STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第五巻 輝きし宝の夢 - 第一章 3.妖の笛
 ゆらん、ゆらんと、かなり高いところの木の枝に足を引っかけて、体を逆さまにしたまま笑い合っている少年と少女がいた。

「さぁーあ我が妹よッ!! そろそろ僕の可愛いフレシアたちが帰ってきて情報を持ってきてくれる頃だねッ!!」
「そうですわねお兄様〜。あたくしもうこのままでいるのは、ちょっとつまらなくなってきてしまいましたの〜。とっとと動き出して暴れてしまいたいのーよ〜?」
「はははッ!! しかし情報がない限り、無鉄砲に動くこと無かれと姉上からは言いつけられているからねッ!! 姉上の言いつけを破ってしまうと、いくら僕たちルデオス兄妹でも命の危険があるッ!!」
「怖いですの〜、でもお姉様はあたくしにはお優しいのです〜。いっつもいっつも拷問道具の餌食にされているのはお兄様だけですのよ〜」
「はっはっは、止めてくれよ」
「無理ですの〜」

 と、そこへ振り子のように揺れている二人の間を、一羽の灰色の鳥が飛び去り、また戻ってきた。くるりと一回転して木の枝の上に座り、少年は右腕に鳥をとまらせる。鳥はかぱりと口を開け、くわあああん、と耳鳴りのような音を響かせた。

「ふむふむ、緑の髪をした剣士は、今も万全ではない様子だというのだねッ!! まったく、前任者のイルミカやゴルセディオの失態には言葉もないが、きっちり置きみやげを置いていってくれているというところだけは評価してやっても構わないなッ!!」
「あの二人は今頃、首都で拷問裁判にでも何にでもかけられてればいいんですの〜。つか、むしろ死んじゃってくれた方が、あたくしとしても楽ちんですし〜」
「そうだなッ!! イルミカが死ぬということは、自動的に『姉上の側近』というポジションの他に『各職の筆頭』というポジションも奪えてしまえるわけだねッ!! ここに新たな筆頭魔術師の誕生だッ!!」
「やーんお兄様ったら〜。ていうかそもそもあたくし魔術なんて使えませんのーよ〜?」

 恥じらうように身をくねらせ、少年と同じように少女も木の枝の上へ座る形をとった。

「ではお兄様、きちんと情報は手に入れましたわーよ〜? もうとっとと行ってしまいましょう〜」
「ああ、他のフレシアたちからも、おいおい情報は入ってくるだろうしねッ!! では第三楽章をッ!!」

 そう言って、二人は同時にふところからいびつな形をした笛を取り出した。不気味な灰色と黒のまだら模様が描かれているそれに、ためらいもなく口をつけ、息を吹き込む。
 常人には聞こえない、錯乱の音色が響き渡った。



◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



わいわいがやがやと、ガイルたちはカリナお手製のお弁当に舌鼓を打っていた。淡々と口元へ料理を運ぶネファン、がっついてカリナとガイルから容赦ないツッコミを入れられるヒュゼン、それを笑いながら眺めるベリアと、苦笑気味のフランツ。
 平和で平穏で……けれど、何かが一瞬で変わった。

「あ、兄貴じゃん」
「よぉー、めっちゃくちゃうっまそーじゃねぇか! なんだなんだ、カリナの弁当かぁ?」
「ええ、よかったらケゼンさんもいかがです?」
「おっ悪いねぇ、でもちょっと気になることあるからそっちの焼き菓子一つくれりゃーいいや」

 にへらーとした笑みを浮かべたまま、突然現れたケゼンはバスケットの中から焼き菓子をとりだし、一口で食べてしまった。その姿を見て、ベリアがぽかん、とした表情で言う。

「ケゼンさん、お行儀悪い!」
「わりーわりー、でもホントーに急いでんだっよっなー」
「どうしたんだよ兄貴、なんかすげー異様なテンションの高さじゃね? バトルの時ならともかく、フリーの時にその口調ってなかなか無いし」

 口の周りに食べかすをくっつけたまま、ヒュゼンが少し呆然とケゼンを見上げる。確かに、いつも町中を歩いているときはローテンションの二日酔い状態が常なのだが、今のケゼンは驚くほど元気がいい。ステントラと飲み比べをしているときよりも機嫌がいいなんて、あり得ない。

「いぃやー俺も別に好きでこんなハイテンションなわけじゃねーよ? けっどよー、なんかぞわぞわすんだよ。暴れたいっつーか」
「待てケゼン、お前が暴れたいとかそういう破壊衝動にかられるのは、事後処理が面倒だから本気でやめろ」

 と、そこで唐突にケゼンが顔をしかめ、両耳を勢いよく手で塞いだ。ガイルたちには、涼しいそよ風しか感じられなかったが。

「……うるっせぇな本当によ。ぴーきゃー喚かせやがって」
「あ、いつものテンションに戻った」

 眉をひそめたまま、猫背になって耳から手を離すケゼンを見て、ヒュゼンがつぶやいた。そのあまりの変わりように、全員がネファンのように沈黙する。
 そこで、ケゼンがその場を離れていくのを見たネファンが、食器をカリナに返し、大剣を背負って彼の跡を追いかけた。

「おいネファン、ケゼン、お前らどこに……」
「ガイル」

 低い声で名を呼ばれ、ガイルは片眉を少しだけ上げたが、席にしていた階段から軽く腰を浮かせたまま、続きを待つ。

「お前は、残れ。まだ使えない」
「!!」

 言い捨て、そのまま離れていくネファンの背を、ガイルは貫かんばかりの鋭い視線で睨みつけた。ぽんぽんと剣の柄にかけていた右手を叩かれ、はっとして視線を下げる。心配そうな表情を浮かべて、ベリアがガイルを見上げてきていた。

「ガイルさん、大丈夫?」
「……ああ、大丈夫、大丈夫だ」

 言って、ぐしゃぐしゃと彼女の柔らかな髪をかきまぜる。きゃーっと可愛らしい悲鳴を上げるベリアに頬をゆるませ、ガイルはまた階段に座り込んだ。隣から、ヒュゼンが何か言いたげな表情でこちらを伺ってきている。

「なんだ」
「いや、本当はむっつりというかロリ専たらしなんじゃ」
「死んでおけ」

 ズドゴッ!! と数週間前に腹に大穴を開けた人間のものとは思えないような、渾身の一撃をヒュゼンへ放った。