□ 第三巻 清き森の謎 - エピローグ 「……おや?」 「どーしました、副リーダー」 未処理の書類が山と積まれたデスクのさらに向こう、休憩用のソファに優雅に足を組みながら座るレイドを見て、一般隊員がうんざりしながら問う。 「なんだかね〜、このヨーゲンバードとか含めて、ナトバ大陸の国々で盗賊団の暴走が起こってるんだって。スヴォーム共和国とか、リリザル国とか」 「そういう事件でしたら、この間のイースティト遺跡の事件が一番じゃないですか」 「ま、あれほどひどくはないようだけど、ね」 メア神の頃(およそ七月)、隣国イースティトで発生した古代遺跡連続爆破事件。 証拠らしき物品がいくつか発見されたと『エリス』から発表があったわけだが、未だ犯人は捕まらないまま・・・・。 犯人の人相やらを正確に聞き出そうにも、犯人と接触した一人の少女はすでにどこかへ旅立ち、もう二人は外国からの観光客、しかも一方はひん死の重傷だったのだ。その上で聞き出した情報は…… 『クソ生意気な刈り込み頭の双子のガキ』 他にも様々な情報が与えられたのだが、それでもやっぱり捕まらないまま。 「あ、でもこれはそれに匹敵するかも」 「なんです?」 「ほら、ここ、ヴィークエクス国の港に入港するはずだった、ハストループ国の輸送船を襲撃、……死者も出たらしいね。船は完璧に沈められて」 コーヒーをすすり、ぴっ、と新聞の角を指先で弾いて、レイドは目を細める。 「まったく、これだけ大きな騒ぎを起こすようになった代わりみたいに、近辺の町村や商隊が襲われる回数が減った、ということが気味悪いな」 「あ……そういえば、確かに。最近の盗賊騒ぎといえば、夏の始まりくらいにあった『アレ』ですかね」 隊員は遠い目をして、懐かしむように過去を思い出す。 「町中大混乱でしたよね」 「そーだね。相手もやたら統率力を欠いていたけど」 「あれじゃ、まるで寄せ集めできあいの集団でしたねぇ」 何気なく答えた隊員だったが、しばらく書類に目を通していると、ソファの方から何も聞こえなくなったことに気づく。 「副リーダー?」 「……寄せ集め、ねぇ?」 ぴく、と隊員の肩がこわばる。久方ぶりに聞いた、副リーダーの緊張感をおびた声。 「なにか?」 「ねぇ、昔、なにかやたらと力を持っていた割にいつの間にか姿を消していたりした盗賊団って、ある? まだ実は存在していそうな」 「は?」 隊員が聞き返すのと同時に、書類の山の向こうから能面のような無表情のレイドの顔があらわれた。 「僕が覚えている限り、ここ五年くらいは、それほど規模の大きい盗賊団の名前って、新しいの聞いたことないし。君って確か、そーゆーとこ情報通だってカッティオが言ってたけど」 「はぁ……じゃあ、うーん、まずはどのくらいの年代からでいきましょうか」 「そうだね、十年から二十年くらい、かな? ちょっと古すぎる気もするけど」 「二十年ほど前でしたら、そう言ったヤツらの全盛期でしたよ。他大陸でも、頻繁に内戦や戦争が起こってましたし」 レイドの目が細くなる。 「でも……そうですね。自分が聞いた中で、様々な場面に登場してきた名前がいくつか。でも、これが多かったでしょうか」 隊員も手を止め、顎に指を添えながらぼんやりと、記憶の糸を辿り、答える。 「盗賊団であり、その頃、世界でも最高の暗殺技術を秘めていた集団……『ゼト』、といいました。戦乱の時代が終結へと向かっていくのに反比例するように、その活動や存在は、深い闇へと埋もれていってしまいましたが」 ゼト。 その名が意味するところは、『絶望』。 |