□ 第六巻 儚き夢の答え - 第二章 7.白い再会 もう一度、しっかりと眠りについたはずなのに、ふと目が覚めた。 辺りを見回すと、先ほどよりもやけに鮮明に周囲の様子が見えて、他の面々がぐっすり眠っているのがわかった。 ただ、一人だけ姿が見えない。確か、今の時間は彼が見張りの当番だったはず。 ―――――。 呼ばれた、ような気がした。 それに、その場にいない見張り当番もどこへ行ったのか気になって、ゆっくりと、そばで眠っている人を起こさないように抜け出し、ふらふらと適当な茂みへ足を踏み入れた。 さくさくと、軽い音が響く。たまに吹き抜ける風が冷たくて、ああいつ冬が来るんだろう、なんて場違いなことを思ってしまう。 「来て、くれたね」 そんな風に、考え事をしていたからでもあるのか……。 ティルーナは歩いた先で出会った、見覚えのある純白の影に、思わず息を呑んだ。言葉が、見当たらなかった。 「私のこと、覚えてる?」 心配そうに尋ねられて、ゆっくりと頷き返す。すると、相手はあからさまにほっとした様子で、足音もなくティルーナへと近づいていった。 「あなたの大切な人や、大切な場所が大変なのは知ってるよ。見ていたから。私には、あなたを助けることができる。だから―――」 両手を差し出されて、ティルーナは無意識のうちに、自分も右手を持ち上げていた。そうして胸の高さまで持ち上げられた彼女の手を、真っ白で小さな両手が包み込もうとした、その瞬間。 「やめろ、リシェラ」 鋭い制止の声。 白い少女とティルーナは、声のした方向へ同時に振り返った。 「ステントラさん」 「なんで、どうしてなのステントラ。だって、だって、みんな大変なのにっ! こういうときに私の力、使うんじゃないの!?」 ヒステリックに叫ぶリシェラの言葉を無視するかのように、突然現れたステントラは無言で二人に近づき、そっとリシェラの手をティルーナの手から離した。 「いーか、リシェラ。お前はな、この件に関わっちゃいけないんだ。母ちゃんにも言われてただろ? 俺も自分でちゃんと伝えたしな。いいか、お前は、この件に関わるとろくな事にならん。あんまり天界抜け出すと、最悪監禁されるぞ」 淡々とした、ステントラの言葉に、リシェラはとうとう目尻から大粒の涙をこぼした。唇をとがらせ、上目遣いで精一杯目をつり上げながら、ステントラを睨みつける。 「そうやって、のけ者にする。私だって強いんだよ? 他のみんなとは確かに比べられないけど、でも!」 「今回の相手、長期的に見てお前の母ちゃんレベルだろうな……って、俺が言ったらどうするよ?」 手首をつかまれたまま、変わらない調子で言われた言葉に、リシェラは大きく目を見開いた。ティルーナは、ただ何を言うでもなく、ぼうっと成り行きを眺めている。 「お前は、一度目ぇつけられているんだからな。お前が目をつけられるってことは、相手もそれ相応の力を持ってる。だったら、お前の母ちゃんレベルかそれ以上じゃないと話にならない」 「そ、んなの、《地上》に、いるわけないじゃない。ステンいが」 「リシェラ!!!」 怒鳴られ、リシェラは「ひっ」と小さな悲鳴を上げて、肩をすくませた。ステントラは大きな、今までにないくらい腹の底から吐き出しているようなため息をついて、そっと手を離した。 「お前の気持ちは、嬉しいさ。一緒に戦おうって言ってくれてるのも、その気概も。ただ、今回は相手が悪すぎる。だから、酷なことを言うが、お前は母ちゃんと一緒に見守っててくれ。な?」 先ほどとは打って変わって、ひどく優しい声。ティルーナはそばにあった彼のマントの端を掴みながら、そう言う彼の顔をじっと見つめた。 と、しばらく俯いて嗚咽混じりに泣いていたリシェラだったが、ゆっくりと顔を上げると、無造作に握りしめた右手をティルーナへ向けた。 「ほえ?」 「……せめて、これくらいはいいでしょ?」 左手でティルーナの右手を掴み、手の平を上向かせて、握り拳を当てる。ゆっくりとリシェラが手を開くと、ティルーナの手の平の上に小さな白い羽根があった。 「あ、あの、これって」 「持ってて。使わないにこしたことはないんだけど、念のため」 そう言って、困惑したままのティルーナから一歩離れる。表情を変えないステントラのほうを一瞬だけ見て。 「負けないでね」 そう囁いて、リシェラの姿は溶けるようにしてその場から消えてしまった。 今の邂逅が夢ではないのだと、そう主張しているかのような純白の羽根を見つめるティルーナの頭に手を乗せて、ステントラはいつも通りの口調で言う。 「ティルーナ、戻っぞ。もう一眠りだ。次にはもう朝になって、突撃準備だ。作戦はまだよくまとまってないがなー」 「また前みたく無鉄砲作戦ですかー、運任せの作戦はおっそろしいですよ? まあフィロットの人達の強運は恐るべきところがありますけれど……」 ステントラに背を押され、ティルーナは他のメンバーが眠っているであろう場所へと歩いていく。 その途中、一瞬だけ振り返った彼女は、心の中だけであの白い少女に向けて、小さく礼の言葉をつぶやいた。 |