が飛んだ。 「ぎょごっとっと!?」 「グゴ、ァアアアアアアアアッッッ!!」 テッドの悲鳴と化け物の咆吼が重なる。 「うるっさいわね黙りなさいっ!!」 素早く簡単な印を結び、さらに丁寧に詠唱を重ね、時間のかけられた魔法が発動する。 「フレイム!」 ウィリンが人差し指を化け物に向け、最後の命令を下す。 彼女の指先から炎が迸り、不規則な動きを繰り返して化け物の口腔内へ侵入、その身を焼き焦がし、終了……。 と、なるはずだった。 「……あら?」 「こっこんな時に不発かよー!!?」 ゼンシュが叫び、ティルーナが横で引きつった笑みを浮かべる。 二秒ほど後に顕現した魔法は、火炎ではなく雷撃……しかも結局、ステントラの発動させた魔法文書(スクロール)によるものだった。 「本当に、魔法、苦手なんですねぇ」 「う、う、うるっさいのよぉおおおおおおおおおおお」 その後、ガイルとステントラによる猛攻(ほぼ人外の威力)により、怪物は絶命。最後の咆吼をあげながら、地面に倒れ伏した。 「……おい、コレ、なんなんだ?」 「お、俺に剣を向けながら言うなってか突き刺そうとすんな!?」 「テメーが唯一の情報源なんだろーがよ、ほらさっさと研究所の名前でも何でもいい、知ってること吐きやがれ」 ガイル、ティルーナ、ウィリンは思わず目を見開いた。あのへらへら不審者ステントラがこのような口調でしゃべるなど、初めて聞いた。 と。 「……どぅわ〜れかぁ、お助けぇ〜……」 「「「「「あ」」」」」 その場に漂いかけたシリアスな空気をぶち壊すように、遠心力で触手ごと吹っ飛ばされ忘れ去られていたテッドが、木の幹に出来た隙間に頭部をめり込ませ、だらーんと四肢を垂らした状態でSOSを発信した。 |