STRANGE - カゲナシ*横町



S T R A N G E




□ 第六巻 儚き夢の答え - 第一章 2.想い想われ
 二種類の異なる緑色の風が、大通りを疾駆する。鋭い金属音をBGMに、二人の舞踏は止まらない。

「あぁあ良い殺気ですわぁガイル様ぁっ!!! ペルソナ様に勝るとも劣らない、なんで、どうして私はこんなにも素敵すぎる方をこの世に放っておいてしまったのでしょう……っ」
「一生放っておけぇっ! 平穏を、俺の平穏を返しやがれぇええっ!!!」
「私はわがままな女、ガイル様の平穏よりも私自身の平穏を、つまりはガイル様と共に、連れ添い、歩み続けてゆく道を選ぶわぁ……」
「気色悪い気持ち悪いこっち来るなぁあああああああっっっ!!?」

 太陽の光を受けて煌めく若草色の髪をもつ人影は、もう一方の人影へ飛び込んでいったかと思えば、絶叫を上げて距離をとる。
 逆に、黒の混ざった濃い緑色の髪をもつ人影は、飛び込まれれば嬉しがり、距離をとられればその分を勢いよく追撃し、逃そうとはしない。
 剣士と盗賊。男と女で、敵同士。

「っでぇ……!」

 ガイルは剣を袈裟に振り抜き、なんとかナイト特有の技である『スライス』を発動させる。当たれば致命傷は避けられないレベルの鋭さで放たれたかまいたちは、しかしやはり満面の笑みで受け入れられる。

「………………あんた、化物か」
「っあぁ、そんな、化物だなんてぇ……褒めないでくださいな」
「褒めてねぇっ!!? わざわざ効力あげてぶっ飛ばそうとしてんのに、なんで突貫して血塗れになって笑顔!?」
「ふふ、意中の殿方からの一撃は、どんなに乱暴であっても抱擁できます私なら」
「それ逃げろっ……」

 攻撃を受け恍惚とした表情を浮かべながら身もだえている女、ヴィンスに背を向けて、ガイルは青白い顔でその場を離脱しようとする。

「お待ちになってぇ……?」
「ぐぁっ」

 だが、素早く伸ばされたワイヤーに足を絡み取られ、べたんっと勢いよく地面に激突してしまう。空気を無理矢理押し出され、「かふっ」と小さくえずいた。

「もう、ガイル様ったら、もう少し私と遊びましょう? せぇーっかく襲撃者の元締めが目の前にいるのにぃ、逃げようなんて」
「る、っせえ……相手が、悪すぎる」
「それに私は貴方以外と話す事なんて無いわっ!」
「この町には俺なんかよりずっとド変態で鬼畜な男がそろってっからそこへ行けぇええええええええっっっ!!!」

 なんで俺がこんなことを言わねばならんのだ、とココロの中で涙しながら、ガイルはゆっくりと起き上がった。ワイヤーはすでにヴィンスの腕に巻き直されており、その手の先で、綺麗に湾曲した曲芸用のナイフが輝く。

「う、ふ、ふ、ふ、ふぅ〜?」
「チッ」

 ずきりと脇腹が痛むが、顔を軽くしかめただけで、ガイルはヴィンスと距離をとるため走り出す。このままなんとか、城門のあたりで魔物の掃討を行っている《ガレアン》と合流し彼女を任せられれば、とまで考えて。

「ひどいですわガイル様……私を放って、どちらにぃ?」

 暗い笑みが、眼前に現れる。思わず足を止めたガイルの頬に、そっと指を添わせ、ゆっくりと撫でていく。

「ガイル様が構ってくださらないなら、今度は私が、遊ぶ番よね」

 人差し指が顎を捕らえ、親指が下唇を押さえる。そのまま唇が重なりそうになったところで、ガイルはハッと我に返り、遠慮容赦なくヴィンスの腹部へ膝蹴りを決める。

「あふぁっ!」
「っはぁ、っはあ! に、しやがる変態」

 口元に残る指の感触を拭うように、服の袖で強くこする。
 と、ガイルが向かおうとしていた城門の方から、鋭く甲高い笛の音が鳴り響いてきた。眉をひそめて顔を上げるガイルに、ヴィンスがにんまりと笑いかける。

「フィロットの正門突破、ってところかしら〜」
「なっ」

 絶句するガイル。思わず剣先を下げてしまった彼に、ヴィンスは容赦なく攻撃を繰り出す。ずいぶんと太く、長い……二またに分かれた漆黒の鞭。

「えいっ」

 楽しげな声と共に、空を切り裂きながら影が迫る。とっさに鞘も使って受け流そうとしたガイルだが、すぐさま絡め取られ、もう一方の鞭を顔面にもろに食らってしまう。

「がっ!?」
「まだまだよぉ!!」

 カツンッと石畳にヒールがぶつかる音。
 バシンッとガイルの体を鞭が叩き伏せる音。
 目で追い、気配で追い、受け流しはじき返しを繰り返していたガイルは、いつしか、鞭の本数が倍に増えていたことに気付く。

(ヤバッ)
「ふふ」

 怪しい声がこだまし、一方的な暴力が加えられる。ヴィンスが狙うのは、過去に彼女がつけた傷。

「がぁあっ!!?」

 四本の鞭で立て続けに脇腹を打たれたガイルは、たまらず絶叫を上げた。じわりと、そこから温かいものが流れ出してくるのがわかる。そして、もう二発、残り二発は、右のこめかみと首筋を。

「っ!」
「う、ふふふふ、ガイル様、やっと止まってくれましたわぁ」

 高らかにヒールを鳴らしながら、膝をついたガイルの前へヴィンスが近づく。唇の端から血の筋を流しながら、ガイルはなおも抵抗しようと、ヴィンスを睨み上げながら剣を握る手に力を込める。
 しかし、ヴィンスはそれを見た瞬間、冷酷な雰囲気をまとった無表情となり、容赦なく至近距離から鞭を振った。頭と、傷口とを、丁寧に狙って。

「ああ、この感じも、本当に最高……ペルソナ様に逆らうわけにはいかないから、こっちの感じはもうご無沙汰だったのよね〜」

 うつぶせに倒れたガイルの背をかかとで踏みつけ、ゆっくり捻りながら、ゴリ、メキ……と圧力を加えていく。

「が、ぐ……ぁあっ」
「ガイル様、ああガイル様、ここまで私についてこられた殿方は、本当に貴方が初めて……うふふふふふ」

 これほど優位に圧倒的に踏みにじられても、抵抗の色と敵意を失わないガイルの瞳をのぞき込み、ヴィンスは歓喜にうち震えた。体をかがませ、彼の頭髪を鷲づかみにし、無理矢理背をそらせる。その耳元に、唇を寄せ。

「貴方のことは本当に気に入ったから……殺さない。ずっとずっとずっとずっとずっとずっと私のところにいてもらうの」

 その言葉が終わると共に、かかとの位置がさらにずらされる。脇腹の傷口にめり込んだ瞬間の激痛に、一気に溢れた自身の血液……。

(……クソ、これ、さえなけりゃ)

 最後に、かたりと握っていた剣を揺らして、さらに襲いかかってきた痛みの嵐にガイルは気を失った。