STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第三巻 清き森の謎 - 第四章 15.闇を生みだすは
「……えらいことに、なっちまった」

ガイル、カッティオが魔法で転送された後、障気も化け物も跡形もなく消え去ったその場所に、ゼンシュは立っていた。ターバンを脱ぎ捨て、がしがしと乱暴に頭をかくと、近くにあった木の幹に思い切り蹴りを入れる。

「俺、もうクビかな……あーもう姐さん直々だって時点で、もっと気を引き締めときゃよかったんだよ。いやこれ以上ないほど引き締めてたけど。もうそれ以上に。だったら『闇』もこんな変なトコで発動させずにすんだっつーのに、ちくしょう」
「ほぉー? 俺から見たら、お前がどれほど気を引き締めようともアレを制御するなんてこと、不可能としか言えないんだがな」
「いや俺だってあんなの制御しろって言われたわけじゃねーし、フィロットに放り込んであとはあいつらの行動を観察して……ってのぅわっ!?」

ゼンシュはその場を勢いよく飛び出そうとして、がちりと固まった。瞬きも、呼吸もできない。それほどの緊張感がこの場を支配していた。
ぎぎ、と無理矢理振り返ってみれば、あの黒装束……ステントラが、安全装置を外したままのオートの拳銃で、ゼンシュの頭を狙っている。

「とっとと吐け。質問にすべて答えろ。脳みそ吹っ飛ばされたくないならな。第一に、お前の所属する組織について。第二にあの化け物について。第三にお前らの狙いについて」
「…………は、第一は、まぁそんな風に脅されてるからにゃ答えなきゃ、なぁ。だが、第二と第三については無理だ。知らないことは吐けないからな」

くっ、と小さく笑いながら、ゼンシュはぼそぼそと話し出す。

「どうせ俺は任務失敗で、生きちゃいられねぇだろうからな。あの人はそーゆー人だ」

『―――――』

その後に告げられた組織の名に、無表情だったステントラの口元が歪んだ。動揺で、銃を持つ手も震える。

「……消えちゃ、いなかったっつーのか。たく、そんなのを組織名にしやがったヤツの気がしれねぇなホントに」
「はん、俺は新米だからんなこた知らねーよ……だが舐めるなっ!?」

その一瞬。銃の狙いが逸れたと同時に、ゼンシュは円形の暗器を放った。暗器は狙い通り、完全に不意を突かれたステントラの頭部に突き刺さる。
ガキャッ!と鈍い音とともに、ステントラの体は吹っ飛んだ。ゼンシュはにやっと笑い、小さくつぶやく。

「答えたところで、知られたところで、相手を殺しちまえばそれで終わり。はーあの緑頭とか来る前に、とっとと逃げ」

そのまま踵を返そうとしたゼンシュだったが、数メートル先で倒れたあの黒装束が、もぞりと動いたように見えた。
ステントラが起き上がる。顔面蒼白なまま、ゼンシュはじりじりと後退する。ガチャッと暗器が地面に落ち、続いて真っ二つになった彼のゴーグルも、軽い音を立てて落ちた。
彼の顔が、ゆっくりとあげられる。

「……ぁ」

ゼンシュは、言葉を失った。頭の中にはなにもない。逃げることも、気絶することも許されない。

「知られたところで」

数秒前に彼がつぶやいた言葉を、ゆっくりとなぞる。ゼンシュは、目がくらんでいた。視界はすべて、突き刺さるような金色。

「お、おま……お前、も……ばけ」

パン

静かに、一発の銃声が響いた。
その音は、森の外へは聞こえない。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



森の外。
ネーリッヒの家に戻ってきたガイルとカッティオは、ウィリンにゼンシュのことを問い詰められていた。
彼らは、すっかり忘れてしまっていたと肩を大きく落としていた。
ウィリンと、事情を聞いたネーリッヒの二人に説教される二人を、テッドがにやにやと眺めていた。
その後カッティオは隊員に、ゼンシュの似顔絵を描いて即刻捜査を始める旨を伝えた。
その後ガイルはティルーナに、森に入ってから借りっぱなしだった上着を返された。
そして、ガイルとティルーナは未だ帰らぬ最後の一人を、森の入り口で待った。
彼は、なぜか町の方から大急ぎで走ってきた。

「いやーなんか半端なところから出てきちゃったみたいでさ。ガイルとカッティオもついてきてないし、あれ俺一人だけ? みたいな感じで。で、これだけ時間かかってたら町にもう戻ってるかなーと思って」
「ずっと待ってやってたんだよ、最近この辺物騒だからな。なんか全身黒装束の不審者とか出るらしいし」
「ああ、そうでしたねぇ。ホント、森の中にも出るって言われてましたから私達心配して」
「君ら本当にそれ心配? ねぇ? え?」

ステントラはバタバタと手を振って自己アピールをしていたが、あっさり流されて傷心した。
ガイルはさっさと町へ戻ろうとし、ティルーナはステントラの隣を通り過ぎようとして、立ち止まった。
ガイルの背中は、どんどん小さくなっていく。

「ルーちゃん?」
「ステントラさん、どこか怪我したんですか?」

彼女は、彼のマントの腰辺りにこびりついていた、ほとんど目立たない赤黒いシミを示した。
彼は一瞬黙り込んだが、すぐに軽い口調で答えた。

「まっ、いつの間にか怪我してたのかもな。でも、今はどっこも大丈夫だし」
「そうですか」

ほっと表情をゆるませるティルーナの頭を、ステントラはいつも通りなでようと手をあげて。
少し迷うように彷徨わせた後、結局なでずにマントの中に戻した。

( ヒ ト ゴ ロ シ )

ゴーグルで隠された彼の表情は、硬く、冷たい。